正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

疑心暗鬼

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――事件の裏に、本当の[黒幕]?

 エフェルローンは思わず自分に問いかける。

 もし黒幕が居るのなら、日記がなくなった理由にも説明が付く。
 それに、ギルやディーンの無念もある意味晴らすことが出来る。

(これは、偶然の一致か? それとも――)

 まるで心を読んでいるかのような、アダムのその奇妙な問い掛けに。
 エフェルローンは背筋に冷たいものを感じる。

 だが――。

 と、エフェルローンは思う。

 アダムが、全面的に信頼に足るかと言われると、それは否である。
 もしかしたら、憲兵庁の息の掛かった者で、エフェルローンたちに探りを入れているだけなのかもしれない。

 もしそうだと推察するならば。

 エフェルローンたちの行動は、上に筒抜けということになる。
[不当捜査]や[禁書閲覧]を理由に自宅謹慎、最悪、懲戒免職ということもあり得る。
 エフェルローンは、慎重に、言葉を選びながらこう言った。

「お前、一体何者なんだ……?」

 エフェルローンのその問いに。
 アダムは、困ったような笑みを浮かべると、両手を軽く上げながらこう言った。

「神に誓って言う。僕は あなたの敵じゃない、クェンビー伯爵。ただ僕は、真実を……僕の父が死ななければならなかった事件の、その真相を世の中の多くの人々に知って貰い、そして願わくば、父の無念を――」
 
 そういって、目を伏せるアダムを。
 エフェルローンは、疑惑の眼差しで凝視する。

(真実なのか、それとも嘘なのか……)
 
――ただ、こいつに弄ばれているだけなのか。

 エフェルローンは自分に自問する。

 そんな、疑心暗鬼のエフェルローンを前に。
 アダムは、重いため息をひとつ吐くと、意を決したようにこう言った。

「証拠があります」
「証拠……?」

  エフェルローンのその問いに。
 アダムは、エフェルローンの双眸をしっかり見据えながら、きっぱりとこう言い切る。

「はい、揺るぎない証拠がひとつ」

 そう断言するアダムに。
 エフェルローンも意を決すると、腕を組みながらこう言った。

「その証拠が確信に足るものならば……いいだろう、捕まえてやる。ただし、動くのは俺一人だ」

 そう言うと、エフェルローンはダニーとルイーズに有無を言わせぬ低い声でこう言い放つ。

「ルイーズ、ダニー。今すぐここから出ろ」

 しかし、そんなエフェルローンの一方的な物言いに。
 ルイーズとダニーは「納得できない」とばかりに頬を膨らませると、噛み付かんばかりの勢いでこう言った。

「嫌です、私も手伝います! 先輩を一人、危険に曝すなんて出来ません!」
「僕も嫌ですよ! ここまで追いかけてきた案件を中途半端なまま放置するだなんて。それとも、僕では力になれないとでも?」

 ルイーズはそうエフェルローンに詰め寄り、ダニーは納得いかないと恨みがましくエフェルローンを睨む。

 そんな聞き分けの悪い二人の後輩に。

 エフェルローンは大きなため息を一つ吐くと、襟元に指を掛けながら苛立ちも隠さずこう言った。

「……いいか、この話は下手をすれば国家を敵に回すことにもなりかねない話だ。最悪、本当に命を落とすかもしれない。そんな危険な案件にお前たちを巻き込むわけにはいかない。分かったなら、さっさとここから出ろ」

 そう高圧的に命令するエフェルローンに、ダニーは首を横に振ってこう抵抗する。

「僕らの命を守るためにそう言って下さる先輩には、ほんとに、感謝しかありません。でも、先輩。それでも僕は先輩に付いて行きたいんです! ここまで知ってしまったからには、黒幕からの監視が付くのも時間の問題でしょうし。それなら、出来るだけ早く真実を日の光の下に曝して、この危険な状況自体を打開するのが得策ではないかと、僕はそう思います」
「私も、[爆弾娘リズ・ボマー]事件の裏に黒幕が居るのなら、その黒幕が誰なのか知りたいです。それに、隠された真実があるのなら、それを多くの人に知ってもらいたい。そのためなら、私、囮でもデートでも何でもします!」 

 ルイーズもそう言うと、頑として一歩も譲ろうとしない。

「…………」

 そんな二人を眼前に。
 エフェルローンは困ったように頭を掻くと、アダムに向き直ってこう言った。

「……こんな訳で。お前の言う[黒幕]の捕獲は 俺たちでやることになった。お前の希望通りではないかもしれないが、まあ、出来る限りやってみるよ」

 エフェルローンのその言葉に、ルイーズとダニーがパッと顔を輝かせ、互いに頷き合う。
 エフェルローンにダニーにルイーズ――その三人の中に強い絆を見たアダムは、彼らを眩しそうに見つめると、確信に満ちた声でこう言った。
 
「あなた方が信頼に足る人たちだということが、良く分かりました。では、早速ですが」

 そう前置きすると。
 アダムは三人の顔を端から一通り眺め見遣り、ひと呼吸おいてこう言った。

「僕が掴んでいる[爆弾娘リズ・ボマー]事件の情報全て……皆さんにお話しましょう」

 そう言うと、アダムはその重い口をゆっくり開き始めるのであった。
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