正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

文字の大きさ
上 下
74 / 127
第二章 秘められた悪意

密偵の影

しおりを挟む
カウンターの隅の席へと移動したエフェルローンは、正面に座ったダニーに一枚のしわくちゃな紙を突き付けるとこう言った。

「こんなものが手元に届いたんだが、どう思う?」
「んー」

 突きつけられたその紙を。
 ダニーは顔を近づけてじっと見つめるとこう言った。

「アダム君からの指定場所の指示ですか……ってことは、アダム君もここに?」

 そう言って、辺りを見回すダニーに。
 ルイーズがメニュー表を手に、言いにくそうにこう言った。

「それが、アダムさんはここには来ていなくて。代わりに小さな男の子が来てですね、それで先輩の手にその紙ごみを渡して行ったんです」 
「小さな男の子? なんでまたアダム君はそんな手の込んだことを……」

 そう言って、訝しみながら紙を片手で受け取るダニーに。
 エフェルローンは、ウェイターに酒を注文しながらこう言った。

「まずは、内容を読んで見てくれ」
「はい。えっと……」

 そう言うと、ダニーはくしゃくしゃのメモ紙に書かれた走り書きを目で追って読む。
 注意深く検証するダニーに。
 エフェルローンは前のめりにこう尋ねる。

「アダムからの伝言だって、断定できるか」

 エフェルローンの真剣な問いに。
 ダニーは、深いため息と共に腕組みすると、少し控えめにこう言った。

「そうですね……今置かれている状況からすると、ちょっとアダム君以外の誰かを疑いたくなりますよね」
「だよな」

 そう言って腕を組むと、エフェルローンもフツリと黙る。
 
 自然の流れを装っていたとはいえ、禁書室でアダムと接触したのは事実である。
 アダムに監視が付いているのであれば、標的ターゲットであるアダムと少しでも接触したエフェルローンたちに監視の目が付つかないはずはない。
 後は、その中の誰か――エフェルローンたち三人のうち一人でも、アダムと連絡を取っていることが分かれば、晴れて[敵]の標的ターゲットの仲間入りである。

 いつ殺されてもおかしくはない。
 フリージャーナリストのグラハム・エイブリーのように。

 エフェルローンはその現実に、心の中で舌打ちした。

「やっぱり、マズいよな……」
「え、何がですか?」
 
 眉間に縦皺を刻むエフェルローンを斜め前に、メニュー表と格闘していたルイーズが、きょとんとした顔でそう尋ねる。
 そんな能天気なルイーズを眇めると、エフェルローンは深いため息をひとつ吐き、酷く投げやりにこう言った。

「お前が、アダムと会うことだよ。そうなると日記は手に入らず、事件はまた深い闇の中だ」

 そう言って、いつの間にか運ばれてきた葡萄酒ワインを、悔しそうに一口あおるエフェルローン。
 そんなエフェルローンを苦笑気味に見遣ると。
 ダニーも手元のパイナップルジュースを啜りながらこう言った。

「確かに、日記が手に入らないのは痛いですね。それに、ルイーズさんがアダム君と会うのも、僕らを狙っている相手に対してかなり無謀な行動です。出来れば別の方法を考えたいところですね」

 そう言って、もう一口パイナップルジュースを啜るダニー。
 そんなダニーを横目に。
 ルイーズは葡萄酒ワインの入った酒杯ゴブレットを持ちながら、考えあぐねる様にこう言った。

「でも、アダムさんとこんな風に伝言で連絡を取り合わなければいけない状況で、私たちに出来る事って、何かあるんでしょうか」

 そう言って、少し俯くルイーズを斜め前に。
 エフェルローンは、片手を顎に当てると、それを数回扱きながらこう言った。

「あまり上手い方法とは言えないが、上手くいけば目的を達成して、尚且つ監視の目を少しばかりごまかすことは出来るかもしれない」

 そう、思考を整理するように答えるエフェルローンに。
 ダニーは興味津々といった体でこう言った。

「へぇ、どんな手です?」

 好奇心に目を輝かせるダニーに促され、エフェルローンは気乗りしない口を開いてこう言った。

「……アダムとルイーズ、俺とダニーの二組に分かれて[瞬間移動テレポート]と、[囁きウィスパー]の魔法を駆使して切り抜ける方法だ」
「[瞬間移動テレポート]に、[囁きウィスパー]ですか……」

 ダニーが内容を理解しようと胸元からメモ帳を取り出し、何やらメモし始める。
 そんなダニーを苦笑交じりに見遣ると、エフェルローンは真面目な顔で更にこう話を続ける。

「まずは、俺とダニーが図書館前で待つアダムとぶつかったふりをしてアダムにメッセージを渡す。メッセージには『図書館に入れ』と書いておく。そして、あらかじめ図書館内に[瞬間移動テレポート]で待機していたルイーズが、図書館に入ってきたアダムと一緒に[瞬間移動テレポート]する。行先はアダムに決めて貰ってくれ。そしたらルイーズがその行き先を俺に[囁きウィスパー]、俺たちもルイーズたちと同じ場所に[瞬間移動テレポート]する」

「先輩、完璧です。そうすれば、アダム君と故意に接触しているようには見えませんし、しかも監視の目をごまかすことも出来て、一石二鳥ですね!」

 ダニーが嬉々とした表情を浮かべ、親指を立てた。
 そんなダニーを前に、エフェルローンは苦笑いしながらこう言う。

「まぁ、誤魔化せるのは少しの時間だけだけどな」
「じゃあ、このメモ紙の件はアダム君からものと仮定しておくということで良いですか?」

 そう改めて尋ねてくるダニーに、エフェルローンは大きく頷くとこう言った。

「ああ。だが、アダムから再度連絡があった場合は……その時は、追々考えるとしよう」
「分かりました」

 そう話がひと段落したところで。
 ダニーが、思いだしたようにこう言った。

「そういえば。なんか、お腹きません?」

 そう尋ねるダニーに。
 ルイーズが、今にも泣きだしそうな表情かおでこう言った。

「私はもう、お腹とお腹がくっつきそうです……」

 そんなルイーズに思わず苦笑いすると、エフェルローンは肩の力を抜いてこう言った。

「それじゃ食事といくか。ウェイター、こっち頼む!」

 そう言うと、エフェルローンたちは皆、それぞれに好きなものを注文するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...