正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

文字の大きさ
上 下
98 / 127
第三章 生きることの罪

先輩と後輩と

しおりを挟む
「よお、ダニー。偶然だなぁ、おい。それにしても、こんなところで何してんだ、お前」

 怪訝そうにダニーを見つめるユーイングに。
 ダニーは眉毛をキリキリと吊り上げると、真面目な顔でこう言った。

「仕事です、先輩」

 そんなダニーを納得したように一瞥すると、次にユーイングはエフェルに向かってこう尋ねる。

「おい、エフェル。この黒づくめはお前らの敵か?」

(この状況下でユーイング先輩の戦力は貴重だ。使わない手はない――)

 そう、心の中で計算すると、エフェルローンは短く答えてこう言った。

「はい」
「ふーん、なるほど。んじゃ……俺のかわいい後輩たちを苛める奴らは俺が許しませんよーってな、で……どいつをればいい?」

 呑気な口調でそう尋ねるユーイングに。
 エフェルローンはユーイングの言葉に甘えてこう言った。

「その、リーダーらしき人を。俺は他の二人の相手をします」

(先輩、感謝します。後は、俺がきっちり仕留められれば……)

 心の中でそう呟くと、エフェルローンは大胆にも黒ずくめの男二人に、じりじりとにじり寄っていく。
 ユーイングは、不敵な笑みを浮かべて見せると、瞳に剣呑な光を湛えながらこう言った。

「さて、黒ずくめのおっさんよ。俺は、自分で言うのも何だけど、超一流の騎士よ、ほんと。それでもやり合おうってかい?」
 
 そんなユーイングの圧に気圧されたのか、リーダー格の男はユーイングを探るように黙り込んだ。

「…………」
「何なら、全員……相手にしてやってもいいけど、さて……どうするよ?」

 そう言って、首の後ろに乗せていた剣の先を地面に下した瞬間――。

「引くぞ……」

 黒ずくめの男たちは、蜘蛛の子を散らしたように走り去っていく。
 その後ろ姿を確認すると。
 ユーイングは、腰の鞘に剣を無造作にしまい込んでこう言った。

「ま、当然だな」

 そんなご満悦のユーイングを無視し、ダニーは唖然とした顔でこう言う。

「行っちゃいましたね……」

 緊張の糸が切れた様に、ダニーは肩の力を抜いた。
 エフェルローンも、額の脂汗を拭うと心の底からこう言う。

「先輩、助かりました」

(実際、ユーイング先輩が居なければどうなっていたか――)

 そう言って、黙り込むエフェルローンに。
 ユーイングはひらひらと片手を振ると、愉快そうにこう言った。

「なに、後輩が困ってるのを助けるのは先輩の責任ってな。まぁ、気にすんな。で……この初めて見る、この子は誰だい?」

 そう言って、新顔の紹介を期待に満ちた顔で待つユーイングに、気の利くダニーは、早速アダムを紹介する。

「彼は、アダム・バートン君。今回の仕事の大事な証人なんです、先輩」

 そう言って、いつになく真面目な顔のダニーを見たユーイングは、片手を顎に添えると、少し考えるような素振りを見せてこう言った。

「なるほど。さっきの黒ずくめの奴らといい……なんか、ヤバそうな匂いのする案件のようだけども、お前らだけで大丈夫なの? 何なら今日一日ぐらい、俺が手伝ってやってもいいけど?」

 心底心配したようにそう言うユーイングに。
 ダニーは口元を綻ばせると、嬉しそうにこう言った。

「えっ、良いんですか先輩! ユーイング先輩が居れば怖いものなしですね! ね、先輩!」

 そう言って、エフェルローンに同意を求めるダニーに。
 ユーイングは心底、感動したというようにこう言った。

「ダニー、ほんと……お前は素直でいい子だよねぇ。それに比べて、エフェルときたら……甘え下手で、おにーさん、超ー心配」

 そう言って、これ見よがしに大きなため息をひとつ吐いて見せるユーイングに。
 エフェルローンは、ムッとした顔でこう言った。

「……ほっといて下さい」

 そんなつっけんどんなエフェルを困ったように見遣ると、ユーイングは諸手を上げてこう言った。

「はいはい。悪かった、悪かった、って。で、次は何処に行くつもりだい?」
「もう一人の同僚を探しに」

 ムスッとそう言うエフェルローンに、ユーイングも少し怪訝そうな顔でこう言った。

「……その同僚の子、任務ほったらかしてどこに行っちゃったわけ?」
「子供が攫われそうになってるのを見てしまったらしく、助けに……」

 苛立ち気味にそう答えるエフェルローンに、ユーイングはニヤリと笑うと面白そうにこう言った。

「なるほど。正義感の強い子な訳だー。なんか、エフェルと気が合いそうだねぇ。[正義万歳]みたいな?」

[正義万歳]をわざと強調して言うと、ユーイングは余程ツボにったのだろう。
 くつくつと背中を丸めて笑い始めてしまう。
 そんな失礼極まりないユーイングを前に、エフェルローンはムッとした顔をしながらこう言った。

「合いませんよ。あんな奴と一緒にしないで下さい」
「あんな奴、ねぇ……まあ、いいか。で、その……[あんな奴]は、今どこに?」

 そう言って、辺りを見回すユーイングに。

(ったく、俺が聞きたいぐらいですよ。くそっ、ルイーズの奴……)

 そう心の中でぼやくと、エフェルローンは颯爽と先陣を切って歩き出す。
 そして、苛立ちを言葉の端々から迸らせながらこう言った。

「……今から探すんです。ユーイング先輩、俺の事……見失わないで着いて来て下さいよ」

 怒りのオーラを背中から炎の様に燃え立たせると、エフェルローンはそう言って速足で歩いていく。

「おいおい、そりゃないだろー。背の高い俺に、小っさいお前を見失うなーなんて……って、お前……肩にダガーが突き刺さってんぞ?」

 呆れた様に、そう指摘するユーイングに。
 エフェルローンは、放っておいてくれと云わんばかりにこう言った。

「今ここで抜いたら失血が酷くて動けなくなりますから。このまましばらくこのままにしておきますよ」

 そう言って、颯爽と混戦激しい広場へ出て行くエフェルローンを困ったように見つめると、ユーイングは「やれやれ……」というように肩を竦めるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

透明の「扉」を開けて

美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。 ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。 自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。 知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。 特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。 悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。 この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。 ありがとう 今日も矛盾の中で生きる 全ての人々に。 光を。 石達と、自然界に 最大限の感謝を。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...