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第一章 呪われし者
壊われゆく心
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そんなそんな風に、恥も外聞もなく[青銅の魔魂石]を拾い続けるエフェルローンを直視できず、ルイーズはその視線をキースリーに向けると怒りに声を震わせながらこう言った。
「なんで……何で伯爵! 何でこんなことを……!」
ルイーズの目に、薄っすらと涙が浮かぶ。
そんなルイーズを鼻で笑うと、キースリーは汚いものでも見るようにこう言った。
「善人面した傲慢な偽善者。それが、このエフェルローン・フォン・クェンビーって男の正体さ。そんな彼が、僕には鼻持ちならないってわけ」
「……クェンビー伯爵は、傲慢な偽善者なんかじゃありません!」
きっぱりとそう言い切るルイーズを鼻で笑うと、キースリーは苦々しい表情でこう言った。
「そうかな?」
そういうと、キースリーは口元に皮肉な笑みを浮かべながらこう話し始めた。
「彼はね、学生の頃、平民出身の僕にも貴族出身者たちと同じように接してくれたんだよ。普通は無視されるんだけどね。普通の平民なら泣いて喜ぶんだろうけど、僕にとっては屈辱だった……そう、まるで金を恵んでもらっている浮浪者の気分さ。最悪だったよ」
「…………」
凝視するルイーズを軽く一瞥すると、キースリーは皮肉った口調でこう言った。
「最終的には金と身分がものをいう。どんなに能力があっても平民は平民どまりってね。僕が今の立場を得られた理由も、貴族っていう身分と結婚したおかげさ。毛嫌いしていた権力だけど、今は感謝しているよ。なんたって、かつてこの国の未来の担うと目され、比較され続けていたクェンビー伯爵とこうして今、逆の立場で相まみえることが出来るんだからね。それにしても」
呆れたように床に目を落とすと、キースリーは無言で床を這いずるエフェルローンをまじまじ見ながらこう言った。
「それにしても……本当に拾うとはね、クェンビー。君にはプライドってものがないのかい?」
信じられないというように肩を上げるキースリー。
そんなキースリーを、ルイーズは歯を食いしばりながら睨みつけると激しくまくし立てこう言った。
「プライドがないのは、キースリー伯爵! あなたよ! あたなこそ傲慢の極みだわ! 私利私欲でこんな権力の乱用……決して許される訳がない! 国王だって、それにカーレンリース卿だってきっと許さないわ! 貴方は必ず裁きにかけられる……!」
だが、そんなルイーズの正当論など怖くないとでも云う様に、キースリーは不機嫌そうにこう言った。
「甘いな、新人。世の中はそう簡単にはいかないんだよ。いざとなれば、僕にはこいつを今の役職から更迭させるだけの力があるからね。場合によっては罪を着せて牢獄にぶち込む事も出来る」
「……それって、[犯罪]じゃないですか!」
食って掛かるルイーズ。
だが、キースリーはゆるりとかわしながらこう言った。
「でも、僕は捕まっていない。これがどういうことか分かるかい?」
「…………」
ルイーズはただじっとキースリーを睨み続ける。
キースリーは至極真面目な顔でこう言った。
「皆、[結果を出す]僕を必要としているってことさ、善きにしろ悪しきにしろ、ね……」
「ま、そういうことだ。ルイーズ、もう止めておけ」
[魔魂石]を拾い終えたのだろう。
立ち上がったエフェルローンは、そう言って膝の埃を払う仕草をする。
その片手には[青銅の魔魂石]がしっかり握られていた。
「伯爵……」
ルイーズが心配そうにエフェルローンを見る。
エフェルローンは、「どうとでもない」と言う風に鼻を鳴らした。
ホッとしたルイーズは、再度キースリーに視線を移すと、やはり納得できないという風にこう言い放つ。
「でもやっぱり、そんなの間違ってます!」
「間違い、ね……まあ、いいだろう。だが、君の言うその[間違い]とやらこそが、君の居るこの現実世界では[正しい]のだということ……しっかり覚えておくことだな、ルイーズ・ジュペリ。今後僕と仕事していくに当たってもね?」
そう言って、ルイーズに凄むキースリー。
そんな、脅しとも取れる物言いに身を固くするルイーズに、キースリーは更にこう言った。
