81 / 209
#81 幸せ
しおりを挟む
*月*日
私は、天井を見つめながら、いまのいままで見ていた夢を反芻していた。愛なき世界。それはまさに地獄絵図のようだ。
じょじょに覚醒してくると、私はベッドに横になっていて、となりにはパンダが寝ていることがわかってくる。
なんでまた私は、パンダなんかと一緒に寝ているんだろう。その顔を覗き込むようにすると、パンダは、寝返りを打ってこちらに背を向けた。
ベッドを共にしているということは、このパンダが、私の奥さんなのだろうか……。
頭のなかで、この雌パンダと愛し合っているサマを思い浮かべてしまい、私は頭を振ってそのおぞましい映像を彼方へと押しやった。
しかし、よく考えてみると、雌パンダなどという認識がどこでなされたのだろうか。もとよりパンダの雌雄の識別法など知らない。
だが、どうみても雌としか思えない女性的な雰囲気をまとっているからではないだろうか。なんかよくわからないが、そんな気がした。
どうでもいいけれども、いや、どうでもよくはないが、これからどう展開するのかが愉しみではある……かもしれない。朝、目覚めたら、妻がパンダになっていた。笑えないジョークだ。
それでも、日常はつづいていく。
一時間後。私は、パンダと差し向かいで遅い朝食を摂り、朝刊にざっと目をとおした。やがて私は、自室に篭ってデスクトップのモニタに向かい、タイプしはじめる。
そして私は、タイプしながらはまどろみはじめる。まるで、いぜん観た映画の主人公が患っていたナルコレプシーという眠り病に罹ったみたいに。
やはり、昨夜遅くまで映画を観ていたせいだ。『ゴダールの探偵』である。むろん最後まで面白くは観れたのだけれども、結局なにがなにやらさっぱりわからず仕舞いだった。
まあ、ゴダールてのはいつもこんなもんで、二度、三度観ていかないとわからない。くりかえし、くりかえし観ていくうちにハッと気付かされるものがあり、やっと映画のなかへと入ってゆける。
そういったレヴェルの作品だから、もう一度観たいのだけれど頭痛が出るのが嫌で控えているのだった。
毎日観るというように習慣づけてしまえば、目の方もそれに慣れてくるのだろうけれど、不意に観たりすると即、頭痛となって現われるのだ。
というところで。
ふたたび私は、書きかけの小説に立ち向かい、タイプしはじめる。おっと。音楽を忘れていた。きょうは、パット・マルティーノにしよう。『How Insensitive』
どのくらい没頭していたのか……。窓から見えるのは、暮れなずむ優しい夕景色だった。
尿意を覚えた私は、トイレに向かいながらキッチンを覗いて、現前する光景にまったく凹んだ。
事態は、まったくかわっていない。
彼女はエプロン姿でシンクの前に立ち、何かを刻んでいる。どうやらこれが現実で、この現実を受け入れるほかないらしい。
私は諦めて、かいがいしく立ち働く彼女の背に声をかける。
「ねぇ、きょうの晩ご飯なに?」
彼女は、ちょうど盛り付けていた皿を無言で掲げてみせた。そうだった。パンダがしゃべるはずもない。
了解。私も手を上げて応える。
どうやら、もうそろそろ夕飯のようだ。私は、ラップトップを抱えてきて、ダイニングテーブルに置き、パチパチと打ちはじめる。
そのすぐ横に、心づくしの料理の器が並べられていく。
揚げナスの煮びたし、ふろふき大根、ブリの照り焼き、スモークサーモンのカルパッチョ、蛸の唐揚げ……
やがて、彼女はごはんをよそって自分もテーブルについた。それでも、ラップトップから顔を上げないない私に、彼女の視線が矢のように突き刺さる。
ごめん、これだけ書いたら、やめるからと急いでタイプする。
そして、電源を落とし、ラップトップをぱちりと閉じる。
アペリティフは、白ワイン。
まずは、くいっといく。
そして、サーモンを一口食べて、思わずフリーズした。ん! うまい。そういって、彼女を見ると、うれしそうに眸を輝かせた。
