パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#137 焼肉定食

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*月*日

   そのドラマ「焼肉定食」は深夜枠にしても酷い内容だった。

   お粗末な出来というわけではない。ただ前衛すぎるのだった。

   シナリオが前世紀の遺物みたいな巨匠と云われる人が書いたらしく、昭和のアナーキーな臭いがプンプンした。

   想うに現代の新しい感覚にはついてこれずに、苦肉の策でこれが今、新しいと開き直って書いてきたのではないだろうか。

   ストーリーはとりあえずあるが、とにかくアナーキーで救いのないドラマだった。

   主要な登場人物が8人いるのだが、10話完結の3話目からそれは始まった。

   嵐でクルーザーが沈没、荒海に投げ出された8人は三日三晩漂流し、やっとたどり着いた無人島で登場人物がわけがわからないまま次々に殺されていく。

  ドラマは立て続けに登場人物が殺されていくばかりで、無人島に殺人鬼が隠れ棲んでいたのか、あるいは人類ではない何かが潜んでいたのか、犯人像は一切明かされない。

   最終話で、最後まで残った主人公があっけなく、しかし非常にむごたらしく惨殺されてしまった後、カメラは不意に何者かの視線そのもののようになって、森に分け入り険峻な獣道を這うように登っていき、やがてその視線の持ち主は、大パノラマが広がる崖っぷちに佇みながら、何やら詩歌を呟くと魔性のものに魅入られたように美しく輝く大海原に身を投げるのだった。
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