正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

禁忌図書

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 そんなエフェルローンに、ダニーはため息を吐きながらこう言った。

「先輩が何を考えているにしても、命を軽んじるような行動は、僕は正しいとは思いません」
「分かってる。でも敵を、この事件の黒幕をおびき出すには、俺たちの中で一番経験が浅く、隙の多いルイーズが最適なんだ。これは、どうしても外せない」

 そう言って、エフェルローンは言葉を切る。

「黒幕は、俺たちが秘密裏ひみつりに動いている事は知っているはずだ。そう遠くないうちに、向こうから何かを仕掛けてくるかもしれない。それこそ、本当に命を狙われることになる可能性もある。そう考えたら、少しリスクは上がるが、先手を打つほうが得策だと踏んだんだ。軽い気持ちで仕掛ける訳じゃない。考え抜いた末の結論だ。頼む、力を貸してくれ」

 エフェルローンはそう言って頭を下げる。
 そんなエフェルローンに、ダニーは大きなため息を一つ吐くと、こめかみを片手で押さえながらこう言った。

「はぁ、分かりました、先輩。お手伝いしますよ、まったく。でも、だからと言って全面的にこの作戦を支持しているわけじゃありませんからね!」

 そう釘を刺すダニーに、エフェルローンは申し訳なさそうに薄笑うとこう言った。

「悪いな、ダニー。この借りは必ず返すよ」

 そんなエフェルローンに、ダニーは肩を竦めながらこう言った。

「ま、期待しないで待ってます。で、おびき出すための[餌]は、どうするんです?」

 そう、刺々しく尋ねるダニーに、エフェルローンは渋い顔でこう言った。

「[餌]は、まだ決まってない。俺たち自身を[餌]にすることも考えたが、それだけじゃ、インパクトが弱すぎる。もっと、犯人が食らいつきたくなるようなものでないと……」 
「……はぁ、やっぱりそうなりますよね。分かりました。しゃあ、[餌]はおいおい考えるとして。で、いつなんです? 決行日は」

 諦めにも似た雰囲気を漂わせながら、それでもてきぱきと尋ねるダニーに。
 エフェルローンは簡潔にこう言った。

「明日の午後六刻」
「えっ、明日?」

 ダニーが素っ頓狂な声を上げる。

「明日って、まだ[餌]も決まってないじゃないですか……」

「あなた、馬鹿ですか?」と言わんばかりのダニーに。
 エフェルローンは言い訳がましくこう言う。

「ほら、鉄は熱いうちに打てって、そう言うだろ?」

 そんなエフェルローンの答えに。
 呆れをも通り越したダニーは、冷めた口調でこう言った。

「……まあ、馬鹿も休み休みに言え、とも言いますけど。あっ。それと、ひとついいですか、先輩」

 そう言うと、ダニーは手元の資料から数枚の紙の束を引き出し、指差した。
 エフェルローンはその指の先に視線を走らせる。

禁忌図書きんきとしょの、閲覧名簿?」
「はい。僕がまだ図書館司書をしていた時、ディーン先輩たちが図書館に来た話はしましたよね?」
「ああ、そうだったな」

 そう相槌を打つエフェルローンを確認すると、ダニーは「はい」と、頷きながらこう言った。

「ディーン先輩とギル先輩は、禁忌魔法管理部の長の許可が無くては閲覧えつらんが許されていない、禁忌図書の閲覧許可証を持って図書館にこられました。つまりディーン先輩とギル先輩は……」

 ダニーの言葉に、エフェルローンは後を続けてこう言った。

「禁忌図書を閲覧してる?」
「そうです」

 そう言って頷くと、ダニーは手元の捜査資料を指さしながらこう言った。

「だから、この捜査資料のこの部分にもそこのことが載っています。でも、何を調べたのかまでは黒く塗りつぶされてしまっていて分かりません。そんな訳で先輩、囮捜査の前にまず、図書館に行ってみませんか? ディーン先輩たちが何をしようとしていたのか、手がかりが掴めるかもしれません。それに、[餌]になりそうなものも、上手くいけば手に入るかも知れませんよ」

 そんなダニーの案に、エフェルローンはにやりと笑うとこう言った。

「ダニー、それは名案だ。お前、やっぱり捜査官に向いてるよ」

 その言葉に、ダニーが嬉しそうに顔を上気させる。

「ありがとうございます! そう言っていただけて、光栄です……ほんとに」

 そんなダニーに、エフェルローンは口元に軽い笑みを浮かべるとこう言った。

「早速、明日ルイーズと尋ねてみるよ。お前も来るか? どうせ暇なんだろ?」
「えっ」

 その誘いの言葉に、ダニーは一瞬躊躇ったものの、直ぐに気を取り直してこう言った。

「……是非! ご一緒させて下さい!」

 その言葉に、エフェルローンは満足げに頷くと、きびすを返しながらこう言った。

「じゃあ、明日の図書館の前で。時間は朝の八刻だ、よろしくな」

 そう言って去っていくエフェルローン。
 その背中を見送ると、ダニーはじっと自分の掌を見た。

 細く、骨ばった頼りない手――。

「捜査官に向いている、か」

 そして、その手を強く握り締めると、彼は皮肉な笑みを浮かべながら手元の資料の整理を再開するのだった。
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