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第二章 秘められた悪意
ルイーズの反抗
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小鳥の囀る声が聞こえてくる。
使い慣れた革張りの椅子で目を覚ましたエフェルローンは、窓から差し込む陽の光に目を細め、徐ろに片手を頭上にかざした。
柔らかな風が、新鮮な空気を伴い室内に優しく吹き込んでくる。
翌日の、朝七刻半――。
眠りから目を覚ましたエフェルローンは、何気なく室内を見回した。
開け放たれたカーテンと窓、整えられた執務机にソファー、そして低机。
乱雑に投げ出されていた資料は纏められ、机の脇にきちんと並べ置かれている。
それらをしばらくぼーっと眺めていると。
執務室の扉が遠慮がちに開いた。
「……誰だ」
そう大儀そうに声を掛けるエフェルローンに。
紅茶色のショートボブの髪の娘――ルイーズは、淡い栗色の瞳を申し訳なさそうに伏せると、両足の踵を揃え、両手を前で重ねながら、もじもじしつつこう言った。
「す、すみません。起こしちゃいましたよね、へへ……」
そう言って片手で頭を搔くと。
ルイーズは、後ろ手に扉を閉め、思いっきり頭を下げるとこう言った。
「先輩、昨日は本当に……ごめんなさい!」
そう言って、一向に頭を上げる気配のないルイーズをぼんやり眺めると。
エフェルローンは、片手をひらひらさせてこう言った。
「気にするな。お前を運んだのは俺じゃない。礼ならダニーにするんだな」
すげなくそう言うエフェルローンに。
ルイーズは、素直に頷くとこう言った。
「はい、そうします……」
そう言ってしょんぼり肩を落とすルイーズ。
だが、すぐに何かを思い出したのだろう。
ソファーの前の低机に置いてあった、細長く折りたたまれた上品な紙を手に取ると、エフェルローンの執務机の上に滑らせてこう言った。
「朝、起きたら扉の脇に挟まってました。差出人は、あのキースリーです」
「キースリーって、お前……」
散々注意しても、頑として直そうとしないルイーズにげんなりしながらも。
エフェルローンは、その紙を手に取り折り目を開いていく。
そんなエフェルローンの背後から、ルイーズが神妙な顔で内容を伺う。
「なんて書いてあります?」
そう不安そうに尋ねてくるルイーズに。
エフェルローンは苦虫を嚙み潰したような表情をするとこう言った。
「『長官室に来い』とさ。今日の朝九刻だそうだ」
それを聞いたルイーズは、納得とばかりにこう言った。
「ソーヤーさんが言っていた通りになりましたね。やっぱり、公休中に勝手に捜査していたからですかね?」
そう問いかけるルイーズに。
エフェルローンは大きなため息をひとつ吐くと、面倒くさそうにこう言った。
「だろうな。まあ、それは想定内として……それよりも、アダムとの一件がバレていないことを願うばかりなんだが」
エフェルローンの脳裏に、昨日の[禁書室]での一件が頭を過ぎる。
そんなエフェルローンの心配をよそに。
ルイーズは、ムッとした表情をすると、うんざりしたようにこう言った。
「なんか面倒くさい人ですね、キースリーって……」
そう言って、深いため息と共にソファーにどかっと腰を下ろすルイーズに。
エフェルローンは思わず苦笑する。
確かに、イライアス・フォン・キースリーという男は、面倒くさい男だ。
だが、面倒くさいからと言って、適当にあしらえば気を悪くし、あらゆる手段をもってして攻撃を仕掛けてくる。
粘着質で、しつこくて、悪質で、プライド高い――それが、イライアス・フォン・キースリーという男であった。
キースリーの逆鱗に触れる前に。
なるべく早い段階でキースリーの顔を立てる必要がある。
そう判断したエフェルローンは、むくれるルイーズに命令だと言わんばかりにこう言った。
「九刻の少し前になったら、長官室に行くぞ」
