正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第二章 秘められた悪意

死刑宣告

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失意のエフェルローンが、キースリーの執務室をあとにしようとドアノブに手を掛けたその時――。

「ちょっと待って」

 何を思ったか、キースリーがそうエフェルローンを呼び止めた。

「…………」

「まだ何か」とでも言うように、のろのろと後ろを振り返るエフェルローンに。
 キースリーは、念押しするかのように尋ねて言った。

「確か君、コールリッジ捜査官たちが追っていた事件と君たちが追っていた事件。その二つの事件は[アデラ]と繋がっているかもしれないと、そう言っていたよね?」
「……はい、それが何か」

 キースリーのその質問に。
 エフェルローンは何か得体のしれない不気味さを感じ、身を固くする。
 と、そんなエフェルローンをキースリーは愉快そうに見遣ると、「策は成った」とばかりに意気揚々とこう言い放つ。

「もし君がそう言い張るなら、君には……君が追っている事件から手を引いてもらわないと」
「えっ」
 
(どうして――)

 そう言って、訳が分からず呆然と立ち尽くすエフェルローンに。
 キースリーは肩を竦めて見せると、ゾッとするような冷たい笑みを浮かべてこう言った。

「君が何をどう言いくるめたところで、君がアデラの愛弟子で家族であったこと、その事実は変わらない。だから君には、[アデラ]との関わりが懸念される案件からは一切、手を引いてもらう」 
「な……」

[死刑宣告]とも取れるその言葉に。

 完全に顔色を失ったエフェルローンは、キースリーの側に向かってよろよろと、それでも気丈に詰め寄ると、必死の形相でこう言った。
 
「ギルの……友人の無念を晴らしたいんです! お願いです、このまま犯人を追わせて下さい! どうか、お願いです! どうか……」

 そう言って、キースリーの足に縋り、何度も頭を下げ続けるエフェルローンの姿に。
 今まで戦々恐々と事の成り行きを見守っていたルイーズは、顔色を青くしながらも意を決してこう言った。

「わっ、私からもお願いします! ギルさんは……ノーランド捜査官は、伯爵の……私たちの友人です。私たちの手で犯人を挙げてとむらってあげたいんです! お願いします! この案件、私たちから取り上げないで下さい!」

 しかし、ルイーズの必死の援護も虚しく。
 キースリーは無情にもこう言い放った。

「今日から君たちは非番だ。ゆっくり休むといい。以上だ」 
「…………」

 エフェルローンは「これ以上の交渉は無意味だ」と悟ると、小さな肩をがっくりと落とし、ゆるゆると立ち上がった。
 そして、呆然と踵を返すと、のろのろと執務室の出入り口に向かう。

 そんなエフェルローンの失意の背中に。

「クェンビー伯爵」

 キースリーの威圧的な声が投げかけられる。

「…………」

 見るからに憔悴し、無言で振り返るエフェルローンに。
 キースリーは満足そうに微笑むと、飄々とした体でこう言った。

「そういえばさ、[僕の妻]のクローディアが、君に『宜しく』って。凄く恋しがっていたよ。全く、僕っていう夫がありながら『君が恋しい』って……運命って、ほんと……残酷だよね?」
 
 キースリーの、心の臓を抉るような陰惨な物言いに。
 エフェルローンは一瞬、身を固くする。

 そして。

 そんなエフェルローンの背中を、ルイーズは複雑な表情で見つめるのだった。
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