パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#161 スーパー無関心

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*月*日

   おれはその時、Al Di Meola は下手くそといわれて泣きながらギターの練習をしたという音楽雑誌に載っていた記事を思い出していた。

   なぜまたそんなことを思い出したのか、思い出すそのきっかけがきっとあったはずなのだが、まったくわからない。

   昨夜、夜半から雨は降りだしたようだったが、今朝になってもいまだに小雨がぱらついている。バス停にはすでに数名の列ができていた。

   きのうはH&Mで嫌いなポロシャツを買った。H&Mは好きだけれど、キライなポロシャツを買ったのだ、H&Mで。それは微妙な色のオレンジだった。

   ポロシャツはもともと似合わないのでほんとうに好きではないのだが、急いでトイレで着替えた。

   待ち合わせの時間ギリギリになって、やはり服を替えようと思い立ってしまったのだった。

   なぜなのか自分でもよくわからない。考えてみるとそういうことが結構ある。

   自分のとった行動が自分の意思でなされたのかどうか判断できないというケースのことだ。

   行動してからなぜまた自分はこんなことをしたのか、あんなことをしたのだろうと、しばしば思考停止することがある。

   明確な理由があるのか否か、それは考えてもわからない類いのものであり、ただ頭が真っ白になるだけなのだから、毎度の事なのでもう考えないことにしている。

   ものを考えないとバカになるが、バカがさらに進行して深刻な事態にならないとよいのだがくらいは考えてはいるつもりだ。

   ロクシタンカフェで待ち合わせした。スクランブル交差点を見下ろせる窓際で、俺はあゆみは待っていた。

   交差点を往き交うモンスターやら亡霊のようなコスチュームを纏った遊び人を眺めるのが好きだった。

  いや、パリピを装いながら実際は、モノホンの亡霊やバケモノかもしれない。

  きのうは、あゆみに別れを切り出すつもりだったのだが、結局言い出せないままだった。

  そういえば、ずっと以前にもスクランブル交差点を眺めながら別れを告げたことがあったことを思い出した。

   
  
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