パサディナ空港で

#199 小道具もわるくない（恋愛ドラマ+）

　俺はその時、ドラマの小道具をやっていて、たまたま誰もが知っているアイドルと知り合いになった。





　彼女は、たまたま自分が担当しているドラマの出演者だった。担当といっても、ただの下っぱに過ぎなかったが。
　
　
　
　
　
　こんなことをいうと持ち道具の人に怒られてしまうかもしれないが、毎回、持ち道具の人はいいなと思って見ていた。
　
　
　
　
　
　
　むろん、持ち道具をやったことはないので、持ち道具さんならではの時代考証的な難しさや、アリモノではなく、いちから作らなくてはならないものであるとか、専門分野の苦労はあるのだろうけれど、やってみたいなというのはあった。
　
　
　
　
　
　大道具には、大学が一緒だったイケメンのベーシストがいて、大道具に来ないかと会うたびに誘われていたが、高いところはまず無理ゲーなので、断っていた。
　
　
　
　

　
　しかし、偶然にも同じドラマをやっていたのは面白かった。結局、一緒にバンドをやることはなかったけれど、彼女さんがまたすごい美人で、やっぱりベースに転向しようかなと思ったり思わなかったり。
　
　
　

　
　
　ま、そんな話は、また機会があればと思いますが、とにかくアイドルの彼女は、遠くからでも華やかな雰囲気にすぐに気づくくらいオーラがすごかった。





　ただ、ある朝、食堂で見かけた時は、スッピンだったようで、あまりにもハードスケジュールで睡眠がとれてないのだろうかと心配になるくらい目の下に、クマができていた。
　





　2Hとかの単発ではない、長丁場の連続ドラマなので、毎回毎回撮影現場で彼女と顔を合わせている内に、ごく自然に仲良くなった。
　
　
　

　

　仕事柄いくらでも綺麗な女優さんを生で見れるけれど、やはり若い子の方がいいし、歳が近いぶん話しやすかったのかもしれなかった。







　ワンクール終わる頃には、自分たちはもう抜き差しならぬ間柄になっていた。

　
　
　
　
　
　
　

　自分は、ふたりきりになると、すぐハグしてキスしたくなってしまうという病気だったので、カメラのあるエレベーターは避け、非常階段でこっそりキスしたり、なかなか来ないエレベーターを諦めて仕方なく階段を使うフリして、階段室でキスしたりしたこともあった。


　
　
　
　
　たぶん、彼女は片時も頭から離れない相当なストレスを抱えていて、それから逃避するようにして、恋愛ゲームを楽しんでいたのだと思っている。
　
　
　
　
　
　なので、ほんとうに恋していたわけではなく、相手は誰でもよかったのだと思う。