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第三章 生きることの罪
先輩と後輩と
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「よお、ダニー。偶然だなぁ、おい。それにしても、こんなところで何してんだ、お前」
怪訝そうにダニーを見つめるユーイングに。
ダニーは眉毛をキリキリと吊り上げると、真面目な顔でこう言った。
「仕事です、先輩」
そんなダニーを納得したように一瞥すると、次にユーイングはエフェルに向かってこう尋ねる。
「おい、エフェル。この黒づくめはお前らの敵か?」
(この状況下でユーイング先輩の戦力は貴重だ。使わない手はない――)
そう、心の中で計算すると、エフェルローンは短く答えてこう言った。
「はい」
「ふーん、なるほど。んじゃ……俺のかわいい後輩たちを苛める奴らは俺が許しませんよーってな、で……どいつを殺ればいい?」
呑気な口調でそう尋ねるユーイングに。
エフェルローンはユーイングの言葉に甘えてこう言った。
「その、リーダーらしき人を。俺は他の二人の相手をします」
(先輩、感謝します。後は、俺がきっちり仕留められれば……)
心の中でそう呟くと、エフェルローンは大胆にも黒ずくめの男二人に、じりじりとにじり寄っていく。
ユーイングは、不敵な笑みを浮かべて見せると、瞳に剣呑な光を湛えながらこう言った。
「さて、黒ずくめのおっさんよ。俺は、自分で言うのも何だけど、超一流の騎士よ、ほんと。それでもやり合おうってかい?」
そんなユーイングの圧に気圧されたのか、リーダー格の男はユーイングを探るように黙り込んだ。
「…………」
「何なら、全員……相手にしてやってもいいけど、さて……どうするよ?」
そう言って、首の後ろに乗せていた剣の先を地面に下した瞬間――。
「引くぞ……」
黒ずくめの男たちは、蜘蛛の子を散らしたように走り去っていく。
その後ろ姿を確認すると。
ユーイングは、腰の鞘に剣を無造作にしまい込んでこう言った。
「ま、当然だな」
そんなご満悦のユーイングを無視し、ダニーは唖然とした顔でこう言う。
「行っちゃいましたね……」
緊張の糸が切れた様に、ダニーは肩の力を抜いた。
エフェルローンも、額の脂汗を拭うと心の底からこう言う。
「先輩、助かりました」
(実際、ユーイング先輩が居なければどうなっていたか――)
そう言って、黙り込むエフェルローンに。
ユーイングはひらひらと片手を振ると、愉快そうにこう言った。
「なに、後輩が困ってるのを助けるのは先輩の責任ってな。まぁ、気にすんな。で……この初めて見る、この子は誰だい?」
そう言って、新顔の紹介を期待に満ちた顔で待つユーイングに、気の利くダニーは、早速アダムを紹介する。
「彼は、アダム・バートン君。今回の仕事の大事な証人なんです、先輩」
そう言って、いつになく真面目な顔のダニーを見たユーイングは、片手を顎に添えると、少し考えるような素振りを見せてこう言った。
「なるほど。さっきの黒ずくめの奴らといい……なんか、ヤバそうな匂いのする案件のようだけども、お前らだけで大丈夫なの? 何なら今日一日ぐらい、俺が手伝ってやってもいいけど?」
心底心配したようにそう言うユーイングに。
ダニーは口元を綻ばせると、嬉しそうにこう言った。
「えっ、良いんですか先輩! ユーイング先輩が居れば怖いものなしですね! ね、先輩!」
そう言って、エフェルローンに同意を求めるダニーに。
ユーイングは心底、感動したというようにこう言った。
「ダニー、ほんと……お前は素直でいい子だよねぇ。それに比べて、エフェルときたら……甘え下手で、おにーさん、超ー心配」
そう言って、これ見よがしに大きなため息をひとつ吐いて見せるユーイングに。
エフェルローンは、ムッとした顔でこう言った。
「……ほっといて下さい」
