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第二章 秘められた悪意
永久の眠り
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――約束の午後二の刻。
エフェルローンたちは、再び図書館を訪れていた。
「えっと、アダム君は……」
そう言って、図書館の中をぐるりと見回すダニー。
すると、ダニーの視界から約数フィール(約数メートル)先の方に、書架に本を並べるアダムの姿が目に留まる。
「あ、アダム君、ここ! ここです……!」
周りに気を使いながら、なるべく小さな声でそうアダムを呼ぶダニー。
その声に気付いたのだろう。
ディスプレイ付きの書架に新刊を並べていたアダムがダニーの方を見た。
そして、すぐに作業の手を止めると。
アダムは、ゆっくりとした足取りでエフェルローンたちの側までやって来るとこう言った。
「先輩、それに伯爵。ルイーズさんも、お疲れさまです」
そう型通りの挨拶をするアダム。
そんなアダムに、エフェルローンは単刀直入にこう言った。
「約束の時間だ。例の件は?」
そんな気忙しいエフェルローンに。
アダムは、苦笑気味に答えて言った。
「問題なく」
そう言うと、胸ポケットから一枚の紙を取り出し、それをエフェルローンの眼前にスッと差し出す。
「お望みの[許可証]です」
その[許可証]を、複雑な表情で見つめるエフェルローンに。
アダムは意地悪くこう言った。
「気が引けますか、伯爵?」
人を脅してまで手に入れた、禁書室の[許可証]――実際、気分の良いものではない。
だが――。
エフェルローンは鼻を鳴らすと、「どうとでも無い」というようにこう言った。
「別に。それより、早く禁書を閲覧したいんだが」
そう言って、先を急ぐエフェルローンに。
アダムは、やはり苦笑しつつこう言った。
「分かりました。じゃあ、行きましょうか」
そう言ってアダムが案内した扉、それは――。
カウンターの中央、その奥まったところにある地味な作りの一枚扉。
「カウンターの後ろですか。それにしても、地味な扉ですね」
ルイーズがそう素直な感想を漏らす。
「[禁書]ですからね。魔法で厳重に保管してあるとはいえ、いつ何が起こるか分かりませんから。そんな訳で、防犯もかねて人の目に付きやすいこの場所に、目立たないように設置されているという訳です。木は森の中に隠せって言いますしね」
得意げにそう蘊蓄を垂れるダニーに、ルイーズが納得したように頷いた。
「なるほど」
そんな二人の会話がひと段落つくのを見計らうと。
アダムはエフェルローンに向き直り、その決意を試すかのようにこう尋ねた。
「さて、心の準備はいいですか」
その問いに。
エフェルローンは迷うことなくこう言った。
「ああ、問題ない」
「では。どうぞ、中に……」
そう言って、扉をゆっくりと押し広げていくアダムに促され、エフェルローンたちは、その扉の奥にある保管室の中へと足を踏み入れる。
と、同時に。
いままで、真っ暗だった室内がうっすらと明るさを帯び始めた。
「うわっ、凄い仕組みですね」
ルイーズが驚いたように目を見開く。
そんなルイーズの驚きに、ダニーがここぞとばかりにちょっとした豆知識を披露する。
[火]の魔法の一種ですね。人が来ると設置された蝋燭に明かりが灯るように魔法がかけられているんです」
「へぇー」
そう言って、感嘆の声を上げるルイーズを愛おしそうに眺め遣ると。
視線を足元の下に移したアダムは、その下に続く長い階段を見つめながらこう言った。
「ここからは地下に降りる階段が続きますから、足元には十分気を付けて」
そう言って、自ら細くて急な階段を先導するアダム。
そんなアダムに着いて行くこと数十秒。
目の前に、整然と並べられた書架の群れが姿を現す。
「これが[禁書管理室]ですか……思ってたより少し広いですね」
ダニーはそう言って興味深そうに顎に手を当てた。
そんなダニーに続くように、ルイーズも自分の感想を口にしてこう言う。
