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第二章 秘められた悪意
正義の鉄槌
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(クローディアの父上が、[爆弾娘]事件の黒幕?)
エフェルローンは思わず息を呑んだ。
内心動揺するエフェルローンに代わり、ダニーが熱心に話に喰らい付いていく。
「バックランド侯爵といえば、この国の領主の中でも智謀・知略に長けた人物と聞きます。そんな人がなぜ暴走なんて……」
信じられないという風に、ダニーはそう言って言葉を濁す。
だが、エフェルローンには心当たりがある。
王宮内でよく耳にしたバックランド侯爵に関しての噂。
そう、彼の二つ名は何と言った――?
「[国法と刑律の王]――それが、バックランド侯爵の異名です。名は体を現すとはよく言ったもので、これは的を射ています。裏を返せば[無慈悲の王]――それが彼です」
彼の家の家紋――それは、国家に対するどんな小さな悪をも完全に叩きのめす、そう願いが込められた[正義の鉄槌]ではなかったか。
「つまり、彼は何事も[やり過ぎる]って事か」
エフェルローンはそう言って唇を噛む。
繋がりの無くなった今なら分かる。
バックランド侯爵が、なぜ王宮内で[諸刃の剣]と言われ、危険視されていたのかが。
エフェルローンのその言葉に、アダムは深く頷いた。
「国の為ならば、何でもする。それこそ、人を殺すことも街を破壊する事も厭わない。正義において無慈悲になれる男――それが、バックランド侯爵です。そして――」
そう言葉を切ると、アダムは一呼吸置いてこう続けた。
「不幸な事件――[爆弾娘]事件は起きてしまった」
「バックランド侯爵のことは良く分かりました。でも、そんなバックランド侯爵の暴走と、[爆弾娘]事件。これはどう繋がってくるんですか?」
ルイーズは胸の前で小さく両手を組むと、不思議そうにそう言った。
そんなルイーズを、一瞬、愛おしそうに見つめるものの、アダムはすぐに視線をエフェルローンへと移し、さらに説明を加えていく。
「丁度その頃、バックランド領内ではグランシール軍とのにらみ合いが続いていました。理由は、アルカサール王国内にある鉱山の所有権に関して大きな問題が持ち上がっていたからです」
「グランシール帝国が、アルカサールの領土の一部が自分たちのものであると主張し始めた事に端を発する、国益に関する争いのことだな」
エフェルローンはそう言って腕を組んだ。
その説明に大きく頷くと、アダムは更に説明を続けていく。
「そうです。元々アルカサールの領地の一部であるタルシス山から、大量の鉱物が取れるようになると、グランシール帝国は、その山を『自分たちの領土』だと主張し始めたのです。ですが、そのような事実も裏付けも、歴史上一切ありません。それで、義憤に燃えたバックランド侯爵が動きました」
「どんな風に動いたんです?」
ルイーズが好奇心も露にそう尋ねる。
そのルイーズの問いに。
アダムは一瞬、傷ましそうな顔をするも。
それでもきっぱりと、しかも迷うことなくこう言い切った。
「国王の承諾も得ず、国益の為という理由で、あの事件―—[爆弾娘]事件を起こしたのです。グランシール帝国へ物理的、そして心理的に強烈な一撃を食らわせる為に……」
その余りに強烈な内容に。
エフェルローンは、「信じられない」とばかりにこう言った。
「バックランド侯爵が[爆弾娘]事件を起こした? つまり、爆殺を仕組んだって、そういうのか……?」
あの人一倍、正義感の強いバックランド侯爵が?
――嘘だろ。
エフェルローンは、そう心の中で呆然と呟く。
国家の利益の為とはいえ、ひとつの街を、多くの人たちの命と生活を奪う。
これはもはや、国家の大儀とはいえない。
――ただの大量虐殺。
(もしこれが真実なら――)
エフェルローンの背筋に冷たいものが走る。
そう事の重大さに思わず震撼するエフェルローンの両眼を見つめながら。
アダムはきっぱりとこう言い切る。
「これは嘘じゃありません、伯爵。これこそが、あの[爆弾娘]事件の真実。実際、その事件の全容を知っていた父は、あまりの罪の重さに耐えかね、自殺しました」
「そ、そんな……」
ルイーズはそう言うと、口元を押さえ息を呑んだ。
ダニーも、あまりの事の大きさに言葉を失っている。
(バックランド侯爵が、[爆弾娘]事件の、大量虐殺の黒幕――?)