そんなつっけんどんなエフェルを困ったように見遣ると、ユーイングは諸手を上げてこう言った。
「はいはい。悪かった、悪かった、って。で、次は何処に行くつもりだい?」
「もう一人の同僚を探しに」
ムスッとそう言うエフェルローンに、ユーイングも少し怪訝そうな顔でこう言った。
「……その同僚の子、任務ほったらかしてどこに行っちゃったわけ?」
「子供が攫われそうになってるのを見てしまったらしく、助けに……」
苛立ち気味にそう答えるエフェルローンに、ユーイングはニヤリと笑うと面白そうにこう言った。
「なるほど。正義感の強い子な訳だー。なんか、エフェルと気が合いそうだねぇ。[正義万歳]みたいな?」
[正義万歳]をわざと強調して言うと、ユーイングは余程ツボに入ったのだろう。
くつくつと背中を丸めて笑い始めてしまう。
そんな失礼極まりないユーイングを前に、エフェルローンはムッとした顔をしながらこう言った。
「合いませんよ。あんな奴と一緒にしないで下さい」
「あんな奴、ねぇ……まあ、いいか。で、その……[あんな奴]は、今どこに?」
そう言って、辺りを見回すユーイングに。
(ったく、俺が聞きたいぐらいですよ。くそっ、ルイーズの奴……)
そう心の中でぼやくと、エフェルローンは颯爽と先陣を切って歩き出す。
そして、苛立ちを言葉の端々から迸らせながらこう言った。
「……今から探すんです。ユーイング先輩、俺の事……見失わないで着いて来て下さいよ」
怒りのオーラを背中から炎の様に燃え立たせると、エフェルローンはそう言って速足で歩いていく。
「おいおい、そりゃないだろー。背の高い俺に、小っさいお前を見失うなーなんて……って、お前……肩にダガーが突き刺さってんぞ?」
呆れた様に、そう指摘するユーイングに。
エフェルローンは、放っておいてくれと云わんばかりにこう言った。
「今ここで抜いたら失血が酷くて動けなくなりますから。このまましばらくこのままにしておきますよ」
そう言って、颯爽と混戦激しい広場へ出て行くエフェルローンを困ったように見つめると、ユーイングは「やれやれ……」というように肩を竦めるのであった。
怪訝そうにダニーを見つめるユーイングに。
ダニーは眉毛をキリキリと吊り上げると、真面目な顔でこう言った。
「仕事です、先輩」
そんなダニーを納得したように一瞥すると、次にユーイングはエフェルに向かってこう尋ねる。
「おい、エフェル。この黒づくめはお前らの敵か?」
(この状況下でユーイング先輩の戦力は貴重だ。使わない手はない――)
そう、心の中で計算すると、エフェルローンは短く答えてこう言った。
「はい」
「ふーん、なるほど。んじゃ……俺のかわいい後輩たちを苛める奴らは俺が許しませんよーってな、で……どいつを殺ればいい?」
呑気な口調でそう尋ねるユーイングに。
エフェルローンはユーイングの言葉に甘えてこう言った。
「その、リーダーらしき人を。俺は他の二人の相手をします」
(先輩、感謝します。後は、俺がきっちり仕留められれば……)
心の中でそう呟くと、エフェルローンは大胆にも黒ずくめの男二人に、じりじりとにじり寄っていく。
ユーイングは、不敵な笑みを浮かべて見せると、瞳に剣呑な光を湛えながらこう言った。
「さて、黒ずくめのおっさんよ。俺は、自分で言うのも何だけど、超一流の騎士よ、ほんと。それでもやり合おうってかい?」
そんなユーイングの圧に気圧されたのか、リーダー格の男はユーイングを探るように黙り込んだ。
「…………」
「何なら、全員……相手にしてやってもいいけど、さて……どうするよ?」
そう言って、首の後ろに乗せていた剣の先を地面に下した瞬間――。
「引くぞ……」
黒ずくめの男たちは、蜘蛛の子を散らしたように走り去っていく。
その後ろ姿を確認すると。
ユーイングは、腰の鞘に剣を無造作にしまい込んでこう言った。
「ま、当然だな」
そんなご満悦のユーイングを無視し、ダニーは唖然とした顔でこう言う。
「行っちゃいましたね……」
