パサディナ空港で

＃６９ ゲシュタポ 下手人 ゲンズブール

＊月＊日

   きのうエイプリルと大好きなラーメンを食べに行ったのはよかったけれど、おかしな体験をした。どういうわけでそんなことになったのか皆目見当もつかない。

   ラーメンを啜ってもまったく味がしなかった。え！   まさかと思っていると後から遅れて味がやってきた。

   まるで思い出したかのように麺や汁を嚥下した後に旨味が口中に広がった。これも、いわゆるゲシュタルト崩壊と呼んでいいのではないか。

   公園の公を、おおやけの公と認識せずに、ハムとしか見えないのと似ていないだろうか。麺と汁と味がバラバラに交互に知覚される現象。

   しかし、全体を全体と捉えずに個々のパーツとしてバラバラに認識し直す、という全体性を喪失してしまうゲシュタルト崩壊は、ある意味経験則による踏襲から抜け出す新たな切り口を見出すことに繋がっているかもしれないのだし、悪いことばかりではないように思う。

   日常生活で文字や漢字のゲシュタルト崩壊をいちいち起こされてはたまったものではないが、芸術家等、クリエイターの場合、創造に行き詰まった時、まったく別物として対象を認識し直すことができるのならば、見る度に新しい発見がある、ということにもなるわけだ。知らんけど。