「憶えておくよ、ジュペリ君。次に会うときが楽しみだよ……ふふふ、あははは……!」
こうして。
悪夢のようなこのひとときは、一時的に終わりを迎えるのであった。
「なんで……何で伯爵! 何でこんなことを……!」
ルイーズの目に、薄っすらと涙が浮かぶ。
そんなルイーズを鼻で笑うと、キースリーは汚いものでも見るようにこう言った。
「善人面した傲慢な偽善者。それが、このエフェルローン・フォン・クェンビーって男の正体さ。そんな彼が、僕には鼻持ちならないってわけ」
「……クェンビー伯爵は、傲慢な偽善者なんかじゃありません!」
きっぱりとそう言い切るルイーズを鼻で笑うと、キースリーは苦々しい表情でこう言った。
「そうかな?」
そういうと、キースリーは口元に皮肉な笑みを浮かべながらこう話し始めた。
「彼はね、学生の頃、平民出身の僕にも貴族出身者たちと同じように接してくれたんだよ。普通は無視されるんだけどね。普通の平民なら泣いて喜ぶんだろうけど、僕にとっては屈辱だった……そう、まるで金を恵んでもらっている浮浪者の気分さ。最悪だったよ」
「…………」
凝視するルイーズを軽く一瞥すると、キースリーは皮肉った口調でこう言った。
「最終的には金と身分がものをいう。どんなに能力があっても平民は平民どまりってね。僕が今の立場を得られた理由も、貴族っていう身分と結婚したおかげさ。毛嫌いしていた権力だけど、今は感謝しているよ。なんたって、かつてこの国の未来の担うと目され、比較され続けていたクェンビー伯爵とこうして今、逆の立場で相まみえることが出来るんだからね。それにしても」
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「それにしても……本当に拾うとはね、クェンビー。君にはプライドってものがないのかい?」
信じられないというように肩を上げるキースリー。
そんなキースリーを、ルイーズは歯を食いしばりながら睨みつけると激しくまくし立てこう言った。
「プライドがないのは、キースリー伯爵! あなたよ! あたなこそ傲慢の極みだわ! 私利私欲でこんな権力の乱用……決して許される訳がない! 国王だって、それにカーレンリース卿だってきっと許さないわ! 貴方は必ず裁きにかけられる……!」
だが、そんなルイーズの正当論など怖くないとでも云う様に、キースリーは不機嫌そうにこう言った。
「甘いな、新人。世の中はそう簡単にはいかないんだよ。いざとなれば、僕にはこいつを今の役職から更迭させるだけの力があるからね。場合によっては罪を着せて牢獄にぶち込む事も出来る」
「……それって、[犯罪]じゃないですか!」
食って掛かるルイーズ。
だが、キースリーはゆるりとかわしながらこう言った。
「でも、僕は捕まっていない。これがどういうことか分かるかい?」
「…………」
ルイーズはただじっとキースリーを睨み続ける。
キースリーは至極真面目な顔でこう言った。
「皆、[結果を出す]僕を必要としているってことさ、善きにしろ悪しきにしろ、ね……」
「ま、そういうことだ。ルイーズ、もう止めておけ」
[魔魂石]を拾い終えたのだろう。
立ち上がったエフェルローンは、そう言って膝の埃を払う仕草をする。
その片手には[青銅の魔魂石]がしっかり握られていた。
「伯爵……」
ルイーズが心配そうにエフェルローンを見る。
エフェルローンは、「どうとでもない」と言う風に鼻を鳴らした。
ホッとしたルイーズは、再度キースリーに視線を移すと、やはり納得できないという風にこう言い放つ。
「でもやっぱり、そんなの間違ってます!」
「間違い、ね……まあ、いいだろう。だが、君の言うその[間違い]とやらこそが、君の居るこの現実世界では[正しい]のだということ……しっかり覚えておくことだな、ルイーズ・ジュペリ。今後僕と仕事していくに当たってもね?」
そう言って、ルイーズに凄むキースリー。
そんな、脅しとも取れる物言いに身を固くするルイーズに、キースリーは更にこう言った。
「憶えておくよ、ジュペリ君。次に会うときが楽しみだよ……ふふふ、あははは……!」
こうして。
悪夢のようなこのひとときは、一時的に終わりを迎えるのであった。
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