私は、天井を見つめながら、いまのいままで見ていた夢を反芻していた。愛なき世界。それはまさに地獄絵図のようだ。
じょじょに覚醒してくると、私はベッドに横になっていて、となりにはパンダが寝ていることがわかってくる。
なんでまた私は、パンダなんかと一緒に寝ているんだろう。その顔を覗き込むようにすると、パンダは、寝返りを打ってこちらに背を向けた。
ベッドを共にしているということは、このパンダが、私の奥さんなのだろうか……。
頭のなかで、この雌パンダと愛し合っているサマを思い浮かべてしまい、私は頭を振ってそのおぞましい映像を彼方へと押しやった。
しかし、よく考えてみると、雌パンダなどという認識がどこでなされたのだろうか。もとよりパンダの雌雄の識別法など知らない。
だが、どうみても雌としか思えない女性的な雰囲気をまとっているからではないだろうか。なんかよくわからないが、そんな気がした。
どうでもいいけれども、いや、どうでもよくはないが、これからどう展開するのかが愉しみではある……かもしれない。朝、目覚めたら、妻がパンダになっていた。笑えないジョークだ。
それでも、日常はつづいていく。
一時間後。私は、パンダと差し向かいで遅い朝食を摂り、朝刊にざっと目をとおした。やがて私は、自室に篭ってデスクトップのモニタに向かい、タイプしはじめる。
そして私は、タイプしながらはまどろみはじめる。まるで、いぜん観た映画の主人公が患っていたナルコレプシーという眠り病に罹ったみたいに。
やはり、昨夜遅くまで映画を観ていたせいだ。『ゴダールの探偵』である。むろん最後まで面白くは観れたのだけれども、結局なにがなにやらさっぱりわからず仕舞いだった。
まあ、ゴダールてのはいつもこんなもんで、二度、三度観ていかないとわからない。くりかえし、くりかえし観ていくうちにハッと気付かされるものがあり、やっと映画のなかへと入ってゆける。
そういったレヴェルの作品だから、もう一度観たいのだけれど頭痛が出るのが嫌で控えているのだった。
毎日観るというように習慣づけてしまえば、目の方もそれに慣れてくるのだろうけれど、不意に観たりすると即、頭痛となって現われるのだ。
というところで。
ふたたび私は、書きかけの小説に立ち向かい、タイプしはじめる。おっと。音楽を忘れていた。きょうは、パット・マルティーノにしよう。『How Insensitive』
どのくらい没頭していたのか……。窓から見えるのは、暮れなずむ優しい夕景色だった。
尿意を覚えた私は、トイレに向かいながらキッチンを覗いて、現前する光景にまったく凹んだ。
事態は、まったくかわっていない。
彼女はエプロン姿でシンクの前に立ち、何かを刻んでいる。どうやらこれが現実で、この現実を受け入れるほかないらしい。
私は諦めて、かいがいしく立ち働く彼女の背に声をかける。
「ねぇ、きょうの晩ご飯なに?」
彼女は、ちょうど盛り付けていた皿を無言で掲げてみせた。そうだった。パンダがしゃべるはずもない。
了解。私も手を上げて応える。
どうやら、もうそろそろ夕飯のようだ。私は、ラップトップを抱えてきて、ダイニングテーブルに置き、パチパチと打ちはじめる。
そのすぐ横に、心づくしの料理の器が並べられていく。
揚げナスの煮びたし、ふろふき大根、ブリの照り焼き、スモークサーモンのカルパッチョ、蛸の唐揚げ……
やがて、彼女はごはんをよそって自分もテーブルについた。それでも、ラップトップから顔を上げないない私に、彼女の視線が矢のように突き刺さる。
ごめん、これだけ書いたら、やめるからと急いでタイプする。
そして、電源を落とし、ラップトップをぱちりと閉じる。
アペリティフは、白ワイン。
まずは、くいっといく。
そして、サーモンを一口食べて、思わずフリーズした。ん! うまい。そういって、彼女を見ると、うれしそうに眸を輝かせた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる