正義の剣は闘いを欲する

花邑 肴

文字の大きさ
上 下
7 / 127
第一章 呪われし者

血の連鎖

しおりを挟む
 結局、辺りをウロウロしてるうちにすっかり夜が明けてきたようだった。
 自販機は鵜の森交差点の上州屋の前に見つけたので、そこでコーヒーやら買って、しばし雑談。
 
 そこからでも、相模外科は嫌でも視界に入る……。
 遠目から見ても、やっぱりそこだけ切り取ったように暗い……。
 
 でも、視界に入れないようにしてなんとなくダベる。
 
「100円玉で買える温もりって……今は、110円って言いなおさないとなー」

「自販機100円って、それいつの話だよ!」

「尾崎豊って、知らね? 今度カラオケで歌ってやるよ……俺、結構上手いよ」

「へぇ、見延君……声、良いしね! 今度、聞かせてよ」
 
 しょうもない雑談が続く。

「この建物って、なんで斜めってるの?」

「ここの上州屋って、元々アルペンだったからね……森野の方にも上州屋あるけど、そっちも元アルペン」

 灰峰さん、妙なことに詳しい。

「どんだけ、アルペン好きなんだよ……上州屋」

 スキー用品のアルペンから釣具屋と華麗なる転身を遂げたこの上州屋。
 このパターンって、意外と多くて、知ってるだけでも3-4件はこのパターンだった。
 
 店の前の自販機前で、若造共がだべってて、さぞ近所迷惑に思えるけど。
 ご近所っても、目の前にあるのは畑……ぶっちゃけ、何もない。
 
 この数年後、灰峰姉さんの影響で、立派な釣り人となった俺は、ここの常連になるのだけど、それは暫く先のお話。
 まぁ、釣りに関しては、この灰峰姉さんが師匠的な感じになって、あっちこっち行くことになるのだけど、その行く先々で割と心霊現象を体験するハメになる。
 
 それはともかく、時刻は午前4時……すっかり空が明るくなっていた。

 待望の夜明けである。
 
 待ってましたとばかりに、俺達は、朝日を浴びながら、相模外科の前に再び立っていた。

 今度は、フルメンバー……そのまま帰るのも何だからと、とりあえず目の前まで来てみた。
 
 さすがに、灰峰ねーさんに色々吹き込まれたので俺も、ややビビり。
 
「……で、どうよ? つか、先陣は任せたよ……ねーさん」

「いや、何があったのか知らないけど、なんか……嘘みたいに雰囲気が変わってる……なにこれ? 何が起きたの?」

「ホントだ……夜が明けたら、いきなり雰囲気変わったな……」

 相変わらずだったら、今日は撤退と言ってた灰峰ねーさんもさっきと様子が違うと言って、今度は乗り気。

 徳重も同じようなこと言ってる。
 
 ホントかよ? でもなんとなく、前に来た時に感じてた圧迫感が和らいだような気がする。
 
「なんかもう俺達だけみたいだし、すっかり明るくなってるから、中見て回ってみる? ここで解散っても消化不良っしょ」

 と言うか、コンビニ探すと言っときながら、単に辺りをウロウロして自販機囲んでただけだった俺達。
 ぶっちゃけ皆、何も言わなかっただけで、思いは一つ!
 
『明るくなってから、こよーぜ!』
 
 要は、モノの見事に揃いも揃って、ヘタれてたってのが実情。
 もっとも、明るくなったら、無駄に強気化……そんなもんなんである。
 
「……なんだこれ。……ホントに同じ場所なのかな?」
 
 確かに明るくなったのもあるだろうけど、もう入った時の雰囲気が全然違う。
 
 夜明け間際の冷たい空気は相変わらずなんだけど、ただの廃墟……そんな感じだった。
 
 ちなみに、地下室はスルー! 
 だって、そこだけは常闇なんだもん。
 
「なんか、ちょっと目を放した隙に建物自体がごっそり入れ替わったんじゃないかって、気もするね……それくらい、雰囲気が違う……さすがに、これは君達でも解るんじゃないかな?」

「そこまでかよ……確かに、雰囲気がぜんぜん違うけど……」

「そこまでだよ……まぁ、これなら、多分大丈夫だから、物理的に気をつければ、何の問題もないと思うよ」
 
 そして、何となく皆バラけて、あちこち好き勝手に歩き回る。
 須磨さんは、灰峰ねーさんに付いてったらしく、俺ソロ状態!
 
 俺は二階を散策する。 
 なんとなく上には行きたくなかったもんで、階段付近をうろついて、部屋の中を覗いてみたり、背後を気にしながら、いつでも撤退できるように……この辺、俺ヘタレ。

 須磨さんと灰峰ねーさんがキャイキャイ言いながら、下に降りてったのを見送り、俺も帰ろうかなと思ってたら、反対側の階段から高藤がぬっと姿を見せる。
 
 ちょっとビビったのは内緒。
 
「高藤ちゃん、ちゃーっす! どうよーっ! なんか面白い事あった?」

 二階の廊下を、もう三回目くらい往復して、何も居ないって確認済み。
 もう怖くもなんとも無くなってたから、高藤への挨拶も軽いもの。
 
「おーうっ! 見延っ! なんだ上にいないと思ったら、こんなとこで一人でウロウロしてたのかい? てか、怖くなったんだろ? ベイビー! 何なら、俺様が熱い抱擁でも……」

 高藤はたまにこの手のホモネタを振ってくる。
 まぁ、俺はいつも華麗にスルーなんだけどな!

「いらねぇよ……さっき、灰峰ねーさんと須磨さんがもう帰らね? って言って下に降りてったよ。……他は上? なんか飽きたし、そろそろ俺らも撤収しねぇか?」

「そうだな……まぁ、夜中に比べて明るいし、全然怖くないし……ちょっと拍子抜けしたな。全くつまらん……俺はここに刺激を求めてきたんだぜ……」

「俺は、そんなスリリングな展開とか、御免こうむるよ」

 お互い歩み寄りながら、そんな話をする。
 この時点で、俺達は……油断しきってた。
 
 お互い、ソロで動いてて仲間と会って、安心したってのもあったのかもしれない。

 けど、その時の俺は文字通り無防備だった……。
 
 
 ――それは、突然の事だった。

 
 背後に人の気配を感じて、思わず立ち止まった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...