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第二章 秘められた悪意
奇妙な伝言
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秋も夕方になると、薄い羽織ものが一枚欲しくなる。
そんな秋の夕暮れ。
王都ファルクの大通りを、エフェルローンとルイーズはゆっくりと歩いていた。
魔法仕掛けの街灯が点灯し、これからが本番という元気な大学生や、仕事帰りの陽気な男たちの群れが、そこかしこの酒場へと吸い込まれるように流れ込んでいく。
そんな賑やかしい大通りを少し脇にそれると。
エフェルローンたちが目指す安酒場が目に入る。
[蜂と女王]。
そこが、ダニーとの夕食を兼ねた作戦会議の指定場所であった。
肌寒さに身をすくませ、エフェルローンは目の前の扉を全身で押す。
一歩、店に足を踏み入れると、いつもの如く室内は若者の熱気と酒と食べ物のにおいで充満していた。
「さて、ダニーが来る前に席を取っておくとするか」
そう言って、エフェルローンは室内をぐるっと見渡す。
と、その時――。
「あんた」
見ず知らずの少年が、そう言ってエフェルローンに声を掛けてきた。
縮れた短めの赤毛に据わった青い瞳。
目つきの悪いその少年に、エフェルローンは警戒の色を強める。
(まさか、刺客……?)
その可能性を念頭に置き、エフェルローンは声を低め、こう尋ねる。
「誰だ、お前……」
そう身構えるエフェルローンに、少年は気分を害することも無く不愛想にこう言った。
「あんた、クェンビー伯爵?」
「…………」
相手が何を意図しているのか考えあぐね、だんまりを決め込むエフェルローンに。
それでも、少年はしつこくエフェルローンにこう言う。
「違うの? ねえ、どうなのさ」
目つきも悪くそう睨んでくる少年に。
エフェルローンは腰に帯びた短剣に指を忍ばせながらこう言う。
「もし、そうだと言ったら?」
目を怒らせ、そう問うエフェルローンに。
目つきの悪い少年は、ぶっきらぼうにこう言った。
「じゃあ、伝言」
そう言うと、少年はエフェルローンにくしゃくしゃに小さく丸められた紙くずを渡してくる。
「な……」
あっけにとられるエフェルローンをよそに。
目つきの悪い赤毛の少年は、満足そうにこう言った。
「よし、ちゃんと渡したからな」
そう言うと、少年は酒場の扉を押し開き、その隙間から風のように人ごみの中に消えて行った。
「伝言って……」
と、そんな少年の消えた扉を唖然と見つめるものの。
エフェルローンは手の中に押し込められた紙くずを改めて見つめた。
(嫌な予感しかしないが、開けてみるしかないよな……)
そう意を決すると、エフェルローンはその紙を丁寧に広げていく。
「誰からでしょうか」
ルイーズが興味津々といった体で、エフェルローンの後ろから覗き込んでくる。
紙を折り目に沿って広げ終えると、エフェルローンは早速中身を確認した。
するとそこには、黒いインクでこう走り書きされている。
――ルイーズさんの件。明後日、午前十の刻、図書館前で――A・B。
「A・Bって、アダムさんですよ! アダムさんからの連絡ですね」
そう断定するルイーズに。
エフェルローンは神妙な顔で首を捻ると、渋い顔でこう言った。
「アダムの奴、こんな方法で俺たちに情報を投げてくるとか。監視の目がよほど厳しいのか、それとも――」
そう言って、真面目な顔で考え込むエフェルローンに。
ルイーズは話が見えないとばかりにこう言う。
「それとも?」
そんなルイーズの問いかけに。
エフェルローンは、慎重に慎重を重ねてこう言った。
「アダムを装った[敵]のひっかけなのか」
「ひっかけ? ひっかけって……一体、何のために?」
ルイーズが、首をひねってそう言う。
そんなルイーズに、エフェルローンは自分に言い聞かせるようにこう言った。
「俺たちがアダムと繋がりがあることを確認する為……」
そう語尾を濁すエフェルローンに。
ルイーズは眉間にしわを寄せ、「わからない」というようにこう質問する。
「でも、それを確認したところで、一体[敵]に、何の意味があるんですか」
その問いに、エフェルローンは焦りにも似た焦燥感を覚えならこう言った。
「俺たちとアダムが繋がれば、アダムの持っている情報は俺たちにも伝わったと相手は考えるだろう。そうなると、事件を表ざたにしたくはない相手はどうする?」
「情報を得た人物を、あ……」
そう言って口元を抑えるルイーズにエフェルローンは皮肉な笑みを浮かべてこう言った。
「もしそれが事実なら、まずいな……」
そう言って、片手で顎を扱くエフェルローンの背後から、見知った顔が現れる。
長身痩躯の黒髪碧眼の男――。
「あ、ダニーさん! お疲れ様です」
そう元気に挨拶するルイーズに。
ダニーも機嫌よさそうにこう答える。
「お疲れ様、ルイーズさん。で、どうしたんです、なんか二人とも浮かない顔してますけど」
「ダニーさん、それが……」
そういって、エフェルローン共々渋い顔をするルイーズに。
ダニーは訳が分からずこう言う。
「まさか、アダム君との取引がなくなったとか……」
恐る恐るそう尋ねてくるダニーに。
エフェルローンは店内を素早く見渡すと、ダニーを手招きしてこう言った。
「話は席に着いてからゆっくりしよう。ルイーズ、席の確保!」
「了解です!」
そう言って、カウンターの隅に席を確保したルイーズを確認すると。
エフェルローンはダニーと共に、カウンターの隅の席に移動するのであった。
そんな秋の夕暮れ。
王都ファルクの大通りを、エフェルローンとルイーズはゆっくりと歩いていた。
魔法仕掛けの街灯が点灯し、これからが本番という元気な大学生や、仕事帰りの陽気な男たちの群れが、そこかしこの酒場へと吸い込まれるように流れ込んでいく。
そんな賑やかしい大通りを少し脇にそれると。
エフェルローンたちが目指す安酒場が目に入る。
[蜂と女王]。
そこが、ダニーとの夕食を兼ねた作戦会議の指定場所であった。
肌寒さに身をすくませ、エフェルローンは目の前の扉を全身で押す。
一歩、店に足を踏み入れると、いつもの如く室内は若者の熱気と酒と食べ物のにおいで充満していた。
「さて、ダニーが来る前に席を取っておくとするか」
そう言って、エフェルローンは室内をぐるっと見渡す。
と、その時――。
「あんた」
見ず知らずの少年が、そう言ってエフェルローンに声を掛けてきた。
縮れた短めの赤毛に据わった青い瞳。
目つきの悪いその少年に、エフェルローンは警戒の色を強める。
(まさか、刺客……?)