そう言って、執務机に置かれた新聞を広げると。
エフェルローンはルイーズにそう短く告げる。
一方的にそう告げられたルイーズはというと。
視線を下に落とし、口をへの字に曲げるとこう言った。
「やっぱり、行くんですか……」
先の面会がトラウマになっているのだろうか。
ルイーズが眉間に皺をよせ、不安そうに俯く。
そんなルイーズを申し訳なさそうに見遣ると。
エフェルローンは困ったように肩を竦め、深いため息と共にこう言った。
「なに、こちらがつけ上がらなければ過度に心配する必要は無いさ。それに、細かい事は俺に任せておけばいい。したがってお前のすべき事は、『余計な事は言わない』――以上だ」
そう念を押すエフェルローンに。
ルイーズは、グッと後ろに仰け反ると、苦しい表情でこうい言った。
「そ、それは……難しいですね」
そう言って、眉間に皺を寄せるルイーズ。
と、そんな聞き分けの無いルイーズに。
エフェルローンはうんざりとした顔をすると、苛立たし気にこう言った。
「何も難しくないだろうが。ただ黙ってればいいんだから……」
呆れ顔でそう言うエフェルローンに。
ルイーズは「納得いかない」という表情をすると、口を一文字に引き結び、眉を顰めてこう言った。
「もし、この間みたいな事が起こったら? そうしたら私、何を言い出すか……」
眉間に更に縦皺を刻み、ルイーズはそう言って口をつぐむ。
エフェルローンに[魔魂石]を拾わせ、一人、悦に入っていたキースリー。
エフェルローンにとってはいつもの延長事ではあったが、ルイーズにとっては相当衝撃的な出来事だったのかもしれない。
「悪かったな、その……この間は変なものを見せて」
「…………」
恨めしそうな目でエフェルローンを軽く睨み付けるルイーズ。
そんな傷心気味のルイーズを。
エフェルローンは、今回ばかりは「私事」だからと言って、冷たく突き放すことは出来なかった。
――確かに。
プライドが邪魔し、いつものように[魔魂石]を拾えなかったのは、自分の至らなさだというのは認めざるを得ない。
だが、自分のプライドを守るためだけに、[魔魂石]を諦める事も、到底出来ない相談であった。
エフェルローンには、プライドよりも先に守らなくてはならない人――たった一人の家族で、実の姉でもあるリアがいるのである。
自分の心を殺してでも[魔魂石]を受け取り、過酷な任務を生き延びなければならない。
何としてでも――。
「この仕事をこなすに当たって、[魔魂石]は俺の命綱だ。どんなことをしてでも貰い損ねるわけにはいかない」
頑としてそう言い張るエフェルローンに。
ルイーズは苛立たしげにこう言った。
「だったら! これからは、[魔魂石]は私が拾います!」
「は?」
そんなルイーズの一方的な宣言に。
エフェルローンは、訳が分からずルイーズを思いっきり凝視する。
当のルイーズはというと。
「まいったか」と云わんばかりの笑みを口元に浮かべると、有無を言わせぬ口調でこう言った。
「先輩は私の上司。[魔魂石]を拾うなんていう仕事は下っ端のやる事です。だから、今度からは私が拾います。キースリーの好き勝手になんかさせません!」
ルイーズのそんな一方的な物言いに。
エフェルローンは、内側から沸き立つような強い不快感を覚え、声を荒げてこう怒鳴る。
「ふざけるな! それは俺の問題で、どうするかは俺が決めることだ! お前に一体、俺の何が分かるっていうんだ! 何も知らないお前ごときが、勝手に口を出すような事じゃないんだよ! それに、考えてみろ。あのキースリーがそれを許すと思うか?」
その言葉に、ルイーズの顔がみるみる赤くなる。
そして――。
「お、お前ごときって、何ですそれ! もうこうなったら、手も足も口も、全部出させて貰います! それでもしキースリーが何か言ってくるようなら、その時は……」
そう言うと、ルイーズはさらにこう言い放った。
「上に報告します! キースリーに文句は言わせません!」
