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川崎市夜光編
ウシガエル
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というのも、ウシガエルが近付いてくるや(その時不意に何の脈絡もなく、えなこにクリソツのウマ娘のプリクラがべたべた貼られたケータイだかスマホの着メロが、オーネット・コールマンの「ロンリーウーマン」あるいは、まふまふの「命に嫌われている」それとも阿部薫の「暗い日曜日」か、不可思議「世界征服やめた」 若しく は、モット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」だったら、着信した時どんなだろうなぁと、うっとりと夢見るような目をして想像しているウシガエルを想像しているウシガエル――を想像している自分が情けなかったけれど、いったん口火を切ってしまうと手のつけられぬほどくだらないことが次から次へと浮かんでは消えてゆき、眼前のことなどどうでもよくなってしまうのだけれども、どうも今日はそうはいかないらしく、現前する出来事の方が空想を陵駕してしまう日であるらしい)、いつしかそのウシガエルの背に誰がいたずら書きしたものなのか、オモニの三文字が、――耳なし芳一の五体一面に、残るくまなく書きつけられた般若心経の如く――びっしりと書き込まれているのを発見したからであり、その上それらは、次の刹那にはもうあのちゃんの顔になっていたりするのだから堪らない。
むろんそれは、ブラウン管とか映像の投影とかいう類のものではない。ウシガエル自体がその並びをかえて描きだしているのだ。
何者かに操られているのかどうかは知らないが、これほどの事が出来るのだから、会話など朝飯前なのではないか――たしか映画か小説でそんなシチュエーションがあったはず。
しかし、なんせ『ポンヌフの恋人』の監督の名前すら失念しているくらいなのだから、その会話の内容はおろか、相手が何者だったのかさえさっぱり思い出せない――と思い、時事ネタでも一発かましてみっぺかと、声をかけてみる。
「第三次世界大戦は、ありえますかね?」
すると、するするとウシガエルたちは文字を形成しはじめ――と思いきや、すごい速度で「オタク、ダレ?」と文字を現したのは、ウシガエルではなく甲虫の幼虫によく似た生き物だった。
「へ?」
あまりのことに――その身代わりの早さと、突き放したような物言いに――すかしっぺのような気のぬけた声が洩れ出た。
それを自分たちの発した問いへの返答と解したのか、甲虫の幼虫によく似た連中は、オタク、ダレをすぐさま解散させ、次なる文章作成へのオペレーションを開始したようだ。
しかし、その間にもその生き物は、ズレるような身体的感覚を伴ってすでに別なモノへとブレはじめていた――それは、自分ではどうにも抑制不能であるからこそ面白いとも言えるのだが、この、映像がブレるという、カメラで流し撮りをした時のような周囲の光景の流れる感じは、悪くない――のだが、次々と姿形を変えてゆくのは、メタモルフォーゼ以外のなにものでもないと断定してしまうのは、容易だが、そこを敢えてそうではないと仮定してみると、むしろ原因はこちら側にこそあるのではないのか、という疑問が浮かび上がってくる。
つまり、うすうす気付いていたのだろうけれど、いや、気付いていたからこそ、真実を知るのを少しでも先送りにしたいという心理が無意識の内に働いていたのではなかろうか――てな答えが導き出されてきもするのだが――となると、自分でもうすうす気付いていたこととは、いったいなんだろうかというと、「自分がどんどん小さくなっているのではないか」ということなのだ。
で、そんな風に考えている内に幼虫たちの作文は完成し、「ウセロ!」というちょっとムカつくメッセージを送ってよこした。
