67 / 82
川崎市夜光編
ウシガエル
しおりを挟む
というのも、ウシガエルが近付いてくるや(その時不意に何の脈絡もなく、えなこにクリソツのウマ娘のプリクラがべたべた貼られたケータイだかスマホの着メロが、オーネット・コールマンの「ロンリーウーマン」あるいは、まふまふの「命に嫌われている」それとも阿部薫の「暗い日曜日」か、不可思議「世界征服やめた」 若しく は、モット・ザ・フープルの「すべての若き野郎ども」だったら、着信した時どんなだろうなぁと、うっとりと夢見るような目をして想像しているウシガエルを想像しているウシガエル――を想像している自分が情けなかったけれど、いったん口火を切ってしまうと手のつけられぬほどくだらないことが次から次へと浮かんでは消えてゆき、眼前のことなどどうでもよくなってしまうのだけれども、どうも今日はそうはいかないらしく、現前する出来事の方が空想を陵駕してしまう日であるらしい)、いつしかそのウシガエルの背に誰がいたずら書きしたものなのか、オモニの三文字が、――耳なし芳一の五体一面に、残るくまなく書きつけられた般若心経の如く――びっしりと書き込まれているのを発見したからであり、その上それらは、次の刹那にはもうあのちゃんの顔になっていたりするのだから堪らない。
むろんそれは、ブラウン管とか映像の投影とかいう類のものではない。ウシガエル自体がその並びをかえて描きだしているのだ。
何者かに操られているのかどうかは知らないが、これほどの事が出来るのだから、会話など朝飯前なのではないか――たしか映画か小説でそんなシチュエーションがあったはず。
しかし、なんせ『ポンヌフの恋人』の監督の名前すら失念しているくらいなのだから、その会話の内容はおろか、相手が何者だったのかさえさっぱり思い出せない――と思い、時事ネタでも一発かましてみっぺかと、声をかけてみる。
「第三次世界大戦は、ありえますかね?」
すると、するするとウシガエルたちは文字を形成しはじめ――と思いきや、すごい速度で「オタク、ダレ?」と文字を現したのは、ウシガエルではなく甲虫の幼虫によく似た生き物だった。
「へ?」
あまりのことに――その身代わりの早さと、突き放したような物言いに――すかしっぺのような気のぬけた声が洩れ出た。
それを自分たちの発した問いへの返答と解したのか、甲虫の幼虫によく似た連中は、オタク、ダレをすぐさま解散させ、次なる文章作成へのオペレーションを開始したようだ。
しかし、その間にもその生き物は、ズレるような身体的感覚を伴ってすでに別なモノへとブレはじめていた――それは、自分ではどうにも抑制不能であるからこそ面白いとも言えるのだが、この、映像がブレるという、カメラで流し撮りをした時のような周囲の光景の流れる感じは、悪くない――のだが、次々と姿形を変えてゆくのは、メタモルフォーゼ以外のなにものでもないと断定してしまうのは、容易だが、そこを敢えてそうではないと仮定してみると、むしろ原因はこちら側にこそあるのではないのか、という疑問が浮かび上がってくる。
つまり、うすうす気付いていたのだろうけれど、いや、気付いていたからこそ、真実を知るのを少しでも先送りにしたいという心理が無意識の内に働いていたのではなかろうか――てな答えが導き出されてきもするのだが――となると、自分でもうすうす気付いていたこととは、いったいなんだろうかというと、「自分がどんどん小さくなっているのではないか」ということなのだ。
で、そんな風に考えている内に幼虫たちの作文は完成し、「ウセロ!」というちょっとムカつくメッセージを送ってよこした。
だが、その失せろ! の人文字ならぬ虫文字の幼虫たちの体表面にきらきらと輝くものを発見し(つめ付きヒューズのような図柄の細かいプリントが施された金属板みたいなパスタが、針に一度糸をかけてから前後の目を拾い、二度引き出して一目とする長編みのや り方で編み込みがしてあり、そのヒューズのつめの部分――本来ならば鉛と錫の合金―― の色を摸した鈍い黄金色を発するプリント地の部分が、光って見える)、メッセージにムカつくよりも、ギョッとしてしまったが、更に変容を遂げつつある元、幼虫もどきは、一旦は、ニガウリのようにも見え、続いてそのトゲトゲが膨らんで、レディフィンガーのような先端のとんがった葡萄の粒を見る度に連想してしまう女性の釣鐘型の乳房によく似た、バストパッド――新しもの好きなある女の子が、ヨコハマシーパラダイスで、そのバストパッドを水着がわりに着用し泳いでいたところ、当局に通報されてしまった、といういわくつきの、形状だけでなく、質感も本物に迫る精緻さで作り込まれてあるそれは、その後何故かヤマンバメイクのギャルたちが、洋服の上から一種のアクセサリーとして身につけることを流行らせたが、単純にメーカーの販促戦略にまんまとのせられたわけではない――の実物と見紛うばかりの乳暈の少しばかり使いこまれたような絶妙な褐色を帯びた色を呈した、マイマイガにメタモルフォーゼしてゆくその様を見ながら、唐突に乳鉢と乳棒を思い浮かべるや、とたんになにか粉末を混ぜ合せる軋むような乾いた音すらも聞こえてくる気がし、やがて、両手にその感触を覚えると、自分自身が乳鉢で先刻から薬剤だか火薬だかをを混ぜ合わしていたことに気付くのだが、更にそれは、見えない(存在だけは感ずる)誰かの顔色を窺いつつの行為だとわかりかけてくると、それが何かを暗示していることはわかるのだが、その何かが、どうしてもわからず――我知らず、もう沢山だと言葉がこぼれ出るとともに精一杯ニヒルに破顔して、独りごちてみる。
「おれだってまるっきりのバカってわけじゃないんだよ」(この言葉の意味するところは、やがて――再び目玉の化け物が現れて、パターンが読み取れた時点で――立証される筈だった)
「ね、どうよ、この話どう思う? 嘘だと思ってるっしょ? そう顔に書いてあるよ。でもさあ、ほかの奴等には信用されなくてもいいけど、小松っちゃんだけには信じてほしいよなぁ。だって、ほらあれじゃん、マクラフリン&サンタナ『魂の兄弟』なんちゃって。ちょっとちょっと小松っちゃん、きいてんの? なんかさっきから上の空って感じだけど、じゃ、「パリティの破れ」についてなんて興味ある? わけないよね。アハハ、だめだこりゃ」
むろんそれは、ブラウン管とか映像の投影とかいう類のものではない。ウシガエル自体がその並びをかえて描きだしているのだ。
何者かに操られているのかどうかは知らないが、これほどの事が出来るのだから、会話など朝飯前なのではないか――たしか映画か小説でそんなシチュエーションがあったはず。
しかし、なんせ『ポンヌフの恋人』の監督の名前すら失念しているくらいなのだから、その会話の内容はおろか、相手が何者だったのかさえさっぱり思い出せない――と思い、時事ネタでも一発かましてみっぺかと、声をかけてみる。
「第三次世界大戦は、ありえますかね?」
すると、するするとウシガエルたちは文字を形成しはじめ――と思いきや、すごい速度で「オタク、ダレ?」と文字を現したのは、ウシガエルではなく甲虫の幼虫によく似た生き物だった。
「へ?」
あまりのことに――その身代わりの早さと、突き放したような物言いに――すかしっぺのような気のぬけた声が洩れ出た。
それを自分たちの発した問いへの返答と解したのか、甲虫の幼虫によく似た連中は、オタク、ダレをすぐさま解散させ、次なる文章作成へのオペレーションを開始したようだ。
しかし、その間にもその生き物は、ズレるような身体的感覚を伴ってすでに別なモノへとブレはじめていた――それは、自分ではどうにも抑制不能であるからこそ面白いとも言えるのだが、この、映像がブレるという、カメラで流し撮りをした時のような周囲の光景の流れる感じは、悪くない――のだが、次々と姿形を変えてゆくのは、メタモルフォーゼ以外のなにものでもないと断定してしまうのは、容易だが、そこを敢えてそうではないと仮定してみると、むしろ原因はこちら側にこそあるのではないのか、という疑問が浮かび上がってくる。
つまり、うすうす気付いていたのだろうけれど、いや、気付いていたからこそ、真実を知るのを少しでも先送りにしたいという心理が無意識の内に働いていたのではなかろうか――てな答えが導き出されてきもするのだが――となると、自分でもうすうす気付いていたこととは、いったいなんだろうかというと、「自分がどんどん小さくなっているのではないか」ということなのだ。
