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第二章 秘められた悪意
思考の深みの中で
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ジャーナリストの男が殺され、大学生が殺される。
そして、アデラを追っていたギルも、何者かの手によって殺された。
三人の共通点は、『べトフォード出身』ということ、そして『フィタ』と『魔魂石』。
更に付け加えるなら、殺された大学生の身辺調査から、彼は[爆弾娘]にかなりの恨みを持っていたという情報も上がってきているので、『[爆弾娘]への過度の恨み』、というのも共通点として挙げられるかもしれない。
それらを鑑みて、ジャーナリストの男、大学生、ギルの事件は、何らかの形で繋がっているのではないかと推測できる。
そしてさらに重要なのは、その事実を通し浮かび上がってくる、[爆弾娘]という人物である。
[爆弾娘]が何かしたという訳ではないが、全ては彼女を中心に回っているような気がする。
([爆弾娘]、か)
すべての事件の引き金が、[爆弾娘]に関係していると考えるならば。
[日記]に書かれていたこと――それは、[爆弾娘事件]に関する何か、『世間に知られてはいけない重要な情報』だったのではないか。
(世間に知られたくないネタ、か)
そう仮定するなら、断片的ではあるが少し見えてくるものがある。
ジャーナリスト、グラハム・エイブリーが殺されたのは、たぶん何者かによる口封じだろう。
彼を殺した人物――それは、[爆弾娘事件]に何かしら関係し、且つ、グラハム・エイブリーの手に入れた情報に少なからず恐れをなしていた人物。
[日記]を隠した理由も、そこから自分の存在を知られる恐れがあると踏んだからに違いない。
案の定、[日記]は無くなり、その存在すら消えてなくなってしまっている。
だが幸運なことに、日記はこの憲兵庁で消え、そして証拠隠滅が図られた。
つまり、それが意味するところは――。
(グラハム・エイブリーを殺した実行犯は憲兵庁内部の人間、ということになるな)
最悪の推理に、エフェルローンは苦い顔をする。
(あの徹底的な証拠隠滅の手段――仮に、憲兵庁の上層部がこの一件に一枚噛んでいるとしたら)
「……厄介だな」
エフェルローンはそう言って唇を噛む。
このままいけば、本当に寝首を搔かれるかもしれない。
(全く、冗談じゃない……)
怒りとも諦めともつかないため息を吐くと。
エフェルローンはもう一つの謎に意識を集中する。
(グラハム・エイブリー殺しが憲兵庁からの刺客による殺人とするなら、そのグラハム・エイブリーと繋がっていた可能性のあるギルはどうなる? ギルを殺した犯人も、同じ刺客が犯人だとは考えられないか?)
ギル・スチュアートの家宅捜索で、ギルの家からそれなりの量の[魔魂石]が見つかったという報告が上がってきている。
そこから導き出される結論は、グラハム・エイブリーとギル・スチュアートは[魔魂石]で繋がっていたのではないか、ということだ。
彼らが[魔魂石]を使って何をしようとしていたのかは分からないが、その石を手に入れる為に多くの人の命を犠牲にしていたと考えると、背筋に冷たいものが走る。
もしかしたら、大学生はその犠牲者の一人なのかもしれない。
エフェルローンは、遣り切れなさからため息をひとつ吐く。
とはいえ、ギルのことに関して言えば、エフェルローンには解せないことが二つあった。
ひとつ目は、ギルはなぜ、[魔魂石]を手に入れる必要があったのか、ということ。
そしてもう一つは、その一連のおぞましい行為に手を染めた[原動力]は、一体何だったのか、ということである。
(ギルとグラハム・エイブリー、そして――)
「[魔魂石]、か……」
脳裏に浮かぶのは、あのメモ紙の言葉。
――『青銅も銀も駄目だ』。
――『確実にやるなら金だ』。
あれは、[魔魂石]のことではないのだろうか。
(それに……)
葬儀の時に出会った娼婦の女性が言っていた言葉。
――『やっと、[爆弾娘]に罪を償わせる道具が揃う』
道具とは、ギルの家にあった[魔魂石]のことではないのか。
――『確実にやるなら金だ』。
だが、その中に[金の魔魂石]があったという情報は、残念ながら上がってきてはいない。
やはり、[金の魔魂石]ではなく、[金]という意味なのだろうか。
そして、更に謎を深めるのは。
ギルの葬儀でディーンとすれ違ったとき、微かに聞こえたあの言葉――。
――『……くっ、アデラ』
「アデラ、か」
もし、ギル殺害にアデラが関わっているとしたなら、ギルを殺した犯人は憲兵庁からの刺客ではないことになる。
(じゃあ、アデラは何のためにギルを?)
