正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

罪なきサンドウィッチ

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 雲ひとつない晴天に、エフェルローンは目を細める。
 
 次の日の朝――八刻。

 王立図書館の前方、約五十フィール先から、ルイーズが息を切らせてやって来るのが見える。

「せんぱーい、ダニーさーん。遅れてすみませーん! すぐ行きますー!」

 そう叫ぶルイーズの手には、なぜか大きな紙袋がしっかり握られていた。
 エフェルローンは訝しそうにそれを見つめると、ダニーにこう尋ねる。

「あの袋、なんだと思う?」

 ダニーは肩をすくめ、クスリと笑いながらこう言った。

「さぁ、なんでしょうね?」

 そうこうしている内に、ルイーズが到着する。

「遅れちゃってすみません! その代わり、はいこれ」

 そういって差し出された紙袋に、エフェルローンは眉間みけんに皺を寄せこう言った。

「なんだ、これは」

 そんなエフェルローンに、ダニーが呆れたようにすかさずこう突っ込む。

「察しの悪い人ですね、先輩は」

 その突っ込みにムッとしたエフェルローンはこう切り返す。

「じゃあ、お前はどうなんだ? この紙袋、なんだと思う?」
「先輩、朝……何か食べてきました?」

 その問いに、エフェルローンは怪訝けげんそうにこう答える。

「いや。図書館での調査が終わったらどこかで何か買うつもりだけど? それが?」

 その答えに、ダニーがズバッと指を突きつけこう言った。

「それです! 朝食! お弁当ですよ! それも、手作りの!」
「はぁ?」

 エフェルローンは差し出された紙袋を見る。
 そこには、[パンと珈琲の店・デリシャス=デリ]と書かれている。
 きっと、そこらへんのパン屋でサンドウィッチでも買ってきたのだろう。

「朝食は朝食でも、近くのパン屋のサンドウィッチだよ。ほら、あそこ……」

 エフェルローンの指差す方向。
 そこには、[パンと珈琲の店・デリシャス=デリ]の看板が見える。

「はい! あそこのパン屋さんで買ってきました! 実は今朝、サンドウィッチに挑戦したんですけれど、上手くいかなくて。それで、やむなくあそこで買ってきちゃいました」

 恥ずかしそうにそう答えるルイーズ。

(サンドウィッチが失敗するって、どういう事だ……?)

 エフェルローンは、その事実にひどく驚愕した。

(何処をどうやったら失敗するんだ)

 どうやらダニーもそう思ったらしく、二人は互いに顔を見合わせる。

「と、そんな訳で、一人銅貨五枚です」
「はい?」

 エフェルローンは、瞬きをしながら思わずそう聞き返していた。

(おいおい、差し入れじゃなかったのか?)

 思わずそう心の中で突っ込むエフェルローン。
 ダニーが引きつった笑みを浮かべながら、エフェルローンの心の中を代弁する。

「あの、これ……差し入れなんじゃあ?」
「すみません、ダニー先輩。差し入れたいのは山々なんですけど、今月、私、金欠で。あと三日でお給料日なんですけど、その三日が長いというか、厳しいというか……」

 そう言うと、ルイーズは銅貨が乾いた音を立てる赤い皮財布を振ってみせた。

「…………」

 そんなルイーズをダニーは唖然としながら皿のような目で凝視する。
 エフェルローンはそんなダニーの肩を軽く叩くと、悟ったようにこう言った。

「ま、こんなもんだろ?」

 エフェルローンはそう言って、淡々と黒の皮財布から銅貨五枚を取り出す。

「…………」

 ダニーも、しばらく唖然としでいたが、そのうち渋々財布から金を取り出し、ルイーズに手渡す。
 そんな二人からきっちり銅貨を受け取ると、ルイーズは満足そうにこう言った。

「まいどあり~」

 そう言って嬉々として財布に金をしまうルイーズを眼前に。
 エフェルローンとダニーは、重要な任務を前に、一気に体から力が抜けていくのを感じるのだった。
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