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#53 恋のエスキス
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*月*日
郁美という名前は、おじいちゃんが亡くなる前に名付けてくれたらしい。
そのことは、ずっと後になってからママから聞いた。でも、おじいちゃんの遺言に書いてあったとはぜんぜん知らへんかった。
きのう、神戸の妙子おばちゃんが上京してきて、ママと話しているとき、その話になって、妙子ちゃんがぽろりと洩らしてしまったんや。
うちは、それを聞いて別になんとも思わへんかったけど、妙子ちゃんに目配せしているママを見て……それに妙子ちゃんも「あ、ごめん、いけなかったん?」なんて手で口を押さながらうちのこと見るもんやから、そのことが、気になって仕方なかった。うちに知られたらなにかまずいことでもあるん?
おじいちゃんの遺言にうちの名前があったことが、なぜいけないんやろ。うちは、いろんなこと想像してみたけれど、結局ぜんぜんわからへんかったから、妙子おばちゃんが神戸に帰ってしまう前にぜったい聞き出してやると決めた。
実は、うちには切り札があるんや。妙子ちゃんは、一度だけ浮気をしたことがある。そのこと、うち知ってるんや。
妙子ちゃんの話はある意味、想像を絶するものやった。あの厳格なおじいちゃんも若い頃には、恋をいっぱいしたんやね。
「もしかしたなら、おじいちゃんはその郁美という女性と結婚したかったのかもしれへんね」妙子ちゃんは、そう言うてた。
郁美さん……。
そのひととおじいちゃんが結ばれていたなら、今のうちも存在しなかったんや。そんな色恋沙汰で名付けられたなんて、知ったならばうちが傷つくだろうとママたちは考えたんやと思う。
でも、それはぜんぜんちがう。
おじいちゃんという存在が、ぜんぜん違ったものに見えてきた。おじいちゃんの人生……それは、いったいどんなものやったんやろ。
うちには想像すらできへんけれど、とっても素敵やったんやろな。きっと、郁美さんという女性もとっても素敵なひとやったんやろな。
おじいちゃんは、郁美さんとのその恋をずっとずっと大切にこころのなかにしまって置いたんや。
すごく淡い恋やった。
きっと、手さえ繋いだことないと思う。本当の意味でのプラトニックや。だからこそ、想い出がずっとずっと綺麗なまま、消えないんや。
おじいちゃんは、そんな素敵な恋をした。そして、そんな恋の相手である想い出の女性の名前をうちに残してくれたんや。
うちもそんな素敵な恋にめぐりあえたらええなぁ。
郁美という名前は、おじいちゃんが亡くなる前に名付けてくれたらしい。
そのことは、ずっと後になってからママから聞いた。でも、おじいちゃんの遺言に書いてあったとはぜんぜん知らへんかった。
きのう、神戸の妙子おばちゃんが上京してきて、ママと話しているとき、その話になって、妙子ちゃんがぽろりと洩らしてしまったんや。
うちは、それを聞いて別になんとも思わへんかったけど、妙子ちゃんに目配せしているママを見て……それに妙子ちゃんも「あ、ごめん、いけなかったん?」なんて手で口を押さながらうちのこと見るもんやから、そのことが、気になって仕方なかった。うちに知られたらなにかまずいことでもあるん?
おじいちゃんの遺言にうちの名前があったことが、なぜいけないんやろ。うちは、いろんなこと想像してみたけれど、結局ぜんぜんわからへんかったから、妙子おばちゃんが神戸に帰ってしまう前にぜったい聞き出してやると決めた。
実は、うちには切り札があるんや。妙子ちゃんは、一度だけ浮気をしたことがある。そのこと、うち知ってるんや。
妙子ちゃんの話はある意味、想像を絶するものやった。あの厳格なおじいちゃんも若い頃には、恋をいっぱいしたんやね。
「もしかしたなら、おじいちゃんはその郁美という女性と結婚したかったのかもしれへんね」妙子ちゃんは、そう言うてた。
郁美さん……。
そのひととおじいちゃんが結ばれていたなら、今のうちも存在しなかったんや。そんな色恋沙汰で名付けられたなんて、知ったならばうちが傷つくだろうとママたちは考えたんやと思う。
でも、それはぜんぜんちがう。
おじいちゃんという存在が、ぜんぜん違ったものに見えてきた。おじいちゃんの人生……それは、いったいどんなものやったんやろ。
うちには想像すらできへんけれど、とっても素敵やったんやろな。きっと、郁美さんという女性もとっても素敵なひとやったんやろな。
おじいちゃんは、郁美さんとのその恋をずっとずっと大切にこころのなかにしまって置いたんや。
すごく淡い恋やった。
きっと、手さえ繋いだことないと思う。本当の意味でのプラトニックや。だからこそ、想い出がずっとずっと綺麗なまま、消えないんや。
おじいちゃんは、そんな素敵な恋をした。そして、そんな恋の相手である想い出の女性の名前をうちに残してくれたんや。
うちもそんな素敵な恋にめぐりあえたらええなぁ。
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