「それに、もう少しじめっとした感じを想像していたんですけど、そうでもないですね」
ルイーズが、禁書室の壁面に手を触れながらそう言った。
「ここは、魔法で湿度や温度の管理されているので、カビも生えないらしいですよ。ちなみに、本を平積みしないのは、紙と紙がへばりついてしまったりしない為だとか」
ダニーはそう言って、本棚の本を取り出してハラパラとめくって見せる。
「へー、なるほど。確かに一枚一枚へばりつくことなく綺麗に保管されていますね」
ルイーズはダニーの手元の本を覗き込むと、感心したようにそう言った。
禁書は、四方の壁一面に配置された本棚に整然と並べられている。
本とはいっても、元々は各魔術師たちの研究レポートのようなものなので、中には本の形を成していないものも多い。
そういうものは全部、厚紙で出来た袋状のファイルにそのままファイリング・タグ付けされ、保管されていた。
「それじゃ、僕はいったん上に戻ります。後は、どうぞご自由に」
そう言って、図書カウンターの方へと去っていくアダムを無言で見送ると。
エフェルローンは、迷うことなく部屋の真ん中に置かれている大きな長方形の机に近付いた。
その机の上には、一冊の分厚い本がこれ見よがしに置かれている。
それを見つけたルイーズが、不思議そうにこう尋ねた。
「なんですか、それ。本みたいですけれど……しまわなくていいんですかね?」
ルイーズのその問いに、エフェルローンはこう答えた。
「それは、ここに来た人間が何の禁書を調べたかを記録する閲覧書だ。それを調べれば、いつ、誰が、何の禁書を調べたかが分かる。つまり……」
「ディーンさんやギルさんたちが何を調べたかが分かる。そう云う訳ですね!」
なるほど、というようにダニーが相槌を打った。
「ほー、それだと一冊一冊探す手間が省けていい感じですね!」
ルイーズがそう言って顔を輝かせる。
どうやら彼女は、本を一冊一冊調べないといけないと、そう思っていたらしい。
「さて、ギルたちが何を調べていたのか調べるとするか」
そう言って、エフェルローンは早速閲覧書を開いた。
ルイーズとダニーもエフェルローンの背後から閲覧書を覗き込む。
先ずは、閲覧者からディーン、もしくはギルの名前を探す。
「あ、ギルさんの名前があります!」
ルイーズがそう声を上げ、名前の部分を指差した。
「閲覧したものはなんですかね?」
そう言って、ダニーが興味深そうに名前の横を指で追っていく。
そして、そこに書かれていた内容、それは――。
「[精神増強]……」
そう呟いたエフェルローンの言葉に、ダニーが同情するような口調でこう言った。
「……ギル先輩、自分の魔術能力に関して何か悩んでいたんですかね」
「ギルさんって、精神力《ヌス》が乏しかったんですか?」
そんなルイーズの素朴な問いに、エフェルローンは首を横に振ってこう答えた。
「そんなことは無いな。あいつの精神力の高さは魔術師団の中でも五本の指に入る。今なら、四年前の俺と同じくらい、いやそれ以上の精神力はあったはずだ」
「[精神増強]かぁ。今回の事件とどんな関係があるんでしょうね……」
そう言って、深刻そうな顔で悩む男たち二人を前に。
ルイーズは、ぽんと手を叩くと、「閃いた」というようにこう言った。
「[精神増強]は、きっとギルさんにとってプロテインだったんですよ! ほら、趣味で筋肉を鍛えている人たちってプロテイン使いますよね? ギルさんも、精神力を鍛えるために使いたかったんじゃないですか、[精神増強]……」
そんなルイーズの閃きに。
エフェルローンはムッとしたように眉を顰めると、閲覧書をじっと睨みがらこう言った。
「精神力は、本来、魔法を使うことで鍛えられるものだ。決して魔法で生み出した何かによって永久に鍛えられることはない。たとえ[禁書]に書かれた魔術でそれが出来るとしても、あいつは……ギルは、そんな万物の法則を捻じ曲げるような魔術を使うはずはない。絶対に……」
まるで、自分に言い聞かせるかのようにそう語るエフェルローンに。
ルイーズは申し訳なさそうにこう言った。