エフェルローンはあまりに突飛な話に驚きを通り越してうんざりする。
キースリーの上――それはエフェルローンの知っている限り、今この国には一人しか存在しない。
「上って、お前……自分が何を言っているのか分かってるのか?」
「分かってますとも! 上と言えば、この国の最高責任者―—カーレル国王陛下です!」
「はぁ? 馬鹿を言うな。一介の貴族娘でしかないお前ごときの話に、陛下がそう簡単に耳を傾けると本気で思ってるのか?」
せせら笑うようにそう言うエフェルローンを、ルイーズはきっと睨むとこう言った。
「もちろんです! これでも私は陛下の―—!」
そう言ったところでハッと口を抑えるルイーズに。
エフェルローンは意地悪くこう尋ねる。
「は? 私は陛下のなんだって?」
そんな、血も涙もないエフェルローンの鋭い追及に。
ルイーズは歯切れも悪く、渋々ながらこう言った。
「と、ともかく。今後[魔魂石]に関しては私に任せて貰います。先輩はちゃんと上司らしく、ビシッとしていて下さい!」
そうぴしゃりと言い放つと。
ルイーズは、その背中に怒りのオーラを纏ったまま、執務室のドアノブを勢いよく回した。
「……おい、何処に行くんだ?」
ルイーズの剣幕に若干狼狽えながらも、そう強い語調で尋ねるエフェルローンに。
ルイーズは、深い憤りを宿した淡い栗色の瞳をエフェルローンに向けると、地を這うような低い声音でこう言った。
「キースリーのところ、行くんですよね?」
そう言って乱暴に扉を開けると、勢いよく部屋を飛び出していくルイーズ。
振り向く事も立ち止まる事もせず、肩を怒らせ足早に廊下を猛進していくルイーズを、そのまま好き勝手させる訳にもいかず。
エフェルローンは思わずチッと舌打ちする。
(くそっ、何で俺があんな小娘ごときに振り回されなくちゃいけないんだ……!)
そう思いながらも、追わずにはいられない自分に腹が立つ。
(くそっ、あの馬鹿娘が――!)
そう心の中で毒付くと。
エフェルローンは、その怒れる背中を仕方なく追って行くのであった。
使い慣れた革張りの椅子で目を覚ましたエフェルローンは、窓から差し込む陽の光に目を細め、徐ろに片手を頭上にかざした。
柔らかな風が、新鮮な空気を伴い室内に優しく吹き込んでくる。
翌日の、朝七刻半――。
眠りから目を覚ましたエフェルローンは、何気なく室内を見回した。
開け放たれたカーテンと窓、整えられた執務机にソファー、そして低机。
乱雑に投げ出されていた資料は纏められ、机の脇にきちんと並べ置かれている。
それらをしばらくぼーっと眺めていると。
執務室の扉が遠慮がちに開いた。
「……誰だ」
そう大儀そうに声を掛けるエフェルローンに。
紅茶色のショートボブの髪の娘――ルイーズは、淡い栗色の瞳を申し訳なさそうに伏せると、両足の踵を揃え、両手を前で重ねながら、もじもじしつつこう言った。
「す、すみません。起こしちゃいましたよね、へへ……」
そう言って片手で頭を搔くと。
ルイーズは、後ろ手に扉を閉め、思いっきり頭を下げるとこう言った。
「先輩、昨日は本当に……ごめんなさい!」
そう言って、一向に頭を上げる気配のないルイーズをぼんやり眺めると。
エフェルローンは、片手をひらひらさせてこう言った。
「気にするな。お前を運んだのは俺じゃない。礼ならダニーにするんだな」
すげなくそう言うエフェルローンに。
ルイーズは、素直に頷くとこう言った。
「はい、そうします……」
そう言ってしょんぼり肩を落とすルイーズ。
だが、すぐに何かを思い出したのだろう。
ソファーの前の低机に置いてあった、細長く折りたたまれた上品な紙を手に取ると、エフェルローンの執務机の上に滑らせてこう言った。
「朝、起きたら扉の脇に挟まってました。差出人は、あのキースリーです」
「キースリーって、お前……」
散々注意しても、頑として直そうとしないルイーズにげんなりしながらも。