――何のために。
思考が完全に停止する。
「アデラか。くそっ!」
そう一言呟くと、エフェルローンは不機嫌そうな面持ちで頭をガシガシと掻きまわした。
その様子に、少し疲れた様子のルイーズが心配そうにこう言った。
「先輩、何もそこまで根詰めなくても。ついさっき、ギルさんを弔ったばかりなんですから……」
「そうですよ、先輩。悲しい時には悲しまなくちゃ。そうしないと心が持ちませんよ?」
同じく、憔悴気味のダニーもそう言って、エフェルローンを心配そうに見やる。
そんな二人の言葉に気を止めることもなく、エフェルローンは更に椅子に身体を沈めると、胸の前で指を絡めながら天井を睨む。
そんなエフェルローンに、ルイーズとダニーは互いに顔を見合わせると、共に肩を竦めるのだった。
そして、アデラを追っていたギルも、何者かの手によって殺された。
三人の共通点は、『べトフォード出身』ということ、そして『フィタ』と『魔魂石』。
更に付け加えるなら、殺された大学生の身辺調査から、彼は[爆弾娘]にかなりの恨みを持っていたという情報も上がってきているので、『[爆弾娘]への過度の恨み』、というのも共通点として挙げられるかもしれない。
それらを鑑みて、ジャーナリストの男、大学生、ギルの事件は、何らかの形で繋がっているのではないかと推測できる。
そしてさらに重要なのは、その事実を通し浮かび上がってくる、[爆弾娘]という人物である。
[爆弾娘]が何かしたという訳ではないが、全ては彼女を中心に回っているような気がする。
([爆弾娘]、か)
すべての事件の引き金が、[爆弾娘]に関係していると考えるならば。
[日記]に書かれていたこと――それは、[爆弾娘事件]に関する何か、『世間に知られてはいけない重要な情報』だったのではないか。
(世間に知られたくないネタ、か)
そう仮定するなら、断片的ではあるが少し見えてくるものがある。
ジャーナリスト、グラハム・エイブリーが殺されたのは、たぶん何者かによる口封じだろう。
彼を殺した人物――それは、[爆弾娘事件]に何かしら関係し、且つ、グラハム・エイブリーの手に入れた情報に少なからず恐れをなしていた人物。
[日記]を隠した理由も、そこから自分の存在を知られる恐れがあると踏んだからに違いない。
案の定、[日記]は無くなり、その存在すら消えてなくなってしまっている。
だが幸運なことに、日記はこの憲兵庁で消え、そして証拠隠滅が図られた。
つまり、それが意味するところは――。
(グラハム・エイブリーを殺した実行犯は憲兵庁内部の人間、ということになるな)
最悪の推理に、エフェルローンは苦い顔をする。
(あの徹底的な証拠隠滅の手段――仮に、憲兵庁の上層部がこの一件に一枚噛んでいるとしたら)
「……厄介だな」
エフェルローンはそう言って唇を噛む。
このままいけば、本当に寝首を搔かれるかもしれない。
(全く、冗談じゃない……)
怒りとも諦めともつかないため息を吐くと。
エフェルローンはもう一つの謎に意識を集中する。
(グラハム・エイブリー殺しが憲兵庁からの刺客による殺人とするなら、そのグラハム・エイブリーと繋がっていた可能性のあるギルはどうなる? ギルを殺した犯人も、同じ刺客が犯人だとは考えられないか?)
ギル・スチュアートの家宅捜索で、ギルの家からそれなりの量の[魔魂石]が見つかったという報告が上がってきている。
そこから導き出される結論は、グラハム・エイブリーとギル・スチュアートは[魔魂石]で繋がっていたのではないか、ということだ。
彼らが[魔魂石]を使って何をしようとしていたのかは分からないが、その石を手に入れる為に多くの人の命を犠牲にしていたと考えると、背筋に冷たいものが走る。
もしかしたら、大学生はその犠牲者の一人なのかもしれない。
エフェルローンは、遣り切れなさからため息をひとつ吐く。
とはいえ、ギルのことに関して言えば、エフェルローンには解せないことが二つあった。
ひとつ目は、ギルはなぜ、[魔魂石]を手に入れる必要があったのか、ということ。
そしてもう一つは、その一連のおぞましい行為に手を染めた[原動力]は、一体何だったのか、ということである。
(ギルとグラハム・エイブリー、そして――)
「[魔魂石]、か……」
脳裏に浮かぶのは、あのメモ紙の言葉。
――『青銅も銀も駄目だ』。
――『確実にやるなら金だ』。
あれは、[魔魂石]のことではないのだろうか。
(それに……)
葬儀の時に出会った娼婦の女性が言っていた言葉。
――『やっと、[爆弾娘]に罪を償わせる道具が揃う』
道具とは、ギルの家にあった[魔魂石]のことではないのか。
――『確実にやるなら金だ』。
だが、その中に[金の魔魂石]があったという情報は、残念ながら上がってきてはいない。
やはり、[金の魔魂石]ではなく、[金]という意味なのだろうか。
そして、更に謎を深めるのは。
ギルの葬儀でディーンとすれ違ったとき、微かに聞こえたあの言葉――。
――『……くっ、アデラ』
「アデラ、か」
もし、ギル殺害にアデラが関わっているとしたなら、ギルを殺した犯人は憲兵庁からの刺客ではないことになる。
(じゃあ、アデラは何のためにギルを?)
――何のために。
思考が完全に停止する。
「アデラか。くそっ!」
そう一言呟くと、エフェルローンは不機嫌そうな面持ちで頭をガシガシと掻きまわした。
その様子に、少し疲れた様子のルイーズが心配そうにこう言った。
「先輩、何もそこまで根詰めなくても。ついさっき、ギルさんを弔ったばかりなんですから……」
「そうですよ、先輩。悲しい時には悲しまなくちゃ。そうしないと心が持ちませんよ?」
同じく、憔悴気味のダニーもそう言って、エフェルローンを心配そうに見やる。
そんな二人の言葉に気を止めることもなく、エフェルローンは更に椅子に身体を沈めると、胸の前で指を絡めながら天井を睨む。
そんなエフェルローンに、ルイーズとダニーは互いに顔を見合わせると、共に肩を竦めるのだった。
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