「は、はは、そうですよね……すみません」
そんなルイーズの謝罪の言葉を最後に。
三人の間を、しばしの沈黙が支配する。
と、そのとき――。
「おや? どうしたんです、皆さん。なんだか空気が重苦しいようですけど。早速、仲間割れですか」
嫌味たらしくそう言ったのは、ついさっき、上のカウンターに戻ったはずのアダムであった。
「用があって戻ってきてみれば……」
呆れた様にそう言うと、アダムは大きなため息をひとつ吐くと、わざとらしくこう言った。
「何か、僕に出来る事はあります?」
軽い口調でそう言うアダムの右腕には、何かの資料が大事そうに抱えられていた。
その資料を。
エフェルローンは何気なく目で追う。
そんなエフェルローンの視線に気付いたのだろう。
アダムはその資料を両手で持つと、エフェルローンたちの目の前の机に広げてこう言った。
「ギル・ノーランド捜査官の部屋から見つかったものらしいですよ。なんでも、禁書を写した危ない資料らしいので、ここで管理する事になったそうです」
「[禁書の写し]、か」
(自分で使うためか、それとも誰かに渡す為か)
「[誰か]、か……」
エフェルローンは顎に片手を当ててじっと資料を見つめる。
(ギルがアデラと繋がっていたというなら、アデラに禁書の一部が渡った可能性がある、ということか)
「禁書の写しっていうことは、[精神増強]の魔法の写しってことになるのでしょうか?」
その問いに、ダニーが頷きながらこう答える。
「現状の情報から推測すると、理論上はそうなるでしょうね」
しかし、その話を聞いていたアダムは不思議そうにこう言った。
「あの、差し出がましいようで申し訳ないんですけど、僕が渡されたのは[精神増強]の魔法の写しではありませんでしたよ」
「じゃあ、何の――」
そう怪訝そうに眉を顰めるエフェルローンに。
アダムは、別段渋ることも無く、至極あっさりとこう言った。
「[永久《とわ》の眠り]――対象を半永久的に眠らせ続ける魔術だとか」
――[永久《とわ》の眠り]。
その言葉に。
エフェルローンは一人、深い思考の闇の中へ沈むのであった。
エフェルローンたちは、再び図書館を訪れていた。
「えっと、アダム君は……」
そう言って、図書館の中をぐるりと見回すダニー。
すると、ダニーの視界から約数フィール(約数メートル)先の方に、書架に本を並べるアダムの姿が目に留まる。
「あ、アダム君、ここ! ここです……!」
周りに気を使いながら、なるべく小さな声でそうアダムを呼ぶダニー。
その声に気付いたのだろう。
ディスプレイ付きの書架に新刊を並べていたアダムがダニーの方を見た。
そして、すぐに作業の手を止めると。
アダムは、ゆっくりとした足取りでエフェルローンたちの側までやって来るとこう言った。
「先輩、それに伯爵。ルイーズさんも、お疲れさまです」
そう型通りの挨拶をするアダム。
そんなアダムに、エフェルローンは単刀直入にこう言った。
「約束の時間だ。例の件は?」
そんな気忙しいエフェルローンに。
アダムは、苦笑気味に答えて言った。
「問題なく」
そう言うと、胸ポケットから一枚の紙を取り出し、それをエフェルローンの眼前にスッと差し出す。
「お望みの[許可証]です」
その[許可証]を、複雑な表情で見つめるエフェルローンに。
アダムは意地悪くこう言った。
「気が引けますか、伯爵?」
人を脅してまで手に入れた、禁書室の[許可証]――実際、気分の良いものではない。
だが――。
エフェルローンは鼻を鳴らすと、「どうとでも無い」というようにこう言った。
「別に。それより、早く禁書を閲覧したいんだが」
そう言って、先を急ぐエフェルローンに。
アダムは、やはり苦笑しつつこう言った。
「分かりました。じゃあ、行きましょうか」
そう言ってアダムが案内した扉、それは――。
カウンターの中央、その奥まったところにある地味な作りの一枚扉。
「カウンターの後ろですか。それにしても、地味な扉ですね」
ルイーズがそう素直な感想を漏らす。
