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第二章 秘められた悪意
ディーンの決意
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「おう、丁度いいところに来たな。まあ座れよ」
そう言って。
エフェルローンはダニーにソファーを勧めると、ルイーズにコーヒーを出すよう指示を出した。
「まったく……先輩、人使い荒すぎ!」
そう言いながらも、ルイーズは言われた通りコーヒーを入れるため席を立つ。
ダニーは額の汗を片手の甲で拭うと、疲れたとばかりに深々とソファーに腰を下ろしてこう言った。
「言われなくても、座りますよ……まったく、ルイーズさんじゃないですけど、人使い荒いんだから、先輩は……」
文句を言いながら、ダニーはそう言ってソファーにふんぞり返る。
「悪い、悪い。実は、お前に頼みたい事があってさ」
その話の流れに、ダニーが一瞬、身を固くする。
「それって、犯罪めいた事じゃ無いでしょうね、先輩?」
ふんぞり返りながら、疑いの眼差しでエフェルローンを見遣るダニー。
そんなダニーに、エフェルローンは苦笑しながらこう言った。
「調査内容――ディーンたちが当たっていた事件の調査資料を、拝借してきて欲しい。どうしてもあいつらの追っていた事件の内容が知りたいんだ」
調査資料の保管は、鑑識課の立派な仕事である。
だが、それを外部に持ち出すとなると、話は全く別である。
ダニーの顔色が次第に青くなっていく。
「ダメです、ダメですよそんなの! 下手したら僕、クビじゃないですか!」
声をところどころ裏返しながら、ダニーは全力で否定した。
そんなダニーに、エフェルローンは威圧的にこう言い放つ。
「なら、ギルの無念はどうなる? 俺たちが犯人挙げなくて、誰が挙げるっていうんだ!」
尤もらしいエフェルローンの言い分に、ダニーはぐうの音も出ず黙り込む。
「……確かに、そうかもしれませんけど。でも、先輩?」
「なんだ」
イライラとそう答えるエフェルローンに、ダニーが腑に落ちないと言うような顔をしてこう言った。
「今回の事件、[魔魂石事件]と何かしらの関連性があるんなら、普通、資料回ってきますよね? あ……もしかして、なんかまずい感じの流れなんですか?」
ダニーはそう言って、青い顔を更に青白くさせる。
「まあな。回ってきてないってことは、まずい何かがあるのかもなぁ……」
そう言って遠い目をするエフェルローンに、ダニーは肩を落としてこう言った。
「そんなの、あんまりです、先輩。そこまでしてこの事件を凍結させたい何かが動いているんなら、僕……ホントのホントにクビになっちゃいますよ! そうしたら僕、どうやって生きていけば……」
ダニーがそう泣き言を垂れる。
痺れを切らしたエフェルローンは、とうとうダニーの首根っこを押さえ付けるようにこう言い放った。
「おまえ、ギルの後輩だろう? しかも大学時代、お前、ギルにかなり可愛がってもらっていたよなぁ。あんな事やこんなこと……色々と世話にもなっていたよなぁ? その恩を、お前……仇で返すつもりじゃないよなぁ? なあ、ダニー?」
脅すようにそう言葉を連ねるエフェルローンに、ダニーは降参とばかりに手足をバタバタさせるとこう言った。
「分かっ、分かりました! やります、やりますよ! ほんと……人使い荒くて横暴なんだからなぁ、先輩は」
ぶつぶつと、恨みがましくそう呟くダニーに、ルイーズがコーヒーを差し出しながら気の毒そうにこう言った。
「ダニー先輩も大変ですね」
「はぁ、なんか急に胃の調子が……薬買いに行かなきゃ」
そうよろよろとソファーから立ち上がると、ダニーはエフェルローンの執務室からとぼとぼと出て行くのだった。
と、そんなダニーの様子に、ルイーズが銀のトレーを胸元に抱えながら心配そうにこう言う。
「大丈夫……なんですかね、ダニー先輩」
「大丈夫だろ? ああ見えて、結構メンタル打たれ強いし」
無責任にそう言うと、エフェルローンは顔に新聞を載せる。
「あれ? 先輩? ちょっ、仕事は?」
「休憩」
「もう……ちゃんと仕事してください!」
ルイーズがエフェルローンの顔の上の新聞を取り上げる。
「あ、お前……!」
そのときだった。
「ぜっ、先輩! た、大変です!」
戻ったはずのダニーが、息を切らせて突然執務室に飛び込んできた。
エフェルローンは思わず椅子からずり落ちそうになる。
ルイーズがダニーを落ち着かせるようにこう言った。
「ダニー先輩、一体どうしたんです?」
弾む息をゆっくりと整えながら、ダニーは肩を上下させながらこう言った。
「ディーン先輩が、いなくなりました。憲兵証を、置いて」
「ディーンが、憲兵証を置いて?」
憲兵証を置いたという事は、憲兵を辞めたという事だろう。
ということは――。
(ディーン、まさかお前一人でアデラを?)
アデラはエフェルローンの魔術の師匠だった人物である。
その凄みは、痛いほど分かっている。
(師匠……アデラは、たかだか憲兵騎士一人で太刀打ち出来るような、そんな生易しい相手じゃないぞ!)
その事実に、エフェルローンの心臓は嫌な音を立てる。
そして、目に入る机の上に無造作に置かれた新聞の小見出し。
――次の標的は?