エフェルローンは、その紙を手に取り折り目を開いていく。
そんなエフェルローンの背後から、ルイーズが神妙な顔で内容を伺う。
「なんて書いてあります?」
そう不安そうに尋ねてくるルイーズに。
エフェルローンは苦虫を嚙み潰したような表情をするとこう言った。
「『長官室に来い』とさ。今日の朝九刻だそうだ」
それを聞いたルイーズは、納得とばかりにこう言った。
「ソーヤーさんが言っていた通りになりましたね。やっぱり、公休中に勝手に捜査していたからですかね?」
そう問いかけるルイーズに。
エフェルローンは大きなため息をひとつ吐くと、面倒くさそうにこう言った。
「だろうな。まあ、それは想定内として……それよりも、アダムとの一件がバレていないことを願うばかりなんだが」
エフェルローンの脳裏に、昨日の[禁書室]での一件が頭を過ぎる。
そんなエフェルローンの心配をよそに。
ルイーズは、ムッとした表情をすると、うんざりしたようにこう言った。
「なんか面倒くさい人ですね、キースリーって……」
そう言って、深いため息と共にソファーにどかっと腰を下ろすルイーズに。
エフェルローンは思わず苦笑する。
確かに、イライアス・フォン・キースリーという男は、面倒くさい男だ。
だが、面倒くさいからと言って、適当にあしらえば気を悪くし、あらゆる手段をもってして攻撃を仕掛けてくる。
粘着質で、しつこくて、悪質で、プライド高い――それが、イライアス・フォン・キースリーという男であった。
キースリーの逆鱗に触れる前に。
なるべく早い段階でキースリーの顔を立てる必要がある。
そう判断したエフェルローンは、むくれるルイーズに命令だと言わんばかりにこう言った。
「九刻の少し前になったら、長官室に行くぞ」
そう言って、執務机に置かれた新聞を広げると。
エフェルローンはルイーズにそう短く告げる。
一方的にそう告げられたルイーズはというと。
視線を下に落とし、口をへの字に曲げるとこう言った。
「やっぱり、行くんですか……」
先の面会がトラウマになっているのだろうか。
ルイーズが眉間に皺をよせ、不安そうに俯く。
そんなルイーズを申し訳なさそうに見遣ると。
エフェルローンは困ったように肩を竦め、深いため息と共にこう言った。
「なに、こちらがつけ上がらなければ過度に心配する必要は無いさ。それに、細かい事は俺に任せておけばいい。したがってお前のすべき事は、『余計な事は言わない』――以上だ」
そう念を押すエフェルローンに。
ルイーズは、グッと後ろに仰け反ると、苦しい表情でこうい言った。
「そ、それは……難しいですね」
そう言って、眉間に皺を寄せるルイーズ。
と、そんな聞き分けの無いルイーズに。
エフェルローンはうんざりとした顔をすると、苛立たし気にこう言った。
「何も難しくないだろうが。ただ黙ってればいいんだから……」
呆れ顔でそう言うエフェルローンに。
ルイーズは「納得いかない」という表情をすると、口を一文字に引き結び、眉を顰めてこう言った。
「もし、この間みたいな事が起こったら? そうしたら私、何を言い出すか……」
眉間に更に縦皺を刻み、ルイーズはそう言って口をつぐむ。
エフェルローンに[魔魂石]を拾わせ、一人、悦に入っていたキースリー。
エフェルローンにとってはいつもの延長事ではあったが、ルイーズにとっては相当衝撃的な出来事だったのかもしれない。
「悪かったな、その……この間は変なものを見せて」
「…………」
恨めしそうな目でエフェルローンを軽く睨み付けるルイーズ。
そんな傷心気味のルイーズを。
エフェルローンは、今回ばかりは「私事」だからと言って、冷たく突き放すことは出来なかった。
――確かに。
プライドが邪魔し、いつものように[魔魂石]を拾えなかったのは、自分の至らなさだというのは認めざるを得ない。
だが、自分のプライドを守るためだけに、[魔魂石]を諦める事も、到底出来ない相談であった。
