パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#17 インスタ蝿

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*月*日

   我が家の猫の額ほどのささやかな庭に出て、ホームセンターで見つけたテッセンを植えていると通りすがりのまったく知らない人に声をかけられた。「テッセン、素敵な色ですね。まるで心にしみるような紫」高齢の女性の方だった。そして、少しばかりお話していいかしらと言ってご家庭の何やらゴタゴタした状況を話しはじめた。困惑したが、お困りの様子だし、ええ、ええと頷いて聞いていたが、一向に話は終わりそうになかった。

   むしろ、親身になって聞いてくれると思われたのか、立て板に水の如く話がとまらないのだった。ご自分でもどのタイミングで話を終わらせたらいいのかわからないのではないのかと思った。

   何かきっかけが必要なのだろうな、きっと頷いてばかりでは、この愚痴は絶対終わらないと思って「わかります。お嫁さんとの軋轢はどのご家庭でも同様で、みなさん、ほんとうにたいへんなようですね」と言い頭を下げながら家の方へと行きかけるという、きっかけを作ったのだが、話は終わるどころか、さらに彼女は滔々とまくし立てはじめ、やがて嫁の話にも飽きたのか旦那さんの髪が薄くなって悲しいであるとか、糖質制限するなんてムリ、お米とパンなしでは私は生きていけないであるとか、また燃えるような恋したいであるとか、インスタバエという新種のハエがいるらしいとか、次から次へとわけのわからないことを話はじめ、気づけば、あたりは既にとっぷりと暮れていたが、彼女はどうやらご自分の話す言葉に引きずられているようだった。
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