緊張の糸が切れた様に、ダニーは肩の力を抜いた。
エフェルローンも、額の脂汗を拭うと心の底からこう言う。
「先輩、助かりました」
(実際、ユーイング先輩が居なければどうなっていたか――)
そう言って、黙り込むエフェルローンに。
ユーイングはひらひらと片手を振ると、愉快そうにこう言った。
「なに、後輩が困ってるのを助けるのは先輩の責任ってな。まぁ、気にすんな。で……この初めて見る、この子は誰だい?」
そう言って、新顔の紹介を期待に満ちた顔で待つユーイングに、気の利くダニーは、早速アダムを紹介する。
「彼は、アダム・バートン君。今回の仕事の大事な証人なんです、先輩」
そう言って、いつになく真面目な顔のダニーを見たユーイングは、片手を顎に添えると、少し考えるような素振りを見せてこう言った。
「なるほど。さっきの黒ずくめの奴らといい……なんか、ヤバそうな匂いのする案件のようだけども、お前らだけで大丈夫なの? 何なら今日一日ぐらい、俺が手伝ってやってもいいけど?」
心底心配したようにそう言うユーイングに。
ダニーは口元を綻ばせると、嬉しそうにこう言った。
「えっ、良いんですか先輩! ユーイング先輩が居れば怖いものなしですね! ね、先輩!」
そう言って、エフェルローンに同意を求めるダニーに。
ユーイングは心底、感動したというようにこう言った。
「ダニー、ほんと……お前は素直でいい子だよねぇ。それに比べて、エフェルときたら……甘え下手で、おにーさん、超ー心配」
そう言って、これ見よがしに大きなため息をひとつ吐いて見せるユーイングに。
エフェルローンは、ムッとした顔でこう言った。
「……ほっといて下さい」
そんなつっけんどんなエフェルを困ったように見遣ると、ユーイングは諸手を上げてこう言った。
「はいはい。悪かった、悪かった、って。で、次は何処に行くつもりだい?」
「もう一人の同僚を探しに」
ムスッとそう言うエフェルローンに、ユーイングも少し怪訝そうな顔でこう言った。
「……その同僚の子、任務ほったらかしてどこに行っちゃったわけ?」
「子供が攫われそうになってるのを見てしまったらしく、助けに……」
苛立ち気味にそう答えるエフェルローンに、ユーイングはニヤリと笑うと面白そうにこう言った。
「なるほど。正義感の強い子な訳だー。なんか、エフェルと気が合いそうだねぇ。[正義万歳]みたいな?」
[正義万歳]をわざと強調して言うと、ユーイングは余程ツボに入ったのだろう。
くつくつと背中を丸めて笑い始めてしまう。
そんな失礼極まりないユーイングを前に、エフェルローンはムッとした顔をしながらこう言った。
「合いませんよ。あんな奴と一緒にしないで下さい」
「あんな奴、ねぇ……まあ、いいか。で、その……[あんな奴]は、今どこに?」
そう言って、辺りを見回すユーイングに。
(ったく、俺が聞きたいぐらいですよ。くそっ、ルイーズの奴……)
そう心の中でぼやくと、エフェルローンは颯爽と先陣を切って歩き出す。
そして、苛立ちを言葉の端々から迸らせながらこう言った。
「……今から探すんです。ユーイング先輩、俺の事……見失わないで着いて来て下さいよ」
怒りのオーラを背中から炎の様に燃え立たせると、エフェルローンはそう言って速足で歩いていく。
「おいおい、そりゃないだろー。背の高い俺に、小っさいお前を見失うなーなんて……って、お前……肩にダガーが突き刺さってんぞ?」
呆れた様に、そう指摘するユーイングに。
エフェルローンは、放っておいてくれと云わんばかりにこう言った。
「今ここで抜いたら失血が酷くて動けなくなりますから。このまましばらくこのままにしておきますよ」
そう言って、颯爽と混戦激しい広場へ出て行くエフェルローンを困ったように見つめると、ユーイングは「やれやれ……」というように肩を竦めるのであった。
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