パサディナ空港で

トリヤマケイ

文字の大きさ
150 / 222

#149 推しメンと結婚します👰

しおりを挟む
*月*日

推しメンの卒業ライブだった。





オレは社会不適合者で、極度の対人恐怖症でありコミュニケーション能力はゼロ。





なので、握手会とかは言うに及ばずミーグリとかいうオンラインでの会話でもまともに推しメンと話せなかった。






そういった意味合いからすると、オレは結構アイドルの間では知られている存在なのかもしれない。






あがり症のオレは、ある時腹話術のように人形に喋らせるということを思いついた。






オンラインではノートパソコンの前に熊のぬいぐるみを置いて、その横でオレが喋るという感じだ。






いわゆる地下アイドルの現場では、チェキはとりあえず一緒に撮ってもらうが、会話は熊のぬいぐるみに任せている。







ライブ中は、壁際でそれこそ地蔵のように微動だもせずひっそりと佇みながら、心の中で精一杯の声援を送っている。







なので、雪をかぶった笠地蔵であるとか、腹話術師匠とかヲタクたちには呼ばれていた。








雪をかぶったというのは、髪はザビエル禿げとかではなく、とりあえず申し訳程度にはあるのだが、かなり白髪が目立っていた。








だから、ヲタクたちがヒソヒソ雪をかぶった笠地蔵と呼ぶのは、言い得て妙なネーミングなのだった。








そして、腹話術師匠の師匠は、常に行動を共にしている熊のぬいぐるみのマーが茶色で、ハンバーグに似ているところからも来ているらしい。







まあ、影で何を言われていようが、こんな自分でもとにかくヲタクたちの一員として現場では認めてくれているのだから、なんの不満もなくありがたいことだった。








しかし。そんなささやかな幸せも実に他愛なく終わってしまうものなのだ。









オレは最期の最後に「これだけは絶対に伝えたくて」と、チェキの際にぬいぐるみのマーに言わせた。 








卒業ライブが終わり、本当に最後なのにそれでもオレは、面と向かって話すのが恥ずかしかった。








特別な事じゃなくヲタクは二言目には言うお約束みたいなあたりまえの文言なんだけれど、オレには言えなかった。







だから。最後にこの気持ちをこの言葉を伝えたくて。駄目なことは無論わかっているけれど、伝えたくて。









「愛しています。結婚してください」と、マーは顫えながら言った。








「わかった。うれしい。でも、その言葉だけはクマのぬいぐるみじゃなくて、あなた自身から言ってほしい。いい返事はできないかもしれないけれど、それだけはその言葉だけは、自分でちゃんと言ってほしい」








そして、オレは初めて面と向かって推しメンに愛を伝え、意思表示した。







オレの初めての告白は、絶望という名の消滅点であるとはじめから決まっていたのだ。









告白からはじまるのではなく告白することによって終わらせたのだ。










そして、これで完全に終わりなのだと思うと涙がとまらなかった。












キミがすべてだった。








明日からどうやって生きていけばいいのかわからない。










夜の底のような漆黒の車窓に映り込む暗い目をした、しょぼくれたオヤジがオレを哀しげに見つめている。










オレはキミというヒカリを失った。








それでも心の中でキミの名を呼ぶ。胸が張り裂けるような声で。










愛してる、愛してる...










しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...