だが、その失せろ! の人文字ならぬ虫文字の幼虫たちの体表面にきらきらと輝くものを発見し(つめ付きヒューズのような図柄の細かいプリントが施された金属板みたいなパスタが、針に一度糸をかけてから前後の目を拾い、二度引き出して一目とする長編みのや り方で編み込みがしてあり、そのヒューズのつめの部分――本来ならば鉛と錫の合金―― の色を摸した鈍い黄金色を発するプリント地の部分が、光って見える)、メッセージにムカつくよりも、ギョッとしてしまったが、更に変容を遂げつつある元、幼虫もどきは、一旦は、ニガウリのようにも見え、続いてそのトゲトゲが膨らんで、レディフィンガーのような先端のとんがった葡萄の粒を見る度に連想してしまう女性の釣鐘型の乳房によく似た、バストパッド――新しもの好きなある女の子が、ヨコハマシーパラダイスで、そのバストパッドを水着がわりに着用し泳いでいたところ、当局に通報されてしまった、といういわくつきの、形状だけでなく、質感も本物に迫る精緻さで作り込まれてあるそれは、その後何故かヤマンバメイクのギャルたちが、洋服の上から一種のアクセサリーとして身につけることを流行らせたが、単純にメーカーの販促戦略にまんまとのせられたわけではない――の実物と見紛うばかりの乳暈の少しばかり使いこまれたような絶妙な褐色を帯びた色を呈した、マイマイガにメタモルフォーゼしてゆくその様を見ながら、唐突に乳鉢と乳棒を思い浮かべるや、とたんになにか粉末を混ぜ合せる軋むような乾いた音すらも聞こえてくる気がし、やがて、両手にその感触を覚えると、自分自身が乳鉢で先刻から薬剤だか火薬だかをを混ぜ合わしていたことに気付くのだが、更にそれは、見えない(存在だけは感ずる)誰かの顔色を窺いつつの行為だとわかりかけてくると、それが何かを暗示していることはわかるのだが、その何かが、どうしてもわからず――我知らず、もう沢山だと言葉がこぼれ出るとともに精一杯ニヒルに破顔して、独りごちてみる。
「おれだってまるっきりのバカってわけじゃないんだよ」(この言葉の意味するところは、やがて――再び目玉の化け物が現れて、パターンが読み取れた時点で――立証される筈だった)
「ね、どうよ、この話どう思う? 嘘だと思ってるっしょ? そう顔に書いてあるよ。でもさあ、ほかの奴等には信用されなくてもいいけど、小松っちゃんだけには信じてほしいよなぁ。だって、ほらあれじゃん、マクラフリン&サンタナ『魂の兄弟』なんちゃって。ちょっとちょっと小松っちゃん、きいてんの? なんかさっきから上の空って感じだけど、じゃ、「パリティの破れ」についてなんて興味ある? わけないよね。アハハ、だめだこりゃ」
むろんそれは、ブラウン管とか映像の投影とかいう類のものではない。ウシガエル自体がその並びをかえて描きだしているのだ。
何者かに操られているのかどうかは知らないが、これほどの事が出来るのだから、会話など朝飯前なのではないか――たしか映画か小説でそんなシチュエーションがあったはず。
しかし、なんせ『ポンヌフの恋人』の監督の名前すら失念しているくらいなのだから、その会話の内容はおろか、相手が何者だったのかさえさっぱり思い出せない――と思い、時事ネタでも一発かましてみっぺかと、声をかけてみる。
「第三次世界大戦は、ありえますかね?」
すると、するするとウシガエルたちは文字を形成しはじめ――と思いきや、すごい速度で「オタク、ダレ?」と文字を現したのは、ウシガエルではなく甲虫の幼虫によく似た生き物だった。
「へ?」
あまりのことに――その身代わりの早さと、突き放したような物言いに――すかしっぺのような気のぬけた声が洩れ出た。
それを自分たちの発した問いへの返答と解したのか、甲虫の幼虫によく似た連中は、オタク、ダレをすぐさま解散させ、次なる文章作成へのオペレーションを開始したようだ。
