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第二章 秘められた悪意
密偵の影
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カウンターの隅の席へと移動したエフェルローンは、正面に座ったダニーに一枚のしわくちゃな紙を突き付けるとこう言った。
「こんなものが手元に届いたんだが、どう思う?」
「んー」
突きつけられたその紙を。
ダニーは顔を近づけてじっと見つめるとこう言った。
「アダム君からの指定場所の指示ですか……ってことは、アダム君もここに?」
そう言って、辺りを見回すダニーに。
ルイーズがメニュー表を手に、言いにくそうにこう言った。
「それが、アダムさんはここには来ていなくて。代わりに小さな男の子が来てですね、それで先輩の手にその紙ごみを渡して行ったんです」
「小さな男の子? なんでまたアダム君はそんな手の込んだことを……」
そう言って、訝しみながら紙を片手で受け取るダニーに。
エフェルローンは、ウェイターに酒を注文しながらこう言った。
「まずは、内容を読んで見てくれ」
「はい。えっと……」
そう言うと、ダニーはくしゃくしゃのメモ紙に書かれた走り書きを目で追って読む。
注意深く検証するダニーに。
エフェルローンは前のめりにこう尋ねる。
「アダムからの伝言だって、断定できるか」
エフェルローンの真剣な問いに。
ダニーは、深いため息と共に腕組みすると、少し控えめにこう言った。
「そうですね……今置かれている状況からすると、ちょっとアダム君以外の誰かを疑いたくなりますよね」
「だよな」
そう言って腕を組むと、エフェルローンもフツリと黙る。
自然の流れを装っていたとはいえ、禁書室でアダムと接触したのは事実である。
アダムに監視が付いているのであれば、標的であるアダムと少しでも接触したエフェルローンたちに監視の目が付つかないはずはない。
後は、その中の誰か――エフェルローンたち三人のうち一人でも、アダムと連絡を取っていることが分かれば、晴れて[敵]の標的の仲間入りである。
いつ殺されてもおかしくはない。
フリージャーナリストのグラハム・エイブリーのように。
エフェルローンはその現実に、心の中で舌打ちした。
「やっぱり、マズいよな……」
「え、何がですか?」
眉間に縦皺を刻むエフェルローンを斜め前に、メニュー表と格闘していたルイーズが、きょとんとした顔でそう尋ねる。
そんな能天気なルイーズを眇めると、エフェルローンは深いため息をひとつ吐き、酷く投げやりにこう言った。
「お前が、アダムと会うことだよ。そうなると日記は手に入らず、事件はまた深い闇の中だ」
そう言って、いつの間にか運ばれてきた葡萄酒を、悔しそうに一口煽るエフェルローン。
そんなエフェルローンを苦笑気味に見遣ると。
ダニーも手元のパイナップルジュースを啜りながらこう言った。
「確かに、日記が手に入らないのは痛いですね。それに、ルイーズさんがアダム君と会うのも、僕らを狙っている相手に対してかなり無謀な行動です。出来れば別の方法を考えたいところですね」
そう言って、もう一口パイナップルジュースを啜るダニー。
そんなダニーを横目に。
ルイーズは葡萄酒の入った酒杯を持ちながら、考えあぐねる様にこう言った。
「でも、アダムさんとこんな風に伝言で連絡を取り合わなければいけない状況で、私たちに出来る事って、何かあるんでしょうか」
そう言って、少し俯くルイーズを斜め前に。
エフェルローンは、片手を顎に当てると、それを数回扱きながらこう言った。
「あまり上手い方法とは言えないが、上手くいけば目的を達成して、尚且つ監視の目を少しばかりごまかすことは出来るかもしれない」
そう、思考を整理するように答えるエフェルローンに。
ダニーは興味津々といった体でこう言った。
「へぇ、どんな手です?」
好奇心に目を輝かせるダニーに促され、エフェルローンは気乗りしない口を開いてこう言った。
「……アダムとルイーズ、俺とダニーの二組に分かれて[瞬間移動]と、[囁き]の魔法を駆使して切り抜ける方法だ」
「[瞬間移動]に、[囁き]ですか……」
ダニーが内容を理解しようと胸元からメモ帳を取り出し、何やらメモし始める。
そんなダニーを苦笑交じりに見遣ると、エフェルローンは真面目な顔で更にこう話を続ける。
「まずは、俺とダニーが図書館前で待つアダムとぶつかったふりをしてアダムにメッセージを渡す。メッセージには『図書館に入れ』と書いておく。そして、あらかじめ図書館内に[瞬間移動]で待機していたルイーズが、図書館に入ってきたアダムと一緒に[瞬間移動]する。行先はアダムに決めて貰ってくれ。そしたらルイーズがその行き先を俺に[囁き]、俺たちもルイーズたちと同じ場所に[瞬間移動]する」
「先輩、完璧です。そうすれば、アダム君と故意に接触しているようには見えませんし、しかも監視の目をごまかすことも出来て、一石二鳥ですね!」
ダニーが嬉々とした表情を浮かべ、親指を立てた。
そんなダニーを前に、エフェルローンは苦笑いしながらこう言う。
「まぁ、誤魔化せるのは少しの時間だけだけどな」
「じゃあ、このメモ紙の件はアダム君からものと仮定しておくということで良いですか?」
そう改めて尋ねてくるダニーに、エフェルローンは大きく頷くとこう言った。
「ああ。だが、アダムから再度連絡があった場合は……その時は、追々考えるとしよう」
「分かりました」
そう話がひと段落したところで。
ダニーが、思いだしたようにこう言った。
「そういえば。なんか、お腹空きません?」
そう尋ねるダニーに。
ルイーズが、今にも泣きだしそうな表情でこう言った。
「私はもう、お腹とお腹がくっつきそうです……」
そんなルイーズに思わず苦笑いすると、エフェルローンは肩の力を抜いてこう言った。
「それじゃ食事といくか。ウェイター、こっち頼む!」
そう言うと、エフェルローンたちは皆、それぞれに好きなものを注文するのであった。
「こんなものが手元に届いたんだが、どう思う?」
「んー」
突きつけられたその紙を。
ダニーは顔を近づけてじっと見つめるとこう言った。
「アダム君からの指定場所の指示ですか……ってことは、アダム君もここに?」
そう言って、辺りを見回すダニーに。
ルイーズがメニュー表を手に、言いにくそうにこう言った。
「それが、アダムさんはここには来ていなくて。代わりに小さな男の子が来てですね、それで先輩の手にその紙ごみを渡して行ったんです」
「小さな男の子? なんでまたアダム君はそんな手の込んだことを……」
そう言って、訝しみながら紙を片手で受け取るダニーに。
エフェルローンは、ウェイターに酒を注文しながらこう言った。
「まずは、内容を読んで見てくれ」
「はい。えっと……」
そう言うと、ダニーはくしゃくしゃのメモ紙に書かれた走り書きを目で追って読む。
注意深く検証するダニーに。
エフェルローンは前のめりにこう尋ねる。
「アダムからの伝言だって、断定できるか」
エフェルローンの真剣な問いに。
ダニーは、深いため息と共に腕組みすると、少し控えめにこう言った。
「そうですね……今置かれている状況からすると、ちょっとアダム君以外の誰かを疑いたくなりますよね」
「だよな」
そう言って腕を組むと、エフェルローンもフツリと黙る。
自然の流れを装っていたとはいえ、禁書室でアダムと接触したのは事実である。
アダムに監視が付いているのであれば、標的であるアダムと少しでも接触したエフェルローンたちに監視の目が付つかないはずはない。
後は、その中の誰か――エフェルローンたち三人のうち一人でも、アダムと連絡を取っていることが分かれば、晴れて[敵]の標的の仲間入りである。
いつ殺されてもおかしくはない。
フリージャーナリストのグラハム・エイブリーのように。
