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第三章 生きることの罪
アダムの試練
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「アダムさん、あの……大丈夫ですか」
エフェルローンの思考に、ルイーズの心配そうな声が飛び込んで来る。
そんなルイーズの心配そうな顔を見つめながら、アダムは脂汗を手の甲でそっと拭うと、安心させるような笑みを浮かべてこう言った。
「あ、ああ……すみません。ちょっと眩暈がして……」
そう言うなり、アダムは剥き出しの地面の上に崩れる様に足を折る。
と、そんなアダムのただならぬ様子に、ダニーは「ただ事ではない」とばかりに顔を少し青くさせてこう言った。
「あ、アダム君! 大丈夫ですか、立てますか?」
「す、すみません……なんか、足に力が……入ら、なくて」
ダニーに片腕を掴まれたまま、アダムは額に脂汗を滲ませ、とうとうその場にへたり込んでしまう。
(何かを口にした訳でも、触れたわけでもない。どういうことだ――?)
エフェルローンは思考をフル回転し、アダムの至る所を注意深く調べ上げる。
そして直ぐに、一か所――アダムの体に異変を発見した。
「アダム、お前その首の傷は……」
そう言ったエフェルローンの視線の先。
そこには、赤黒く変色した傷口が、真一文字に浮かび上がっている。
「あ、傷口が……さっきはそんな跡、何処にもなかったのに」
ダニーが、驚いたようにそう言う。
ルイーズも、困惑しながらこう言った。
「さっきは只の薄い傷跡だけだったのに、どうして――」
そんな二人の会話から、エフェルローンはしてやられたとばかりにこう言った。
「毒か、くそっ……!」
そう言って、舌打ちするエフェルローンに。
ダニーが、困惑の表情を浮かべながらこう尋ねる。
「でも、さっきアダム君……薄く掠った程度だって。そのぐらいで一気に毒って回るものなんですか?」
ダニーのその問いに、エフェルローンは苦々し気にこう説明する。
「毒性が強ければ強い程、少量でも効果は発揮されるし致死率も上がる。ものによっては解毒剤も効かないものもあるらしい」
「そんな……」
ルイーズが、顔色を青くしながらそう呟く。
「先輩、どうしますか。魔術医師なら、複数名の方が来ているみたいですけど」
ダニーがそう言って広場を見る。
そこには、軍や憲兵に所属する魔法医師や、街の薬草医師たちが怪我人たちの治療に当たっていた。
「魔術医師か……」
そう言って、エフェルローンは腕を組む。
(魔術医師で毒の専門家か。毒を研究をしている魔術師は、それなりにいるかもしれないが……取り敢えず、探してみるか)
慎重にそう結論を出すエフェルローンよりも早く、ルイーズは本能的に口を開くと、広場に向かって叫んで言った。
「あの! 毒の専門家の方、いらっしゃいますかー? ここに、毒に置かされている人が一人いるんですー! お願いします、助けて下さーい!」
すると、ものの数秒も経たないうちに、腰に革のポーチを下げた女性がエフェルローンたちの下へやってきた。
女は、額の汗も気にせず、辺りを見回しながらこう言った。
「毒に犯されてるってのはどいつだい?」
女の問いに、ルイーズが弾かれたようにアダムの側に駆け寄る。
「あ、この人です!」
「どれ、見せてみな」
女は、ポーチから万年筆のような形の明かりを取り出すと、アダムの横にひざを折り、アダムを横抱きに抱き起すと、その両眼を食い入るように覗き込む。
それから、首元にある傷口をじっと見つめると、女は渋い顔をしてこう言った。
「まずいね、これは……グランシールでよく使われている即死性の高い毒だ。悪いが、これに関しては解毒剤がまだ作られてなくてね。力になれなくて悪いけど」
そう言うと、女はポーチにペンライトをしまい、徐に立ち上がる。
ルイーズは、青い顔をさらに青白くさせ、戸惑いながらこう言った。
「そんな……それじゃあアダムさんは、死……」
そう言って、口元に手を当て眉間に眉を寄せるルイーズに。
女は、困ったような笑みを浮かべると、ルイーズの肩を、軽く二回叩いてこう言った。
「まあまあ、落ち着きなって。話は最後まで聞くもんだよ、お嬢さん。実は今日、この街には巡回神父が来ていてね、神の力を授かっている方らしいから、そっちに頼んでみるといいかもしれないよ。神の力は万能だっていうからさ」
「巡回神父……って、あ」
ダニーが、思い出したと云わんばかりに声を上げる。
「先輩の傷を治して下さったあの少年神父様……!」
(そうだった、あの神父の力――あの力なら!)
エフェルローンも、「忘れてた」と云わんばかりに舌打ちすると、今まその方法に全く思い至らなかった自分への憤りも込めてこう怒鳴った。
「ルイーズ! 神父を探して連れて来てくれ。至急だ!」
「は、はい!」
そう言って、慌てて教会へ急ぐルイーズの後ろ姿を眺めながら。
女魔法医師は、苦し気に息をするアダムを悔しそうに見下ろすと、首に片手を当てながらこう言った。
「役に立てなくて悪かったね。それと、その子に幸あらんことを……」
そう言って、無念そうに去っていく女魔法医師を横目に。
「アダム君、どんどん顔色が悪くなっていきますね」
ダニーが、心配そうに手にしたハンカチでアダムの汗を拭う。
(アダム、頑張れ。死ぬんじゃないぞ……)
エフェルローンもそう心の中で強く願うと。
ルイーズと神父の到着を、今か今かとじりじりした想いを抱えながら、待ち続けるのであった。
エフェルローンの思考に、ルイーズの心配そうな声が飛び込んで来る。
そんなルイーズの心配そうな顔を見つめながら、アダムは脂汗を手の甲でそっと拭うと、安心させるような笑みを浮かべてこう言った。
「あ、ああ……すみません。ちょっと眩暈がして……」
そう言うなり、アダムは剥き出しの地面の上に崩れる様に足を折る。
と、そんなアダムのただならぬ様子に、ダニーは「ただ事ではない」とばかりに顔を少し青くさせてこう言った。
「あ、アダム君! 大丈夫ですか、立てますか?」
「す、すみません……なんか、足に力が……入ら、なくて」
ダニーに片腕を掴まれたまま、アダムは額に脂汗を滲ませ、とうとうその場にへたり込んでしまう。
(何かを口にした訳でも、触れたわけでもない。どういうことだ――?)