「[禁書]ですからね。魔法で厳重に保管してあるとはいえ、いつ何が起こるか分かりませんから。そんな訳で、防犯もかねて人の目に付きやすいこの場所に、目立たないように設置されているという訳です。木は森の中に隠せって言いますしね」
得意げにそう蘊蓄を垂れるダニーに、ルイーズが納得したように頷いた。
「なるほど」
そんな二人の会話がひと段落つくのを見計らうと。
アダムはエフェルローンに向き直り、その決意を試すかのようにこう尋ねた。
「さて、心の準備はいいですか」
その問いに。
エフェルローンは迷うことなくこう言った。
「ああ、問題ない」
「では。どうぞ、中に……」
そう言って、扉をゆっくりと押し広げていくアダムに促され、エフェルローンたちは、その扉の奥にある保管室の中へと足を踏み入れる。
と、同時に。
いままで、真っ暗だった室内がうっすらと明るさを帯び始めた。
「うわっ、凄い仕組みですね」
ルイーズが驚いたように目を見開く。
そんなルイーズの驚きに、ダニーがここぞとばかりにちょっとした豆知識を披露する。
[火]の魔法の一種ですね。人が来ると設置された蝋燭に明かりが灯るように魔法がかけられているんです」
「へぇー」
そう言って、感嘆の声を上げるルイーズを愛おしそうに眺め遣ると。
視線を足元の下に移したアダムは、その下に続く長い階段を見つめながらこう言った。
「ここからは地下に降りる階段が続きますから、足元には十分気を付けて」
そう言って、自ら細くて急な階段を先導するアダム。
そんなアダムに着いて行くこと数十秒。
目の前に、整然と並べられた書架の群れが姿を現す。
「これが[禁書管理室]ですか……思ってたより少し広いですね」
ダニーはそう言って興味深そうに顎に手を当てた。
そんなダニーに続くように、ルイーズも自分の感想を口にしてこう言う。
「それに、もう少しじめっとした感じを想像していたんですけど、そうでもないですね」
ルイーズが、禁書室の壁面に手を触れながらそう言った。
「ここは、魔法で湿度や温度の管理されているので、カビも生えないらしいですよ。ちなみに、本を平積みしないのは、紙と紙がへばりついてしまったりしない為だとか」
ダニーはそう言って、本棚の本を取り出してハラパラとめくって見せる。
「へー、なるほど。確かに一枚一枚へばりつくことなく綺麗に保管されていますね」
ルイーズはダニーの手元の本を覗き込むと、感心したようにそう言った。
禁書は、四方の壁一面に配置された本棚に整然と並べられている。
本とはいっても、元々は各魔術師たちの研究レポートのようなものなので、中には本の形を成していないものも多い。
そういうものは全部、厚紙で出来た袋状のファイルにそのままファイリング・タグ付けされ、保管されていた。
「それじゃ、僕はいったん上に戻ります。後は、どうぞご自由に」
そう言って、図書カウンターの方へと去っていくアダムを無言で見送ると。
エフェルローンは、迷うことなく部屋の真ん中に置かれている大きな長方形の机に近付いた。
その机の上には、一冊の分厚い本がこれ見よがしに置かれている。
それを見つけたルイーズが、不思議そうにこう尋ねた。
「なんですか、それ。本みたいですけれど……しまわなくていいんですかね?」
ルイーズのその問いに、エフェルローンはこう答えた。
「それは、ここに来た人間が何の禁書を調べたかを記録する閲覧書だ。それを調べれば、いつ、誰が、何の禁書を調べたかが分かる。つまり……」
「ディーンさんやギルさんたちが何を調べたかが分かる。そう云う訳ですね!」
なるほど、というようにダニーが相槌を打った。
「ほー、それだと一冊一冊探す手間が省けていい感じですね!」
ルイーズがそう言って顔を輝かせる。
どうやら彼女は、本を一冊一冊調べないといけないと、そう思っていたらしい。
「さて、ギルたちが何を調べていたのか調べるとするか」
そう言って、エフェルローンは早速閲覧書を開いた。
ルイーズとダニーもエフェルローンの背後から閲覧書を覗き込む。
先ずは、閲覧者からディーン、もしくはギルの名前を探す。