「くっ、お前までいなくなってくれるなよ、ディーン!」
エフェルローンは心底そう願わずにはいられなかったのであった。
そう言って。
エフェルローンはダニーにソファーを勧めると、ルイーズにコーヒーを出すよう指示を出した。
「まったく……先輩、人使い荒すぎ!」
そう言いながらも、ルイーズは言われた通りコーヒーを入れるため席を立つ。
ダニーは額の汗を片手の甲で拭うと、疲れたとばかりに深々とソファーに腰を下ろしてこう言った。
「言われなくても、座りますよ……まったく、ルイーズさんじゃないですけど、人使い荒いんだから、先輩は……」
文句を言いながら、ダニーはそう言ってソファーにふんぞり返る。
「悪い、悪い。実は、お前に頼みたい事があってさ」
その話の流れに、ダニーが一瞬、身を固くする。
「それって、犯罪めいた事じゃ無いでしょうね、先輩?」
ふんぞり返りながら、疑いの眼差しでエフェルローンを見遣るダニー。
そんなダニーに、エフェルローンは苦笑しながらこう言った。
「調査内容――ディーンたちが当たっていた事件の調査資料を、拝借してきて欲しい。どうしてもあいつらの追っていた事件の内容が知りたいんだ」
調査資料の保管は、鑑識課の立派な仕事である。
だが、それを外部に持ち出すとなると、話は全く別である。
ダニーの顔色が次第に青くなっていく。
「ダメです、ダメですよそんなの! 下手したら僕、クビじゃないですか!」
声をところどころ裏返しながら、ダニーは全力で否定した。
そんなダニーに、エフェルローンは威圧的にこう言い放つ。
「なら、ギルの無念はどうなる? 俺たちが犯人挙げなくて、誰が挙げるっていうんだ!」
尤もらしいエフェルローンの言い分に、ダニーはぐうの音も出ず黙り込む。
「……確かに、そうかもしれませんけど。でも、先輩?」
「なんだ」
イライラとそう答えるエフェルローンに、ダニーが腑に落ちないと言うような顔をしてこう言った。
「今回の事件、[魔魂石事件]と何かしらの関連性があるんなら、普通、資料回ってきますよね? あ……もしかして、なんかまずい感じの流れなんですか?」
ダニーはそう言って、青い顔を更に青白くさせる。
「まあな。回ってきてないってことは、まずい何かがあるのかもなぁ……」
そう言って遠い目をするエフェルローンに、ダニーは肩を落としてこう言った。
「そんなの、あんまりです、先輩。そこまでしてこの事件を凍結させたい何かが動いているんなら、僕……ホントのホントにクビになっちゃいますよ! そうしたら僕、どうやって生きていけば……」
ダニーがそう泣き言を垂れる。
痺れを切らしたエフェルローンは、とうとうダニーの首根っこを押さえ付けるようにこう言い放った。
「おまえ、ギルの後輩だろう? しかも大学時代、お前、ギルにかなり可愛がってもらっていたよなぁ。あんな事やこんなこと……色々と世話にもなっていたよなぁ? その恩を、お前……仇で返すつもりじゃないよなぁ? なあ、ダニー?」
脅すようにそう言葉を連ねるエフェルローンに、ダニーは降参とばかりに手足をバタバタさせるとこう言った。
「分かっ、分かりました! やります、やりますよ! ほんと……人使い荒くて横暴なんだからなぁ、先輩は」
ぶつぶつと、恨みがましくそう呟くダニーに、ルイーズがコーヒーを差し出しながら気の毒そうにこう言った。
「ダニー先輩も大変ですね」
「はぁ、なんか急に胃の調子が……薬買いに行かなきゃ」
そうよろよろとソファーから立ち上がると、ダニーはエフェルローンの執務室からとぼとぼと出て行くのだった。
と、そんなダニーの様子に、ルイーズが銀のトレーを胸元に抱えながら心配そうにこう言う。
「大丈夫……なんですかね、ダニー先輩」
「大丈夫だろ? ああ見えて、結構メンタル打たれ強いし」
無責任にそう言うと、エフェルローンは顔に新聞を載せる。
「あれ? 先輩? ちょっ、仕事は?」
「休憩」
「もう……ちゃんと仕事してください!」
ルイーズがエフェルローンの顔の上の新聞を取り上げる。
「あ、お前……!」
そのときだった。
「ぜっ、先輩! た、大変です!」
戻ったはずのダニーが、息を切らせて突然執務室に飛び込んできた。
エフェルローンは思わず椅子からずり落ちそうになる。
ルイーズがダニーを落ち着かせるようにこう言った。
「ダニー先輩、一体どうしたんです?」
弾む息をゆっくりと整えながら、ダニーは肩を上下させながらこう言った。
「ディーン先輩が、いなくなりました。憲兵証を、置いて」
「ディーンが、憲兵証を置いて?」
憲兵証を置いたという事は、憲兵を辞めたという事だろう。
ということは――。
(ディーン、まさかお前一人でアデラを?)
アデラはエフェルローンの魔術の師匠だった人物である。
その凄みは、痛いほど分かっている。
(師匠……アデラは、たかだか憲兵騎士一人で太刀打ち出来るような、そんな生易しい相手じゃないぞ!)
その事実に、エフェルローンの心臓は嫌な音を立てる。
そして、目に入る机の上に無造作に置かれた新聞の小見出し。
――次の標的は?
「くっ、お前までいなくなってくれるなよ、ディーン!」
エフェルローンは心底そう願わずにはいられなかったのであった。
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