エフェルローンは何度も自分にそう問いかける。
(正義に命を懸けていたあの人が、そう簡単に人を……)
――本当に、本当にこれは……真実、なのか。
あまりに信じ難い話に。
エフェルローンは一人、考えに沈むのであった。
エフェルローンは思わず息を呑んだ。
内心動揺するエフェルローンに代わり、ダニーが熱心に話に喰らい付いていく。
「バックランド侯爵といえば、この国の領主の中でも智謀・知略に長けた人物と聞きます。そんな人がなぜ暴走なんて……」
信じられないという風に、ダニーはそう言って言葉を濁す。
だが、エフェルローンには心当たりがある。
王宮内でよく耳にしたバックランド侯爵に関しての噂。
そう、彼の二つ名は何と言った――?
「[国法と刑律の王]――それが、バックランド侯爵の異名です。名は体を現すとはよく言ったもので、これは的を射ています。裏を返せば[無慈悲の王]――それが彼です」
彼の家の家紋――それは、国家に対するどんな小さな悪をも完全に叩きのめす、そう願いが込められた[正義の鉄槌]ではなかったか。
「つまり、彼は何事も[やり過ぎる]って事か」
エフェルローンはそう言って唇を噛む。
繋がりの無くなった今なら分かる。
バックランド侯爵が、なぜ王宮内で[諸刃の剣]と言われ、危険視されていたのかが。
エフェルローンのその言葉に、アダムは深く頷いた。
「国の為ならば、何でもする。それこそ、人を殺すことも街を破壊する事も厭わない。正義において無慈悲になれる男――それが、バックランド侯爵です。そして――」
そう言葉を切ると、アダムは一呼吸置いてこう続けた。
「不幸な事件――[爆弾娘]事件は起きてしまった」
「バックランド侯爵のことは良く分かりました。でも、そんなバックランド侯爵の暴走と、[爆弾娘]事件。これはどう繋がってくるんですか?」
ルイーズは胸の前で小さく両手を組むと、不思議そうにそう言った。
そんなルイーズを、一瞬、愛おしそうに見つめるものの、アダムはすぐに視線をエフェルローンへと移し、さらに説明を加えていく。
「丁度その頃、バックランド領内ではグランシール軍とのにらみ合いが続いていました。理由は、アルカサール王国内にある鉱山の所有権に関して大きな問題が持ち上がっていたからです」
「グランシール帝国が、アルカサールの領土の一部が自分たちのものであると主張し始めた事に端を発する、国益に関する争いのことだな」
エフェルローンはそう言って腕を組んだ。
その説明に大きく頷くと、アダムは更に説明を続けていく。
「そうです。元々アルカサールの領地の一部であるタルシス山から、大量の鉱物が取れるようになると、グランシール帝国は、その山を『自分たちの領土』だと主張し始めたのです。ですが、そのような事実も裏付けも、歴史上一切ありません。それで、義憤に燃えたバックランド侯爵が動きました」
「どんな風に動いたんです?」
ルイーズが好奇心も露にそう尋ねる。
そのルイーズの問いに。
アダムは一瞬、傷ましそうな顔をするも。
それでもきっぱりと、しかも迷うことなくこう言い切った。
「国王の承諾も得ず、国益の為という理由で、あの事件―—[爆弾娘]事件を起こしたのです。グランシール帝国へ物理的、そして心理的に強烈な一撃を食らわせる為に……」
その余りに強烈な内容に。
エフェルローンは、「信じられない」とばかりにこう言った。
「バックランド侯爵が[爆弾娘]事件を起こした? つまり、爆殺を仕組んだって、そういうのか……?」
あの人一倍、正義感の強いバックランド侯爵が?
――嘘だろ。
エフェルローンは、そう心の中で呆然と呟く。
国家の利益の為とはいえ、ひとつの街を、多くの人たちの命と生活を奪う。
これはもはや、国家の大儀とはいえない。
――ただの大量虐殺。
(もしこれが真実なら――)
エフェルローンの背筋に冷たいものが走る。
そう事の重大さに思わず震撼するエフェルローンの両眼を見つめながら。
アダムはきっぱりとこう言い切る。
「これは嘘じゃありません、伯爵。これこそが、あの[爆弾娘]事件の真実。実際、その事件の全容を知っていた父は、あまりの罪の重さに耐えかね、自殺しました」
「そ、そんな……」
ルイーズはそう言うと、口元を押さえ息を呑んだ。
ダニーも、あまりの事の大きさに言葉を失っている。
(バックランド侯爵が、[爆弾娘]事件の、大量虐殺の黒幕――?)
エフェルローンは何度も自分にそう問いかける。
(正義に命を懸けていたあの人が、そう簡単に人を……)
――本当に、本当にこれは……真実、なのか。
あまりに信じ難い話に。
エフェルローンは一人、考えに沈むのであった。
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