「あ、ギルさんの名前があります!」
ルイーズがそう声を上げ、名前の部分を指差した。
「閲覧したものはなんですかね?」
そう言って、ダニーが興味深そうに名前の横を指で追っていく。
そして、そこに書かれていた内容、それは――。
「[精神増強]……」
そう呟いたエフェルローンの言葉に、ダニーが同情するような口調でこう言った。
「……ギル先輩、自分の魔術能力に関して何か悩んでいたんですかね」
「ギルさんって、精神力《ヌス》が乏しかったんですか?」
そんなルイーズの素朴な問いに、エフェルローンは首を横に振ってこう答えた。
「そんなことは無いな。あいつの精神力の高さは魔術師団の中でも五本の指に入る。今なら、四年前の俺と同じくらい、いやそれ以上の精神力はあったはずだ」
「[精神増強]かぁ。今回の事件とどんな関係があるんでしょうね……」
そう言って、深刻そうな顔で悩む男たち二人を前に。
ルイーズは、ぽんと手を叩くと、「閃いた」というようにこう言った。
「[精神増強]は、きっとギルさんにとってプロテインだったんですよ! ほら、趣味で筋肉を鍛えている人たちってプロテイン使いますよね? ギルさんも、精神力を鍛えるために使いたかったんじゃないですか、[精神増強]……」
そんなルイーズの閃きに。
エフェルローンはムッとしたように眉を顰めると、閲覧書をじっと睨みがらこう言った。
「精神力は、本来、魔法を使うことで鍛えられるものだ。決して魔法で生み出した何かによって永久に鍛えられることはない。たとえ[禁書]に書かれた魔術でそれが出来るとしても、あいつは……ギルは、そんな万物の法則を捻じ曲げるような魔術を使うはずはない。絶対に……」
まるで、自分に言い聞かせるかのようにそう語るエフェルローンに。
ルイーズは申し訳なさそうにこう言った。
「は、はは、そうですよね……すみません」
そんなルイーズの謝罪の言葉を最後に。
三人の間を、しばしの沈黙が支配する。
と、そのとき――。
「おや? どうしたんです、皆さん。なんだか空気が重苦しいようですけど。早速、仲間割れですか」
嫌味たらしくそう言ったのは、ついさっき、上のカウンターに戻ったはずのアダムであった。
「用があって戻ってきてみれば……」
呆れた様にそう言うと、アダムは大きなため息をひとつ吐くと、わざとらしくこう言った。
「何か、僕に出来る事はあります?」
軽い口調でそう言うアダムの右腕には、何かの資料が大事そうに抱えられていた。
その資料を。
エフェルローンは何気なく目で追う。
そんなエフェルローンの視線に気付いたのだろう。
アダムはその資料を両手で持つと、エフェルローンたちの目の前の机に広げてこう言った。
「ギル・ノーランド捜査官の部屋から見つかったものらしいですよ。なんでも、禁書を写した危ない資料らしいので、ここで管理する事になったそうです」
「[禁書の写し]、か」
(自分で使うためか、それとも誰かに渡す為か)
「[誰か]、か……」
エフェルローンは顎に片手を当ててじっと資料を見つめる。
(ギルがアデラと繋がっていたというなら、アデラに禁書の一部が渡った可能性がある、ということか)
「禁書の写しっていうことは、[精神増強]の魔法の写しってことになるのでしょうか?」
その問いに、ダニーが頷きながらこう答える。
「現状の情報から推測すると、理論上はそうなるでしょうね」
しかし、その話を聞いていたアダムは不思議そうにこう言った。
「あの、差し出がましいようで申し訳ないんですけど、僕が渡されたのは[精神増強]の魔法の写しではありませんでしたよ」
「じゃあ、何の――」
そう怪訝そうに眉を顰めるエフェルローンに。
アダムは、別段渋ることも無く、至極あっさりとこう言った。
「[永久《とわ》の眠り]――対象を半永久的に眠らせ続ける魔術だとか」
――[永久《とわ》の眠り]。
その言葉に。
エフェルローンは一人、深い思考の闇の中へ沈むのであった。
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