パサディナ空港で

トリヤマケイ

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# 123 誰?

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*月*日

   川島雄三、ジャック・リベット、レオン・カラックス、ダニエル・シュミット……。

   ぼくは呪文のように好きな監督の名をあげてゆく。

   テレビでは……何だろう? 昔、確か見たことがあるような白黒の映画をやっている。

   こんなアンニュイな午後がきみにはよく似合うね。声に出してそう云ってみた。するとどうだろう、本当にきみがすぐそばにいるような気がしてきたばかりか、きみの息遣いさえ聞こえてくるような気がする。

   とっても不思議な感じだ。

   春風に髪をなぶられるような優しいきみの雰囲気そのままに、醸し出されてくるこの感じは、まさに彼女そのものだ。

   やがて驚くべき現象が眼前に立ち現れはじめた。彼女? が足の方から見えはじめてきたのだ。

   徐徐に像を結んでいくような…そんな風に表現すればいいだろうか。

   彼女はサンダルを履いていて、ペディキュアを施した可愛い爪が妙に生生しく、艶かしいほどだ。

   口をぽかんと開け、目を見開いて見つめているとずんずん彼女は姿を現わしていく。
すらりと伸びた綺麗な脚は、ローライズを穿いているのかな?

   アウターは、濃い目のベージュで、シフォンのふんわりとしたチュニックのようだ。ボリュームのある裾は、繊細なチュールで、それもレイヤーになっている。

   彼女とは、アテネ・フランセでおんなじ講義を受けていて、なんとなく喋るようになった。

   映画がふたりとも好きで、はじめてのデートは『千と千尋の神隠し』を吉祥寺に見に行った。


   もうすでに腰のくびれが見えている。

アンダーバストの切り替えしが、またチュールでかわいい。彼女とはべつに別れたわけではないのだけれども、彼女はシアトルに独り留学してしまった。

   むろん一緒に行こうと誘われたけれど、ぼくは極度の英語アレルギーがあって、アメリカに渡るなんて考えただけでも蕁麻疹が出てしまうのだった。

   豊かな胸の膨らみが見えてきた。インナーは、黒のキャミだ。

   と、そこらへんで鈍いぼくにもおおよその見当はついた。思わせブリブリ、期待に胸をふくらまさせておいて実はまったくの別人なのだ、どうせそういうオチがあるに決まってる。

   たとえば…。

①すごく似ているけれど、ただのそっくりさん。

②首が前後逆に付いている。

③首から上がない。

④首から上はあるけれども、顔がのっぺらぼう。

⑤顔が前後左右に計四面ある。

⑥首から上は人間ではない。

⑦首がいつまでも終わらない。

⑧首は正常だけれど、顔の方がべらぼうに長い。

⑨やたら髭が濃い。ていうか、顔は男。

⑩鼻毛がのび放題のびている。

⑪ただのニューハーフ。

⑫パンツを被ってる。

   とまぁ、こんな感じでいずれにせよ、彼女自身であるはずもないのだから、こんな事を考えていること自体馬鹿げているのかもしれない。

   肩、そして
   首が現われてきた。
   さあ、いよいよだ。
   顎の先が見える。
   花びらのような可憐なくちびる。
   通った鼻筋。

   さあ、こい!
   いったい、きみは誰なの?
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