パサディナ空港で

＃２９ ニッカド電池

＊月＊日

    なにか夜中に物音がするので押入れを開けてみたら中からなニカドさんに似たような顔つきの人型がドサッという感じで畳の上に落ちてきた。

    ニカドさんというのは、あのニッカド電池からきたあだ名で本名を誰も知らなかった。因みにニッカドはニッケル・カドミウムの略らしいが、なぜあだ名が電池なんだろ。

   そのニカドさんに聞いた話だけれど、年金の振替加算の大規模な支給漏れが過去にあったらしく、ニカドさんは、その時事務処理をしていたらしいんだけど、鬱みたいになっちゃって、仕事を辞めて米作り農家である実家に帰って、稲作を手伝ったというんだ。

   そしてその時に何町歩もある水田の上に音もなく浮遊するUFOを見たらしい。ニカドさん自身の眼のせいかもしれないが、最初はうまく距離感がつかめずその大きさがよくわからなかったらしいのだが、どうやら驚くほど小さいようで、ちょうど30センチあまりの鍋をひっくり返したような感じで田んぼの上を、いつもフラフラと暢気に浮遊しているとのことだった。

    毎日、バードウォッチングするようにUFOの数を計測するのがニカドさんの日課になっているようだ。やがて、そのUFOの数は徐々に増えていき、いまでは100を軽く超えているらしい。

   そんな不思議な光景を目の当たりにしながらニカドさんは、シベリアから2週間もかけて安曇野に飛来する何百羽もの美しい白鳥たちのことをいつも思い浮かべてしまうのだという。白鳥たちは水面が凍らない所に餌を求めてやってくるが、UFOたちは水田に瞑想する為に来るのではないかと、ニカドさんは考え深げに言う。

   ドサッ！

    もうひとつ、人型が落ちてきた。