正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

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第一章 呪われし者

狂った未来

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「それにしても大学の時以来じゃない? エフェルと酒飲むなんてさ」

 注文が一息ついたところで、ギルは当時を懐かしむようにそう言った。

「そういえば、ねえさんと二人で住むようになってから、『姉貴あねきが夕食を用意して待ってるから』って、家に帰ること多くなったもんな。それが今日はここにいるなんて。お前まさか、ほんとにデートだとか言わないよな?」

 ディーンが疑いの眼差まなざしでエフェルローンを見る。
 エフェルローンは眉間に立皺たてじわを刻むと、不機嫌そうにこう言った。

「歓迎会だよ。新人のね」

 その言葉に、ギルが即座に反応する。

「おっ、君。新人なの? 可愛いね~、いくつ?」

 そう言って、ルイーズにズイズイと押し迫るギル。
 彼は、憲兵庁の中でも無類の女好きで有名であった。

「あ、ありがとうございます。い、一応今年で二十一歳です……」

 後ろにずり下がりながら、困ったような顔でそう答えるルイーズ。
 栗色の瞳がおろおろと、左右を行ったり来たりしている。

(ったく、いわんこっちゃない……)

 先に運ばれてきた葡萄酒ワインをちびちびやりながら、エフェルローンは冷めた目でじりじりとルイーズに迫るギルを見る。

「なんだ、気になるのか?」

 耳元で、ディーンがからかうようにそう言う。

「まさか」
「だろうな、どうせお前の頭ん中はクローディアの事で一杯なんだろうし……だろ?」

 そう言って、ディーンは同じく食事より先に運ばれてきた麦酒エールあおる。

クローディア――かつて将来を誓い合った、元婚約者。そして、今は――。

「しらねーよ、馬鹿」

 ディーンに心を読まれたことにイラっとしながら、エフェルローンも赤葡萄酒ワインあおる。
 
 と、そのとき。

「あのお、伯爵。質問です」

 ギルの質問攻めで壁際に追い詰められていたはずのルイーズが、胸元で小さく手を上げた。

「はいルイーズさん、質問どうぞ~」

 ギルがノリも良くそう言って質問を促す。

「クローディアって、誰デスか?」

 ルイーズの、その質問に。
 
「お?」
「おお~?」

 ディーンとギルの目がパッと輝く。
 そして、二人同時にエフェルローンを見た。

 目の前に座っているルイーズはというと、なぜか酷く落ち着かない様子でエフェルローンを見ている。

(なんなんだ、一体……)

 訳が分からず、エフェルローンは取り敢えず葡萄酒を一口飲み下す。
 そして、きっぱりとこう言い放った。

「ノーコメント」

 その答えに、ギルが鼻を鳴らした。

「なーにが、『ノーコメント』だよ。色々と未練たらしい男だなぁ、まったくもう」

 茶化しながらそう言うギル。

「元彼女で婚約者だよ、こいつがまだ大きかった頃のね。今じゃ父親の強い意向で彼女はキースリー伯爵夫人だ。本人の意志ってのもあるだろうに、全く……むごい話さ」

 そう言って麦酒エールを流しのみ、口元を手の甲で拭うディーン。
 その目は若干の哀愁を帯びる。

「元婚約者、ですか」

 ルイーズは複雑そうな面持ちでそう言うと、水を一口ひとくち口に含む。
 両手で水のグラスを持ち、伏目がちに下を向くルイーズの瞳の奥には、安堵の中にも不安が同居しているようにも見えた。

 と、そんなルイーズを気の毒そうに眺め遣ると。
 ディーンは椅子の背もたれに深くもたれ掛かりながら、しみじみとこう言った。

「もし、あのときさ。任務が上手くいっていたら、エフェルの人生も変っていたのかもな」

 腕を組み、そう過去を惜しみながら、ディーンは酒をあおる。
 それに続くように、ギルも手元の酒杯ゴブレットの中身を見つめながら、何かに当て付けるかのようにこう言った。

「それに、ダニーの人生もね。彼ってば、今、王立図書館で司書やってるって。かつては未来の憲兵庁長官か、なーんて期待されてたのに。どこで何がどう狂っちゃったんだろうねぇ……」

 皮肉めいた口調でそう言うと、ギルは言葉に言い表せない不満や鬱憤を、手元の酒と共に飲み下すのであった。
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