パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#98 薄氷

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*月*日

   桜が咲くと必ずと言っていいほど、雨がふる。あゆみと最後に会った日。その日も花冷えのする美しい日だった。

   恋人たちがどのような理由から別れていくものなのか知りようもないが、たとえば二股かけていたとか性格が合わないであるとか、はなから遊びだったとかそういった明確な理由のない別れもある。

まさに、私とあゆみとが別れた理由を説明することは不可能だった。それは、別れることがはじめから決まっていた、そう思うしかない別れ方だった。

   いや、今想い出してみると私たちは厳密にはまだ別れてさえもいない。

「別れよう」という言葉をどちらからも発してはいないし、別れを匂わせることもなく表面上はとても曖昧なまま会わなくなっていったのだ。

   だが、磨りガラスのようなその曖昧な薄氷の向こうには、眼を凝らして見れば絶対的な乖離が透けて見えていたのかもしれない。

  そのことを互いに知っていたからこそ、長いあいだ見て見ぬふりしていたのだった。

   人は、幸せになりたいからくっついたり離れたりするのだろうが、ほんとうに出会いとは不思議だと思わざるを得ないのだった。
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