パサディナ空港で

＃９ 精神分裂

＊月＊日

   ひとりで何役もの役柄を演じるのは台詞が多いくらいで別段苦にはならないし、今回の演し物である「ヘンリー8世と6人の妻」の稽古を通して改めて感じたことは、やはり自分は多重人格者にちがいないということだった。

   次から次へと相手に合わせて人格を変えていくかのような分裂した精神の在り方は、しかし誰しもが持ち併せている。昼間は社畜、夜は‬優しいパパのみならず、たとえば小説にしろ、テレビドラマにしろ、寸断された細切れを見たり読んだりしているわけだ。

   そして、タイムラグがあるにもかかわらず、それらを別々なクラスタとして脳に記憶している。このクラスタの変更、すなわち対象に合わせて柔軟に、或いはノンリニアに対応する様は、精神の分裂に依らなければ出来ることではない。