エフェルローンは思考をフル回転し、アダムの至る所を注意深く調べ上げる。
そして直ぐに、一か所――アダムの体に異変を発見した。
「アダム、お前その首の傷は……」
そう言ったエフェルローンの視線の先。
そこには、赤黒く変色した傷口が、真一文字に浮かび上がっている。
「あ、傷口が……さっきはそんな跡、何処にもなかったのに」
ダニーが、驚いたようにそう言う。
ルイーズも、困惑しながらこう言った。
「さっきは只の薄い傷跡だけだったのに、どうして――」
そんな二人の会話から、エフェルローンはしてやられたとばかりにこう言った。
「毒か、くそっ……!」
そう言って、舌打ちするエフェルローンに。
ダニーが、困惑の表情を浮かべながらこう尋ねる。
「でも、さっきアダム君……薄く掠った程度だって。そのぐらいで一気に毒って回るものなんですか?」
ダニーのその問いに、エフェルローンは苦々し気にこう説明する。
「毒性が強ければ強い程、少量でも効果は発揮されるし致死率も上がる。ものによっては解毒剤も効かないものもあるらしい」
「そんな……」
ルイーズが、顔色を青くしながらそう呟く。
「先輩、どうしますか。魔術医師なら、複数名の方が来ているみたいですけど」
ダニーがそう言って広場を見る。
そこには、軍や憲兵に所属する魔法医師や、街の薬草医師たちが怪我人たちの治療に当たっていた。
「魔術医師か……」
そう言って、エフェルローンは腕を組む。
(魔術医師で毒の専門家か。毒を研究をしている魔術師は、それなりにいるかもしれないが……取り敢えず、探してみるか)
慎重にそう結論を出すエフェルローンよりも早く、ルイーズは本能的に口を開くと、広場に向かって叫んで言った。
「あの! 毒の専門家の方、いらっしゃいますかー? ここに、毒に置かされている人が一人いるんですー! お願いします、助けて下さーい!」
すると、ものの数秒も経たないうちに、腰に革のポーチを下げた女性がエフェルローンたちの下へやってきた。
女は、額の汗も気にせず、辺りを見回しながらこう言った。
「毒に犯されてるってのはどいつだい?」
女の問いに、ルイーズが弾かれたようにアダムの側に駆け寄る。
「あ、この人です!」
「どれ、見せてみな」
女は、ポーチから万年筆のような形の明かりを取り出すと、アダムの横にひざを折り、アダムを横抱きに抱き起すと、その両眼を食い入るように覗き込む。
それから、首元にある傷口をじっと見つめると、女は渋い顔をしてこう言った。
「まずいね、これは……グランシールでよく使われている即死性の高い毒だ。悪いが、これに関しては解毒剤がまだ作られてなくてね。力になれなくて悪いけど」
そう言うと、女はポーチにペンライトをしまい、徐に立ち上がる。
ルイーズは、青い顔をさらに青白くさせ、戸惑いながらこう言った。
「そんな……それじゃあアダムさんは、死……」
そう言って、口元に手を当て眉間に眉を寄せるルイーズに。
女は、困ったような笑みを浮かべると、ルイーズの肩を、軽く二回叩いてこう言った。
「まあまあ、落ち着きなって。話は最後まで聞くもんだよ、お嬢さん。実は今日、この街には巡回神父が来ていてね、神の力を授かっている方らしいから、そっちに頼んでみるといいかもしれないよ。神の力は万能だっていうからさ」
「巡回神父……って、あ」
ダニーが、思い出したと云わんばかりに声を上げる。
「先輩の傷を治して下さったあの少年神父様……!」
(そうだった、あの神父の力――あの力なら!)
エフェルローンも、「忘れてた」と云わんばかりに舌打ちすると、今まその方法に全く思い至らなかった自分への憤りも込めてこう怒鳴った。
「ルイーズ! 神父を探して連れて来てくれ。至急だ!」
「は、はい!」
そう言って、慌てて教会へ急ぐルイーズの後ろ姿を眺めながら。
女魔法医師は、苦し気に息をするアダムを悔しそうに見下ろすと、首に片手を当てながらこう言った。
「役に立てなくて悪かったね。それと、その子に幸あらんことを……」
そう言って、無念そうに去っていく女魔法医師を横目に。
「アダム君、どんどん顔色が悪くなっていきますね」
ダニーが、心配そうに手にしたハンカチでアダムの汗を拭う。
(アダム、頑張れ。死ぬんじゃないぞ……)
エフェルローンもそう心の中で強く願うと。
ルイーズと神父の到着を、今か今かとじりじりした想いを抱えながら、待ち続けるのであった。
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