エフェルローンはその現実に、心の中で舌打ちした。
「やっぱり、マズいよな……」
「え、何がですか?」
眉間に縦皺を刻むエフェルローンを斜め前に、メニュー表と格闘していたルイーズが、きょとんとした顔でそう尋ねる。
そんな能天気なルイーズを眇めると、エフェルローンは深いため息をひとつ吐き、酷く投げやりにこう言った。
「お前が、アダムと会うことだよ。そうなると日記は手に入らず、事件はまた深い闇の中だ」
そう言って、いつの間にか運ばれてきた葡萄酒を、悔しそうに一口煽るエフェルローン。
そんなエフェルローンを苦笑気味に見遣ると。
ダニーも手元のパイナップルジュースを啜りながらこう言った。
「確かに、日記が手に入らないのは痛いですね。それに、ルイーズさんがアダム君と会うのも、僕らを狙っている相手に対してかなり無謀な行動です。出来れば別の方法を考えたいところですね」
そう言って、もう一口パイナップルジュースを啜るダニー。
そんなダニーを横目に。
ルイーズは葡萄酒の入った酒杯を持ちながら、考えあぐねる様にこう言った。
「でも、アダムさんとこんな風に伝言で連絡を取り合わなければいけない状況で、私たちに出来る事って、何かあるんでしょうか」
そう言って、少し俯くルイーズを斜め前に。
エフェルローンは、片手を顎に当てると、それを数回扱きながらこう言った。
「あまり上手い方法とは言えないが、上手くいけば目的を達成して、尚且つ監視の目を少しばかりごまかすことは出来るかもしれない」
そう、思考を整理するように答えるエフェルローンに。
ダニーは興味津々といった体でこう言った。
「へぇ、どんな手です?」
好奇心に目を輝かせるダニーに促され、エフェルローンは気乗りしない口を開いてこう言った。
「……アダムとルイーズ、俺とダニーの二組に分かれて[瞬間移動]と、[囁き]の魔法を駆使して切り抜ける方法だ」
「[瞬間移動]に、[囁き]ですか……」
ダニーが内容を理解しようと胸元からメモ帳を取り出し、何やらメモし始める。
そんなダニーを苦笑交じりに見遣ると、エフェルローンは真面目な顔で更にこう話を続ける。
「まずは、俺とダニーが図書館前で待つアダムとぶつかったふりをしてアダムにメッセージを渡す。メッセージには『図書館に入れ』と書いておく。そして、あらかじめ図書館内に[瞬間移動]で待機していたルイーズが、図書館に入ってきたアダムと一緒に[瞬間移動]する。行先はアダムに決めて貰ってくれ。そしたらルイーズがその行き先を俺に[囁き]、俺たちもルイーズたちと同じ場所に[瞬間移動]する」
「先輩、完璧です。そうすれば、アダム君と故意に接触しているようには見えませんし、しかも監視の目をごまかすことも出来て、一石二鳥ですね!」
ダニーが嬉々とした表情を浮かべ、親指を立てた。
そんなダニーを前に、エフェルローンは苦笑いしながらこう言う。
「まぁ、誤魔化せるのは少しの時間だけだけどな」
「じゃあ、このメモ紙の件はアダム君からものと仮定しておくということで良いですか?」
そう改めて尋ねてくるダニーに、エフェルローンは大きく頷くとこう言った。
「ああ。だが、アダムから再度連絡があった場合は……その時は、追々考えるとしよう」
「分かりました」
そう話がひと段落したところで。
ダニーが、思いだしたようにこう言った。
「そういえば。なんか、お腹空きません?」
そう尋ねるダニーに。
ルイーズが、今にも泣きだしそうな表情でこう言った。
「私はもう、お腹とお腹がくっつきそうです……」
そんなルイーズに思わず苦笑いすると、エフェルローンは肩の力を抜いてこう言った。
「それじゃ食事といくか。ウェイター、こっち頼む!」
そう言うと、エフェルローンたちは皆、それぞれに好きなものを注文するのであった。
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