しかし、その間にもその生き物は、ズレるような身体的感覚を伴ってすでに別なモノへとブレはじめていた――それは、自分ではどうにも抑制不能であるからこそ面白いとも言えるのだが、この、映像がブレるという、カメラで流し撮りをした時のような周囲の光景の流れる感じは、悪くない――のだが、次々と姿形を変えてゆくのは、メタモルフォーゼ以外のなにものでもないと断定してしまうのは、容易だが、そこを敢えてそうではないと仮定してみると、むしろ原因はこちら側にこそあるのではないのか、という疑問が浮かび上がってくる。
つまり、うすうす気付いていたのだろうけれど、いや、気付いていたからこそ、真実を知るのを少しでも先送りにしたいという心理が無意識の内に働いていたのではなかろうか――てな答えが導き出されてきもするのだが――となると、自分でもうすうす気付いていたこととは、いったいなんだろうかというと、「自分がどんどん小さくなっているのではないか」ということなのだ。
で、そんな風に考えている内に幼虫たちの作文は完成し、「ウセロ!」というちょっとムカつくメッセージを送ってよこした。
だが、その失せろ! の人文字ならぬ虫文字の幼虫たちの体表面にきらきらと輝くものを発見し(つめ付きヒューズのような図柄の細かいプリントが施された金属板みたいなパスタが、針に一度糸をかけてから前後の目を拾い、二度引き出して一目とする長編みのや り方で編み込みがしてあり、そのヒューズのつめの部分――本来ならば鉛と錫の合金―― の色を摸した鈍い黄金色を発するプリント地の部分が、光って見える)、メッセージにムカつくよりも、ギョッとしてしまったが、更に変容を遂げつつある元、幼虫もどきは、一旦は、ニガウリのようにも見え、続いてそのトゲトゲが膨らんで、レディフィンガーのような先端のとんがった葡萄の粒を見る度に連想してしまう女性の釣鐘型の乳房によく似た、バストパッド――新しもの好きなある女の子が、ヨコハマシーパラダイスで、そのバストパッドを水着がわりに着用し泳いでいたところ、当局に通報されてしまった、といういわくつきの、形状だけでなく、質感も本物に迫る精緻さで作り込まれてあるそれは、その後何故かヤマンバメイクのギャルたちが、洋服の上から一種のアクセサリーとして身につけることを流行らせたが、単純にメーカーの販促戦略にまんまとのせられたわけではない――の実物と見紛うばかりの乳暈の少しばかり使いこまれたような絶妙な褐色を帯びた色を呈した、マイマイガにメタモルフォーゼしてゆくその様を見ながら、唐突に乳鉢と乳棒を思い浮かべるや、とたんになにか粉末を混ぜ合せる軋むような乾いた音すらも聞こえてくる気がし、やがて、両手にその感触を覚えると、自分自身が乳鉢で先刻から薬剤だか火薬だかをを混ぜ合わしていたことに気付くのだが、更にそれは、見えない(存在だけは感ずる)誰かの顔色を窺いつつの行為だとわかりかけてくると、それが何かを暗示していることはわかるのだが、その何かが、どうしてもわからず――我知らず、もう沢山だと言葉がこぼれ出るとともに精一杯ニヒルに破顔して、独りごちてみる。
「おれだってまるっきりのバカってわけじゃないんだよ」(この言葉の意味するところは、やがて――再び目玉の化け物が現れて、パターンが読み取れた時点で――立証される筈だった)
「ね、どうよ、この話どう思う? 嘘だと思ってるっしょ? そう顔に書いてあるよ。でもさあ、ほかの奴等には信用されなくてもいいけど、小松っちゃんだけには信じてほしいよなぁ。だって、ほらあれじゃん、マクラフリン&サンタナ『魂の兄弟』なんちゃって。ちょっとちょっと小松っちゃん、きいてんの? なんかさっきから上の空って感じだけど、じゃ、「パリティの破れ」についてなんて興味ある? わけないよね。アハハ、だめだこりゃ」
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