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第一章 呪われし者
鋼の気位、硝子の心
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複数のカウンター席と机を巻き込み。
エフェルローンを突如襲った衝撃の元は、ごろんと床に転がった。
「ジュード!」
誰かが、悲壮な声でそう叫ぶ。
エフェルローンを跳ね飛ばし、床にごろんと転がったのは、どうやらジュードという若者らしい。
エフェルローンは床に這いつくばると、頭を二、三回振る。
そして徐に顔を上げたその視線の先には、先ほど啖呵を切っていた野太い声の男が、ジュードという青年の襟首を掴んでいるところであった。
(止めないと)
そうは思っても、先ほどの衝撃で脳震盪を起こしたのか、意識が朦朧として立ち上がることが出来ない。
その間にも、ジュードに対しての野太い男の執拗な口撃と喧嘩を煽る野次は続いていた。
「同じ故郷を失った同志だと思っていたが……違っていたようだな。全く、お前には失望したぜ、ジュード」
「でも私刑は良くないよ、ゲイル。それに、さっきも言ったけれど、僕は爆弾娘には、情状酌量の余地はあると思うんだ。彼女は故意に|殺(や)ったわけじゃないんだから」
「それは、お前が運良く家族をひとりも失わなかったから言える言葉だ。おれは……」
そう言って、言葉を詰まらせるゲイル。
「おれは、全てを失ったんだ。家も家族も思い出も、何もかもすべて……それでもお前は、俺に[爆弾娘]を私刑にするなと言うのか? なあ、ジュード」
そう言って握り拳を震わせるゲイルに、ジュードは申し訳なさそうに頭をもたげた。
「ゲイル……」
野次がぴたりと止まる。
皆、何か思うところがあるのだろう。
まるで母親に叱られた子供のように、ふつと黙り込んでしまう。
しばし訪れる沈黙。
それから、時を見計らったように。
店の女主人アイーダは、若者たちに大号令を発してこう言った。
「さ、あんたら今日はここまでにしときな。あとは静かに飲み直すか帰るか、自分たちで決めな」
アイーダの大号令で、半分の若者たちが白けた様子で店を出て行く。
常連客を除いた最後の若者が店を去ると、アイーダは倒れた机と椅子を元の場所に片付け始める。
と、そんな様子をぼんやりと眺めていたエフェルローンに、ディーンが不意にこう尋ねてこう言った。
「あのとき。国王に尋ねられたあの時。何でお前、あんな事を言ったんだ?」
「あんなこと……そうだな」
そう言って、エフェルローンはそれきり言葉を濁す。
(分かってたら、こんなに悩みはしない、よな……)
そんなエフェルローンのはっきりしないあやふやな態度に、ディーンがイライラとこう言った。
「『わからない』……って、どういうことなんだ?」
――分からない。
今も、よく分からない。
エフェルは答える代わりに酒を一口飲み下した。
「何にでも白黒付けたがるお前が、なんであんな中途半端な回答……らしくない」
そう指摘するディーンに、エフェルローンは机に片肘を突くと、頭をもたげながらこう言った。
「本当に分からなかったんだよ。正直、今もわからない。何が正しくて、何が間違っているのか」
そう言うと、エフェルローンは更に酒を一口飲む。
「更に言えば、俺が今までしてきたこと……俺が正しいと思って決断してきたこと自体、本当に正しかったのかってことまで考えてる」
「……おいおい、そりゃ重症だな」
「まあね」
エフェルは困ったように眉を顰めて苦笑う。
そんなエフェルローンをやっぱり苦笑しつつ眺め遣ると、ディーンは今までとは違う真面目な表情でこう言った。
「俺は、思うんだ。今日の会議で……お前があの[爆弾娘]を執行猶予無しの有罪と言っていたなら、きっとそうなったんじゃないかってな」
「かもね」
気の乗らない返事をエフェルローンはする。
そんな予感は自分の中にも薄々あった。
だからこそ、自分に自信を持てない状態ではっきりとした立場を明言できなかった、ということはある。
(俺の一言で、一人の人間の生死が決まる……そんなの、可笑しいだろう)
アルカサール王国が法治国家である以上、法に則り全てを決める。
そうなると、[爆弾娘]は故殺を証明出来ない理由から[推定無罪]となるだろう。
だがそうなると、残された遺族の感情が収まらない。
――死んでしまった多くの人々の無念は誰が晴らしてくれるのか。
と、そういうことになる。
しかも、加害者は庶民の敵とも言える貴族で、国の三大柱のひとつ、ジュノバ家の血統ときてる。
貴族側としては、殺意がなかったのがだから当然、[推定無罪]主張してくるだろうが、そうなると庶民側としては、貴族の権力乱用を疑い、最悪、貴族対庶民という国家の分裂を招きかねない。
(国の安定を担う執政官たちは、すぐにでも[爆弾娘]を処刑して国民の気持ちを宥めたいところだろうが――)
――人の命はそう簡単に扱われるべきじゃない。
「お前も知ってるだろう、ディーン。法に則れば、殺意を証明できない場合、それは[推定無罪]。命は軽々しくやり取りされるべきじゃない。それに結果はもう出た。今更なんだっていうんだ……」
そんなエフェルローンのうんざりした様子など気にする風もなく、ディーンは更に話を進める。
「じゃあ聞くが。あのとき、あの六年前の事件で、多くの人たちが罪もなく死んだ。その中には、[爆弾娘(リズ・ボマー)]と同じぐらいの娘も多くいたはずだ……それなのに、だ。あの[爆弾娘(リズ・ボマー)]は今、ジュノバ公とカーレンリース伯爵の庇護の元、何不自由なく生きている。生きているんだぞ、エフェル! ジュノバ公の義妹だというだけで、人をたくさん殺しておきながらのうのうとな……! それは、果たして公正と言えるか? なあ、エフェル」
そう言って、酒杯を握るディーンの手が震える。
「お前だって、多くを失っただろう? 身体の変化、魔力の減退、役職の解雇、それに、ずっと付き合ってきた婚約者だって……!」
「そうだね」
ディーンの言っている事は本当の事だ。
呪いに掛かり、多くを失い、そして傷ついた。
今も時々思う。
――あの時の選択は、本当に正しかったのだろうか、と。
「知っているか、エフェル。お前の元婚約者……」
「ああ、結婚して幸せに暮らしてるさ」
投げやりにそう答えるエフェルローンに、ディーンはため息交じりにこう言った。
「それが、郊外の館に逃げ込んでいるそうだ。なんでも、キースリーとの結婚を未だに受け入れていないらしい」
「そう。だから、何? 俺にはもう関係ない」
そうは言ったものの。
彼女の事を思うと、胸の奥が微かに痛んだ。
愛していなかった、といえば嘘になる。
それは、相手も同じはずだ。
利害関係があったとはいえ、互いに好意を持っていた。
友人以上の好意を。
その愛した女性《ひと》が今、愛してもいない男の支配の下で苦しみ続けている。
「なんでそんなことに?」
自分のせいだと薄々感じながらも、エフェルローンはそう尋ねる。
そんなエフェルローンに。
ディーンは眉間にしわを寄せると、呆れたようにこう言った。
「なんでって……原因はお前だろうよ、エフェル。お前ら、凄く仲良さそうだったしな」
「……そう、か」
エフェルローンの脳裏に苦い思い出が蘇る。
縁談が破棄になった後。
彼女の新たな婚約者が毎晩違う女と派手に遊び回っていると聞いて、エフェルローンはその男に事の真実を詰め寄った。
そんなエフェルローンに男は勝ち誇ったようにこう言ったものだ。
――彼女はもう君のものじゃない。第一、君が彼女と一緒になったところで、一体その小さな体で何を守れるって言うんだ? どう彼女を幸せにする? はっきり言わせてもらうが、君には無理だ。地位も名誉も魔力も持たない、元天才魔術師のエフェルローン・フォン・クェンビー様?
