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第三章 生きることの罪
その男、ハイブリッド
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「ダニー!」
混戦の中、広場でアダムを守りながら、一人応戦するダニーを見つけ、エフェルローンは怒鳴って言った。
「ダニー! ルイーズは何処だ!」
「る、ルイーズさんは、子供が攫われそうになっているって言って、路地裏の方へ。クッ!」
(あの、馬鹿女! あれだけ、アダムを守るよう言っていたのに、この有様か――!)
そう言って舌打ちするものの、エフェルローンは直ぐに気持ちを切り替え、ダニーに指示を飛ばす。
「ダニー! これ以上、混戦に巻き込まれるなよ!」
「り、了解です!」
そして、後ろに呆然と立ちすくむアダムを見上げ、こう怒鳴る。
「アダム、俺から離れるな!」
「は、はい」
辺りを見回すと、至る所で騎士や憲兵、荷役の男たちが賊たちと交戦を繰り広げている。
いつその交戦のとばっちりを受け、怪我をするとも限らない。
エフェルローンは、突然の賊の襲撃に顔を強張らせるアダムを慮り、人気の少ない路地裏にひととき身を隠すことにする。
「ダニー、ここは混雑し過ぎてる! 人の少ない脇道に入るぞ!」
「了解です!」
そう言って、人の波を掻き分け脇道に入るダニーとアダム、そしてエフェルローン。
(……人は、誰もいないか。皆、家に入って扉を閉めている感じだな)
固く閉ざされた複数の扉をサッと見回すと、エフェルローンは路地の入口を見る。
そこからは、広間の喧騒がまるでコロシアムの特等席の様によく見えた。
「ふぅ……何とか脱出、出来ましたね」
ダニーがそう言って、黒いTシャツの襟首をパタパタと動かす。
エフェルローンは辺りを素早く見回すと、警戒を緩めずこう言った。
「だが、油断はできない。こういう所を奴らは好むからな……」
そう言って、エフェルローンが短剣に手を伸ばしたその瞬間――。
「ご名答。見つけたからには逃がす訳にはいかない。さて……アダムと日記、こちらへ渡して貰おうか」
(チッ、早速出やがったか……)
エフェルローンは、地面に唾を吐き捨てると、好戦的な笑みを浮かべてこう言った。
「いやだと云ったら?」
「我々は、出来るだけ穏便に事を運びたいのだ。無駄な争いは出来れば避けたいのだが」
そう言って、一歩、また一歩とエフェルローンたちの前に近づいて来る暗殺者の男に。
エフェルローンは業を煮やしてこう言い放った。
「悪いが、それは飲めない提案だ」
「ならば……」
そう言うと、暗殺者の男は指笛を吹く。
すると、路地の奥、さらには屋根上に黒ずくめの男たちが次々と現れる。
「屋根に二人、正面に三人……きついな」
(手っ取り早く収めるには、リーダーを潰すしかない、か――)
そう脳裏で素早く決断を下すと、エフェルローンはダニーにこう指示を出す。
「ダニー、俺の援護とアダムを守れ。俺は、頭の攻撃に徹する」
「り、了解です!」
と、同時に。
ダニーが[氷の雨]を唱え始める。
それを合図に、エフェルローンはリーダーらしき男の懐目掛けて飛び出していく。
そして、素早く腰から短剣を引き抜くと、男の首元目掛け飛び込んだ。
男は、それを冷静に弾き返す。
次の瞬間――。
ダニーの[氷の雨]が完成し、辺り一帯に鋭い氷の塊が雨の様に降り注いだ。
エフェルローンは小さな体でそれらを器用に避けると、再度、リーダーらしき男に迫り、体を回転させ勢いよく切り掛かる。
しかし――。
「うわぁ!」
氷の雨で仕損じた一人の暗殺者が、アダム目掛けて切り掛かっていく。
「くっ! [炎の矢]――!」
ダニーが慌てて呪文を口ずさむが、時すでに遅し――。
暗殺者の男が閃かせた一閃が、アダムの喉を確実に捕えた。
「――!」
と、その時――。
暗殺者の男の手首を卵大の大きさの石が襲う。
男は思わず手にしていた短剣を取り落とし、顔を苦痛に歪め手首を擦った。
「おい、こんなところで何やってる?」
路地の入口をのぞきこむように。
そこには、一人の男が奇妙な顔をして立っていた。
「お前は――」
敵か味方か――そう問いかける黒づくめの男の一人に。
路地の入口に立ちはだかる男は、剣呑な光を灯らせた鳶色の瞳をスッと細めると、黒づくめの男たちを瞬時に見回してこう言った。
「なんか、空から氷の塊が降って来るのが見えて、何となく気になって来てみたら……なんだ、この見るからに怪しげな黒ずくめたちは」
そう言って、眉間に縦皺を刻み路地裏に立ちはだかる男――。
エフェルローンは、まさかと思い弾かれた様に顔を路地の入口に向けた。
(おいおい、嘘だろ。こんな偶然って……)
エフェルローンは、見知ったその男を驚愕の表情で見つめる。
(でも、なんでこの人、こんな所に居るんだ――?)
そう心の中で問いかけるエフェルローンを尻目に。
ダニーはというと、その声の持ち主との偶然の巡り合わせに、酷く驚いたようにこう言った。
「あ……ユーイング、先輩――?」
ダニーが声を裏返し、そう呼んだその男――アルカサール王国第二師団・第二連隊副隊長イアン・ユーイング、二つ名を[雑種]のユーイングは、長剣を首の後ろに担ぐように乗せると、後ろ手に縛った中途半端な淡い灰茶色の髪をを鬱陶しそうに跳ね上げ、黒ずくめの男たちを訝しそうに眺め遣るのだった。
混戦の中、広場でアダムを守りながら、一人応戦するダニーを見つけ、エフェルローンは怒鳴って言った。
「ダニー! ルイーズは何処だ!」
「る、ルイーズさんは、子供が攫われそうになっているって言って、路地裏の方へ。クッ!」
(あの、馬鹿女! あれだけ、アダムを守るよう言っていたのに、この有様か――!)
そう言って舌打ちするものの、エフェルローンは直ぐに気持ちを切り替え、ダニーに指示を飛ばす。
「ダニー! これ以上、混戦に巻き込まれるなよ!」
「り、了解です!」
そして、後ろに呆然と立ちすくむアダムを見上げ、こう怒鳴る。
「アダム、俺から離れるな!」
「は、はい」
辺りを見回すと、至る所で騎士や憲兵、荷役の男たちが賊たちと交戦を繰り広げている。
いつその交戦のとばっちりを受け、怪我をするとも限らない。
エフェルローンは、突然の賊の襲撃に顔を強張らせるアダムを慮り、人気の少ない路地裏にひととき身を隠すことにする。
「ダニー、ここは混雑し過ぎてる! 人の少ない脇道に入るぞ!」
「了解です!」
そう言って、人の波を掻き分け脇道に入るダニーとアダム、そしてエフェルローン。
(……人は、誰もいないか。皆、家に入って扉を閉めている感じだな)
固く閉ざされた複数の扉をサッと見回すと、エフェルローンは路地の入口を見る。
そこからは、広間の喧騒がまるでコロシアムの特等席の様によく見えた。
「ふぅ……何とか脱出、出来ましたね」
ダニーがそう言って、黒いTシャツの襟首をパタパタと動かす。
エフェルローンは辺りを素早く見回すと、警戒を緩めずこう言った。
「だが、油断はできない。こういう所を奴らは好むからな……」
そう言って、エフェルローンが短剣に手を伸ばしたその瞬間――。
「ご名答。見つけたからには逃がす訳にはいかない。さて……アダムと日記、こちらへ渡して貰おうか」
(チッ、早速出やがったか……)
エフェルローンは、地面に唾を吐き捨てると、好戦的な笑みを浮かべてこう言った。
「いやだと云ったら?」
「我々は、出来るだけ穏便に事を運びたいのだ。無駄な争いは出来れば避けたいのだが」
そう言って、一歩、また一歩とエフェルローンたちの前に近づいて来る暗殺者の男に。
エフェルローンは業を煮やしてこう言い放った。
「悪いが、それは飲めない提案だ」
「ならば……」
そう言うと、暗殺者の男は指笛を吹く。
すると、路地の奥、さらには屋根上に黒ずくめの男たちが次々と現れる。
「屋根に二人、正面に三人……きついな」
(手っ取り早く収めるには、リーダーを潰すしかない、か――)
そう脳裏で素早く決断を下すと、エフェルローンはダニーにこう指示を出す。
「ダニー、俺の援護とアダムを守れ。俺は、頭の攻撃に徹する」
「り、了解です!」
と、同時に。
ダニーが[氷の雨]を唱え始める。
それを合図に、エフェルローンはリーダーらしき男の懐目掛けて飛び出していく。
そして、素早く腰から短剣を引き抜くと、男の首元目掛け飛び込んだ。
男は、それを冷静に弾き返す。
次の瞬間――。
ダニーの[氷の雨]が完成し、辺り一帯に鋭い氷の塊が雨の様に降り注いだ。
エフェルローンは小さな体でそれらを器用に避けると、再度、リーダーらしき男に迫り、体を回転させ勢いよく切り掛かる。
しかし――。
「うわぁ!」
氷の雨で仕損じた一人の暗殺者が、アダム目掛けて切り掛かっていく。
「くっ! [炎の矢]――!」
ダニーが慌てて呪文を口ずさむが、時すでに遅し――。
暗殺者の男が閃かせた一閃が、アダムの喉を確実に捕えた。
「――!」
と、その時――。
暗殺者の男の手首を卵大の大きさの石が襲う。
男は思わず手にしていた短剣を取り落とし、顔を苦痛に歪め手首を擦った。
「おい、こんなところで何やってる?」
路地の入口をのぞきこむように。
そこには、一人の男が奇妙な顔をして立っていた。
「お前は――」
敵か味方か――そう問いかける黒づくめの男の一人に。
路地の入口に立ちはだかる男は、剣呑な光を灯らせた鳶色の瞳をスッと細めると、黒づくめの男たちを瞬時に見回してこう言った。
「なんか、空から氷の塊が降って来るのが見えて、何となく気になって来てみたら……なんだ、この見るからに怪しげな黒ずくめたちは」
そう言って、眉間に縦皺を刻み路地裏に立ちはだかる男――。
エフェルローンは、まさかと思い弾かれた様に顔を路地の入口に向けた。
(おいおい、嘘だろ。こんな偶然って……)
エフェルローンは、見知ったその男を驚愕の表情で見つめる。
(でも、なんでこの人、こんな所に居るんだ――?)
そう心の中で問いかけるエフェルローンを尻目に。
ダニーはというと、その声の持ち主との偶然の巡り合わせに、酷く驚いたようにこう言った。
「あ……ユーイング、先輩――?」
ダニーが声を裏返し、そう呼んだその男――アルカサール王国第二師団・第二連隊副隊長イアン・ユーイング、二つ名を[雑種]のユーイングは、長剣を首の後ろに担ぐように乗せると、後ろ手に縛った中途半端な淡い灰茶色の髪をを鬱陶しそうに跳ね上げ、黒ずくめの男たちを訝しそうに眺め遣るのだった。
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