パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#55 ラ・メゾン

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*月*日

   恭子は、このごろヘンゼルとグレーテルのお話に出てくる、お菓子の家をよく想いうかべる。

   それが、どんなお話だったのかはまったく憶えていないにもかかわらず、お菓子の家だけは鮮烈な印象を伴なって記憶にいつまでも褪せることなくとどまっている。

   ただの食いしん坊ということなのだろうか。そういえば、ロートンヌというケーキ屋さんで売っている、柔らかなラズベリーの飴が食べたかった。くせになるくらい美味しいらしい。

   きのうは、区民会館で合唱コンクールがあって天使のような子どもたちの歌声を聴いてきた。

   この荒んだ世の中で、子どもたちと、花と、音楽、美術、そして、映画と小説だけが、生きる糧だった。

   きょうの予定は、一時に自由が丘で待ち合わせして、ラ・メゾンで、タルトを食べる。それから、銀座で映画を観るつもりだった。

   いきあたりばったりだから、時間が合わないかもしれない。けれど、それならそれでいい。銀座は、時間を潰すのには、もってこいなのだ。

  一時ちょうどに、自由が丘に着くと、もう麻衣は来ていた。時間にルーズでないところは、さすがだと恭子は思った。人を平気で一時間も待たせる人がいるけれども、そういう人とは知らないうちに疎遠になるものだ。

「ごめん、待った?」
「いまさっき、きたとこ」

   麻衣の柔らかい笑顔を見たとき、恭子は、なんだかほっとして、気のおけない友だちってやっぱりいいなあと、思った。

   麻衣、私 麻衣が、大好きだよ。
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