そう言ってせせら笑うその男の下卑た声音を思い出し、エフェルローンは頭を振る。
そんなエフェルローンを気の毒そうに見やると、ディーンは酒杯を手の中で回しながらこう問いかけた。
「本当に、お前はこれで良いと思うのか? お前の人生を、多くの人の人生を破壊した[爆弾娘]を生かしたままで、本当に良いと思うのか……?」
「…………」
そういうと、ディーンは酒杯を空にして机の上にコトリと置いた。
「まあ、これは俺の愚痴だがな。悪かったな、エフェル。嫌な思いさせちまって……今日の話は全部聞き流してくれ。今日は俺の奢りだ」
そう言って、銀貨一枚をテーブルの上に投げるように置くと、ディーンは一度も振り返ることなく店を後にした。
残されたエフェルローンは、酒杯の中の残った酒を見つめると、そこに映る自分の歪んだ顔を一気に飲み干す。
(まるで、俺の心そのものだな……)
今にも泣きだしそうな心に、エフェルローンは苦笑した。
力がないことの、なんと惨めなことか。
力がないことの、なんと情けないことか。
自信がないことの、なんと頼りないことか。
心の奥底から怒りや悲しみ、憎しみや後悔といった負の感情が次々と沸き上がってくる。
――あのとき。
[子供化の呪い]をこの身に受けた、あの時、あの瞬間――。
脳裏を過ぎるのは、過去の忌まわしい記憶。
(なんで俺は、あの[大量殺人者]を助けた――?)
[爆弾娘]――街ひとつ壊滅させた、無差別殺人者。
本来なら、死して然るべき存在の少女。
(それなのに、どうして俺はあの少女を助けたんだ――?)
これでもかと込み上げてくるのは、決して消えない後悔の念。
(もしあの時、あの場所に戻れるなら、俺は……俺の正義を、信念を捨ててもいい!)
守りたいものも守れない信念ならば――。
「クローディア、君の幸せが守れるなら、俺は……」
(そう出来るなら俺は……俺はこの手で、[爆弾娘]を――)
空の酒杯を握る手に力がこもる。
悔やんでも悔やみきれない、過去に対する後悔の念。
それに。
(子供化にならなければ、俺は[あいつ]なんかに……)
かつて、魔術師としての頂点を競い合ったキースリー。
だが今は、地位も名誉も、魔術師としても、その足元には及ばない。
「くそっ」
滲む涙を手の甲で拭うと、エフェルローンはアイーダに追加の酒を注文する。
外は、闇。
目の前に差し出された酒杯を一瞥すると、エフェルローンはそれを一気に煽るのであった。
エフェルローンを突如襲った衝撃の元は、ごろんと床に転がった。
「ジュード!」
誰かが、悲壮な声でそう叫ぶ。
エフェルローンを跳ね飛ばし、床にごろんと転がったのは、どうやらジュードという若者らしい。
エフェルローンは床に這いつくばると、頭を二、三回振る。
そして徐に顔を上げたその視線の先には、先ほど啖呵を切っていた野太い声の男が、ジュードという青年の襟首を掴んでいるところであった。
(止めないと)
そうは思っても、先ほどの衝撃で脳震盪を起こしたのか、意識が朦朧として立ち上がることが出来ない。
その間にも、ジュードに対しての野太い男の執拗な口撃と喧嘩を煽る野次は続いていた。
「同じ故郷を失った同志だと思っていたが……違っていたようだな。全く、お前には失望したぜ、ジュード」
「でも私刑は良くないよ、ゲイル。それに、さっきも言ったけれど、僕は爆弾娘には、情状酌量の余地はあると思うんだ。彼女は故意に|殺(や)ったわけじゃないんだから」
「それは、お前が運良く家族をひとりも失わなかったから言える言葉だ。おれは……」
そう言って、言葉を詰まらせるゲイル。
「おれは、全てを失ったんだ。家も家族も思い出も、何もかもすべて……それでもお前は、俺に[爆弾娘]を私刑にするなと言うのか? なあ、ジュード」
そう言って握り拳を震わせるゲイルに、ジュードは申し訳なさそうに頭をもたげた。
「ゲイル……」
野次がぴたりと止まる。
皆、何か思うところがあるのだろう。
まるで母親に叱られた子供のように、ふつと黙り込んでしまう。
しばし訪れる沈黙。
それから、時を見計らったように。
店の女主人アイーダは、若者たちに大号令を発してこう言った。
「さ、あんたら今日はここまでにしときな。あとは静かに飲み直すか帰るか、自分たちで決めな」
アイーダの大号令で、半分の若者たちが白けた様子で店を出て行く。
常連客を除いた最後の若者が店を去ると、アイーダは倒れた机と椅子を元の場所に片付け始める。
と、そんな様子をぼんやりと眺めていたエフェルローンに、ディーンが不意にこう尋ねてこう言った。
「あのとき。国王に尋ねられたあの時。何でお前、あんな事を言ったんだ?」
「あんなこと……そうだな」
そう言って、エフェルローンはそれきり言葉を濁す。
(分かってたら、こんなに悩みはしない、よな……)
そんなエフェルローンのはっきりしないあやふやな態度に、ディーンがイライラとこう言った。
「『わからない』……って、どういうことなんだ?」
――分からない。
今も、よく分からない。
エフェルは答える代わりに酒を一口飲み下した。
「何にでも白黒付けたがるお前が、なんであんな中途半端な回答……らしくない」
そう指摘するディーンに、エフェルローンは机に片肘を突くと、頭をもたげながらこう言った。
「本当に分からなかったんだよ。正直、今もわからない。何が正しくて、何が間違っているのか」
そう言うと、エフェルローンは更に酒を一口飲む。
「更に言えば、俺が今までしてきたこと……俺が正しいと思って決断してきたこと自体、本当に正しかったのかってことまで考えてる」
「……おいおい、そりゃ重症だな」
「まあね」
エフェルは困ったように眉を顰めて苦笑う。
そんなエフェルローンをやっぱり苦笑しつつ眺め遣ると、ディーンは今までとは違う真面目な表情でこう言った。
「俺は、思うんだ。今日の会議で……お前があの[爆弾娘]を執行猶予無しの有罪と言っていたなら、きっとそうなったんじゃないかってな」
「かもね」
気の乗らない返事をエフェルローンはする。
そんな予感は自分の中にも薄々あった。
だからこそ、自分に自信を持てない状態ではっきりとした立場を明言できなかった、ということはある。
(俺の一言で、一人の人間の生死が決まる……そんなの、可笑しいだろう)
アルカサール王国が法治国家である以上、法に則り全てを決める。
そうなると、[爆弾娘]は故殺を証明出来ない理由から[推定無罪]となるだろう。
だがそうなると、残された遺族の感情が収まらない。
――死んでしまった多くの人々の無念は誰が晴らしてくれるのか。
と、そういうことになる。
しかも、加害者は庶民の敵とも言える貴族で、国の三大柱のひとつ、ジュノバ家の血統ときてる。
貴族側としては、殺意がなかったのがだから当然、[推定無罪]主張してくるだろうが、そうなると庶民側としては、貴族の権力乱用を疑い、最悪、貴族対庶民という国家の分裂を招きかねない。
(国の安定を担う執政官たちは、すぐにでも[爆弾娘]を処刑して国民の気持ちを宥めたいところだろうが――)
――人の命はそう簡単に扱われるべきじゃない。
「お前も知ってるだろう、ディーン。法に則れば、殺意を証明できない場合、それは[推定無罪]。命は軽々しくやり取りされるべきじゃない。それに結果はもう出た。今更なんだっていうんだ……」
そんなエフェルローンのうんざりした様子など気にする風もなく、ディーンは更に話を進める。
「じゃあ聞くが。あのとき、あの六年前の事件で、多くの人たちが罪もなく死んだ。その中には、[爆弾娘(リズ・ボマー)]と同じぐらいの娘も多くいたはずだ……それなのに、だ。あの[爆弾娘(リズ・ボマー)]は今、ジュノバ公とカーレンリース伯爵の庇護の元、何不自由なく生きている。生きているんだぞ、エフェル! ジュノバ公の義妹だというだけで、人をたくさん殺しておきながらのうのうとな……! それは、果たして公正と言えるか? なあ、エフェル」
そう言って、酒杯を握るディーンの手が震える。
「お前だって、多くを失っただろう? 身体の変化、魔力の減退、役職の解雇、それに、ずっと付き合ってきた婚約者だって……!」
「そうだね」
ディーンの言っている事は本当の事だ。
呪いに掛かり、多くを失い、そして傷ついた。
今も時々思う。