エフェルローンには、プライドよりも先に守らなくてはならない人――たった一人の家族で、実の姉でもあるリアがいるのである。
自分の心を殺してでも[魔魂石]を受け取り、過酷な任務を生き延びなければならない。
何としてでも――。
「この仕事をこなすに当たって、[魔魂石]は俺の命綱だ。どんなことをしてでも貰い損ねるわけにはいかない」
頑としてそう言い張るエフェルローンに。
ルイーズは苛立たしげにこう言った。
「だったら! これからは、[魔魂石]は私が拾います!」
「は?」
そんなルイーズの一方的な宣言に。
エフェルローンは、訳が分からずルイーズを思いっきり凝視する。
当のルイーズはというと。
「まいったか」と云わんばかりの笑みを口元に浮かべると、有無を言わせぬ口調でこう言った。
「先輩は私の上司。[魔魂石]を拾うなんていう仕事は下っ端のやる事です。だから、今度からは私が拾います。キースリーの好き勝手になんかさせません!」
ルイーズのそんな一方的な物言いに。
エフェルローンは、内側から沸き立つような強い不快感を覚え、声を荒げてこう怒鳴る。
「ふざけるな! それは俺の問題で、どうするかは俺が決めることだ! お前に一体、俺の何が分かるっていうんだ! 何も知らないお前ごときが、勝手に口を出すような事じゃないんだよ! それに、考えてみろ。あのキースリーがそれを許すと思うか?」
その言葉に、ルイーズの顔がみるみる赤くなる。
そして――。
「お、お前ごときって、何ですそれ! もうこうなったら、手も足も口も、全部出させて貰います! それでもしキースリーが何か言ってくるようなら、その時は……」
そう言うと、ルイーズはさらにこう言い放った。
「上に報告します! キースリーに文句は言わせません!」
エフェルローンはあまりに突飛な話に驚きを通り越してうんざりする。
キースリーの上――それはエフェルローンの知っている限り、今この国には一人しか存在しない。
「上って、お前……自分が何を言っているのか分かってるのか?」
「分かってますとも! 上と言えば、この国の最高責任者―—カーレル国王陛下です!」
「はぁ? 馬鹿を言うな。一介の貴族娘でしかないお前ごときの話に、陛下がそう簡単に耳を傾けると本気で思ってるのか?」
せせら笑うようにそう言うエフェルローンを、ルイーズはきっと睨むとこう言った。
「もちろんです! これでも私は陛下の―—!」
そう言ったところでハッと口を抑えるルイーズに。
エフェルローンは意地悪くこう尋ねる。
「は? 私は陛下のなんだって?」
そんな、血も涙もないエフェルローンの鋭い追及に。
ルイーズは歯切れも悪く、渋々ながらこう言った。
「と、ともかく。今後[魔魂石]に関しては私に任せて貰います。先輩はちゃんと上司らしく、ビシッとしていて下さい!」
そうぴしゃりと言い放つと。
ルイーズは、その背中に怒りのオーラを纏ったまま、執務室のドアノブを勢いよく回した。
「……おい、何処に行くんだ?」
ルイーズの剣幕に若干狼狽えながらも、そう強い語調で尋ねるエフェルローンに。
ルイーズは、深い憤りを宿した淡い栗色の瞳をエフェルローンに向けると、地を這うような低い声音でこう言った。
「キースリーのところ、行くんですよね?」
そう言って乱暴に扉を開けると、勢いよく部屋を飛び出していくルイーズ。
振り向く事も立ち止まる事もせず、肩を怒らせ足早に廊下を猛進していくルイーズを、そのまま好き勝手させる訳にもいかず。
エフェルローンは思わずチッと舌打ちする。
(くそっ、何で俺があんな小娘ごときに振り回されなくちゃいけないんだ……!)
そう思いながらも、追わずにはいられない自分に腹が立つ。
(くそっ、あの馬鹿娘が――!)
そう心の中で毒付くと。
エフェルローンは、その怒れる背中を仕方なく追って行くのであった。
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