その可能性を念頭に置き、エフェルローンは声を低め、こう尋ねる。
「誰だ、お前……」
そう身構えるエフェルローンに、少年は気分を害することも無く不愛想にこう言った。
「あんた、クェンビー伯爵?」
「…………」
相手が何を意図しているのか考えあぐね、だんまりを決め込むエフェルローンに。
それでも、少年はしつこくエフェルローンにこう言う。
「違うの? ねえ、どうなのさ」
目つきも悪くそう睨んでくる少年に。
エフェルローンは腰に帯びた短剣に指を忍ばせながらこう言う。
「もし、そうだと言ったら?」
目を怒らせ、そう問うエフェルローンに。
目つきの悪い少年は、ぶっきらぼうにこう言った。
「じゃあ、伝言」
そう言うと、少年はエフェルローンにくしゃくしゃに小さく丸められた紙くずを渡してくる。
「な……」
あっけにとられるエフェルローンをよそに。
目つきの悪い赤毛の少年は、満足そうにこう言った。
「よし、ちゃんと渡したからな」
そう言うと、少年は酒場の扉を押し開き、その隙間から風のように人ごみの中に消えて行った。
「伝言って……」
と、そんな少年の消えた扉を唖然と見つめるものの。
エフェルローンは手の中に押し込められた紙くずを改めて見つめた。
(嫌な予感しかしないが、開けてみるしかないよな……)
そう意を決すると、エフェルローンはその紙を丁寧に広げていく。
「誰からでしょうか」
ルイーズが興味津々といった体で、エフェルローンの後ろから覗き込んでくる。
紙を折り目に沿って広げ終えると、エフェルローンは早速中身を確認した。
するとそこには、黒いインクでこう走り書きされている。
――ルイーズさんの件。明後日、午前十の刻、図書館前で――A・B。
「A・Bって、アダムさんですよ! アダムさんからの連絡ですね」
そう断定するルイーズに。
エフェルローンは神妙な顔で首を捻ると、渋い顔でこう言った。
「アダムの奴、こんな方法で俺たちに情報を投げてくるとか。監視の目がよほど厳しいのか、それとも――」
そう言って、真面目な顔で考え込むエフェルローンに。
ルイーズは話が見えないとばかりにこう言う。
「それとも?」
そんなルイーズの問いかけに。
エフェルローンは、慎重に慎重を重ねてこう言った。
「アダムを装った[敵]のひっかけなのか」
「ひっかけ? ひっかけって……一体、何のために?」
ルイーズが、首をひねってそう言う。
そんなルイーズに、エフェルローンは自分に言い聞かせるようにこう言った。
「俺たちがアダムと繋がりがあることを確認する為……」
そう語尾を濁すエフェルローンに。
ルイーズは眉間にしわを寄せ、「わからない」というようにこう質問する。
「でも、それを確認したところで、一体[敵]に、何の意味があるんですか」
その問いに、エフェルローンは焦りにも似た焦燥感を覚えならこう言った。
「俺たちとアダムが繋がれば、アダムの持っている情報は俺たちにも伝わったと相手は考えるだろう。そうなると、事件を表ざたにしたくはない相手はどうする?」
「情報を得た人物を、あ……」
そう言って口元を抑えるルイーズにエフェルローンは皮肉な笑みを浮かべてこう言った。
「もしそれが事実なら、まずいな……」
そう言って、片手で顎を扱くエフェルローンの背後から、見知った顔が現れる。
長身痩躯の黒髪碧眼の男――。
「あ、ダニーさん! お疲れ様です」
そう元気に挨拶するルイーズに。
ダニーも機嫌よさそうにこう答える。
「お疲れ様、ルイーズさん。で、どうしたんです、なんか二人とも浮かない顔してますけど」
「ダニーさん、それが……」
そういって、エフェルローン共々渋い顔をするルイーズに。
ダニーは訳が分からずこう言う。
「まさか、アダム君との取引がなくなったとか……」
恐る恐るそう尋ねてくるダニーに。
エフェルローンは店内を素早く見渡すと、ダニーを手招きしてこう言った。
「話は席に着いてからゆっくりしよう。ルイーズ、席の確保!」
「了解です!」
そう言って、カウンターの隅に席を確保したルイーズを確認すると。
エフェルローンはダニーと共に、カウンターの隅の席に移動するのであった。
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