――あの時の選択は、本当に正しかったのだろうか、と。
「知っているか、エフェル。お前の元婚約者……」
「ああ、結婚して幸せに暮らしてるさ」
投げやりにそう答えるエフェルローンに、ディーンはため息交じりにこう言った。
「それが、郊外の館に逃げ込んでいるそうだ。なんでも、キースリーとの結婚を未だに受け入れていないらしい」
「そう。だから、何? 俺にはもう関係ない」
そうは言ったものの。
彼女の事を思うと、胸の奥が微かに痛んだ。
愛していなかった、といえば嘘になる。
それは、相手も同じはずだ。
利害関係があったとはいえ、互いに好意を持っていた。
友人以上の好意を。
その愛した女性《ひと》が今、愛してもいない男の支配の下で苦しみ続けている。
「なんでそんなことに?」
自分のせいだと薄々感じながらも、エフェルローンはそう尋ねる。
そんなエフェルローンに。
ディーンは眉間にしわを寄せると、呆れたようにこう言った。
「なんでって……原因はお前だろうよ、エフェル。お前ら、凄く仲良さそうだったしな」
「……そう、か」
エフェルローンの脳裏に苦い思い出が蘇る。
縁談が破棄になった後。
彼女の新たな婚約者が毎晩違う女と派手に遊び回っていると聞いて、エフェルローンはその男に事の真実を詰め寄った。
そんなエフェルローンに男は勝ち誇ったようにこう言ったものだ。
――彼女はもう君のものじゃない。第一、君が彼女と一緒になったところで、一体その小さな体で何を守れるって言うんだ? どう彼女を幸せにする? はっきり言わせてもらうが、君には無理だ。地位も名誉も魔力も持たない、元天才魔術師のエフェルローン・フォン・クェンビー様?
そう言ってせせら笑うその男の下卑た声音を思い出し、エフェルローンは頭を振る。
そんなエフェルローンを気の毒そうに見やると、ディーンは酒杯を手の中で回しながらこう問いかけた。
「本当に、お前はこれで良いと思うのか? お前の人生を、多くの人の人生を破壊した[爆弾娘]を生かしたままで、本当に良いと思うのか……?」
「…………」
そういうと、ディーンは酒杯を空にして机の上にコトリと置いた。
「まあ、これは俺の愚痴だがな。悪かったな、エフェル。嫌な思いさせちまって……今日の話は全部聞き流してくれ。今日は俺の奢りだ」
そう言って、銀貨一枚をテーブルの上に投げるように置くと、ディーンは一度も振り返ることなく店を後にした。
残されたエフェルローンは、酒杯の中の残った酒を見つめると、そこに映る自分の歪んだ顔を一気に飲み干す。
(まるで、俺の心そのものだな……)
今にも泣きだしそうな心に、エフェルローンは苦笑した。
力がないことの、なんと惨めなことか。
力がないことの、なんと情けないことか。
自信がないことの、なんと頼りないことか。
心の奥底から怒りや悲しみ、憎しみや後悔といった負の感情が次々と沸き上がってくる。
――あのとき。
[子供化の呪い]をこの身に受けた、あの時、あの瞬間――。
脳裏を過ぎるのは、過去の忌まわしい記憶。
(なんで俺は、あの[大量殺人者]を助けた――?)
[爆弾娘]――街ひとつ壊滅させた、無差別殺人者。
本来なら、死して然るべき存在の少女。
(それなのに、どうして俺はあの少女を助けたんだ――?)
これでもかと込み上げてくるのは、決して消えない後悔の念。
(もしあの時、あの場所に戻れるなら、俺は……俺の正義を、信念を捨ててもいい!)
守りたいものも守れない信念ならば――。
「クローディア、君の幸せが守れるなら、俺は……」
(そう出来るなら俺は……俺はこの手で、[爆弾娘]を――)
空の酒杯を握る手に力がこもる。
悔やんでも悔やみきれない、過去に対する後悔の念。
それに。
(子供化にならなければ、俺は[あいつ]なんかに……)
かつて、魔術師としての頂点を競い合ったキースリー。
だが今は、地位も名誉も、魔術師としても、その足元には及ばない。
「くそっ」
滲む涙を手の甲で拭うと、エフェルローンはアイーダに追加の酒を注文する。
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