で、そんな風に考えている内に幼虫たちの作文は完成し、「ウセロ!」というちょっとムカつくメッセージを送ってよこした。
だが、その失せろ! の人文字ならぬ虫文字の幼虫たちの体表面にきらきらと輝くものを発見し(つめ付きヒューズのような図柄の細かいプリントが施された金属板みたいなパスタが、針に一度糸をかけてから前後の目を拾い、二度引き出して一目とする長編みのや り方で編み込みがしてあり、そのヒューズのつめの部分――本来ならば鉛と錫の合金―― の色を摸した鈍い黄金色を発するプリント地の部分が、光って見える)、メッセージにムカつくよりも、ギョッとしてしまったが、更に変容を遂げつつある元、幼虫もどきは、一旦は、ニガウリのようにも見え、続いてそのトゲトゲが膨らんで、レディフィンガーのような先端のとんがった葡萄の粒を見る度に連想してしまう女性の釣鐘型の乳房によく似た、バストパッド――新しもの好きなある女の子が、ヨコハマシーパラダイスで、そのバストパッドを水着がわりに着用し泳いでいたところ、当局に通報されてしまった、といういわくつきの、形状だけでなく、質感も本物に迫る精緻さで作り込まれてあるそれは、その後何故かヤマンバメイクのギャルたちが、洋服の上から一種のアクセサリーとして身につけることを流行らせたが、単純にメーカーの販促戦略にまんまとのせられたわけではない――の実物と見紛うばかりの乳暈の少しばかり使いこまれたような絶妙な褐色を帯びた色を呈した、マイマイガにメタモルフォーゼしてゆくその様を見ながら、唐突に乳鉢と乳棒を思い浮かべるや、とたんになにか粉末を混ぜ合せる軋むような乾いた音すらも聞こえてくる気がし、やがて、両手にその感触を覚えると、自分自身が乳鉢で先刻から薬剤だか火薬だかをを混ぜ合わしていたことに気付くのだが、更にそれは、見えない(存在だけは感ずる)誰かの顔色を窺いつつの行為だとわかりかけてくると、それが何かを暗示していることはわかるのだが、その何かが、どうしてもわからず――我知らず、もう沢山だと言葉がこぼれ出るとともに精一杯ニヒルに破顔して、独りごちてみる。
「おれだってまるっきりのバカってわけじゃないんだよ」(この言葉の意味するところは、やがて――再び目玉の化け物が現れて、パターンが読み取れた時点で――立証される筈だった)
「ね、どうよ、この話どう思う? 嘘だと思ってるっしょ? そう顔に書いてあるよ。でもさあ、ほかの奴等には信用されなくてもいいけど、小松っちゃんだけには信じてほしいよなぁ。だって、ほらあれじゃん、マクラフリン&サンタナ『魂の兄弟』なんちゃって。ちょっとちょっと小松っちゃん、きいてんの? なんかさっきから上の空って感じだけど、じゃ、「パリティの破れ」についてなんて興味ある? わけないよね。アハハ、だめだこりゃ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
うちでのサンタさん
うてな
ライト文芸
【クリスマスなので書いてみました。】
僕には人並み外れた、ある能力を持っていた。
それは『物なら一瞬にして生成できてしまう』能力だ。
その能力があれば金さえも一瞬で作れてしまう、正に万能な能力だった。
そして僕はその能力を使って毎年、昔に世話になった孤児院の子供達にプレゼントを送っている。
今年も例年通りにサンタ役を買って出たんだけど…。
僕の能力では到底叶えられない、そんな願いを受け取ってしまう…
僕と、一人の男の子の
クリスマスストーリー。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタの教えてくれたこと
いっき
ライト文芸
サンタは……今の僕を、見てくれているだろうか?
僕達がサンタに与えた苦痛を……その上の死を、許してくれているだろうか?
僕には分からない。だけれども、僕が獣医として働く限り……生きている限り。決して、一時もサンタのことを忘れることはないだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる