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同化
スーパーリッチ
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いきなり、キスもないだろうけれど、うれしくてキスしたい衝動に駆られたナルミは、自分を制御するのが精一杯で、なかなか会話の糸口が見つけられないほどだった。
それが歯痒くもあったけれど、またぞろ言葉より先に笑みがこぼれてしまうのだ。
ナルミは、かなり自制心があるようだと自分でも自負しているが、生きていた前の人生で、或いは前世で自分の欲望やら邪念に打ち克つ、つまり『克己』することを常に考えて習得したのだろうか。
婉曲で強引な引用となるが、ドラマ『Super Rich』で、自制心の塊みたいな宮村空が、カウンセリングの先生の「あなたは自分のやりたいことを成し遂げたことがありますか?」みたいな発言に、マインドコントロールされてしまったかのように、初めて自我が芽生えたかの如く自分の思い通りにやってこなかったのが、そもそもダメなのであり、前職での上司からの破廉恥なイジメを受けても我慢に徹していた自分は、そういう生き方しか出来ないのだから、仕方がないとはじめから諦めていた事こそダメだったのだと思ったのだろうか。
宮村がカウンセリングを受けるように仕向けたのも敵対的買収を仕掛けてきたあの女社長なのではないだろうか。息のかかった精神科医に病的なまでに自制心のある、或いはそれは自制心の発動によるものではないのかもしれないが、とにかく自分の気持ちをを抑圧してしまい過ぎる宮村をまんまとカウンセリングによって、操作したのではないだろうか。
人生に絶望して自死する一歩手前でマモルに助けられたのではあるけれど、真面目過ぎる人ほど騙されやすいのかもしれない。
何ひとつとして自分のやりたいことを成し遂げてこなかった。これからは、自分の思い通りにやろう。先ずはあの虐めの最悪の上司を社会的に抹殺してやろう。アイツにはそれ相応の罰を与えなければならない。
そして、次はCEOの座を狙う。今まではすべて縁の下の力持ち的な役割に甘んじてきたが、そうじゃない、オレは抑圧を解き自分を解放する。オレは間違いなくCEOの器なのだ。
マモルの会社がほしいあの女社長に手駒として使うべくまんまと操作されているのをまったく気づきもしない宮村。
哀れというほかはないとナルミは思って観ていたら最終話では実は宮村は敢えて女社長の懐に飛び込み、逆に情報操作するという痛快なストーリーになっていた。
見事な脚本でまんまとミスリードされてしまったナルミだったが、タロウと一緒に観るドラマはまた格別な感慨があった。
というか、すべてにおいて申し分なかった。キスしたくなったならば実体化すればいいだけの話だったし、好きなだけ会話を楽しめる。
結婚などという制度も関係ないし、好きな人と一緒にいるということ。それだけしかないのだ。
ただ単に同化してしまいタロウとナルミが混ぜこぜになってしまったわけではない。
神様も粋なはからいをしてくれるもんだと、感謝の言葉しかなく、ナルミは毎日毎日が幸せなのだった。
しかし、こんな荒唐無稽を絵に描いたような出来事もまんざらホラではないのかもしれない。
というのは、ナルミはいつの事だったか、プラトンの『饗宴』とかいう対話だけで成り立っている本の中に出てくるアリストパネスという喜劇詩人が、ナルミとタロウの不思議をなんとなく説明してくれるような感じがするのだった。
もっともそれは、異性に対して性的な感情を抱くヘテロセクシュアル以外の人たちがなぜまた存在するかの理由になっていて、ナルミとタロウのケースに限ってのことではないのだが。
そのアリストパネスの演説によると、太古の時代、ヒトには♂と♀と♂♀(両性具有)の三種があり、それらはいずれも背中合わせであり、一身二体というのか二体一身(男男、女女、男女)だったらしい。
しかし、ある時ゼウスの逆鱗に触れ、半分にぶった切られてしまい、その半身となった私たち人間は互いにかつての完全体を求め合い、その完全体に対する憧憬と追求が性的な感情と呼ばれているものであり、本来の自分に戻れる最良の愛人を見出すことで、自然にその感情が発動する。
ただ、ナルミとタロウのケースでは、二心一体といったものなのだが、ヒトの数だけ性のあり方はあるわけなのだし、ナルミとタロウの場合は、こうだったというわけなのだ。
ナルミとしては、前世での何らかの事情によってこんなカタチになったのではないのかなと思っている。
なんの説明にもなっていないが世の中の出来事はなんでもかんでも説明出来るものばかりではない。
世界を席巻している、流行りの感染症じたい、今までの世界にはなかった非常識な存在なのだが、世界はそれを受け入れるしかない。
タロウもいずれはナチュラルな感じであたりまえの事のようにナルミの存在を受け入れてくれることだろう。
つまり、真のSuper Richとは、まだ足りないまだ足りないと、金勘定に目を血走らせるのではなく、心の豊かさにあるのは確かなことなのだが、その為には感謝と愛しかないのだった。
それが歯痒くもあったけれど、またぞろ言葉より先に笑みがこぼれてしまうのだ。
ナルミは、かなり自制心があるようだと自分でも自負しているが、生きていた前の人生で、或いは前世で自分の欲望やら邪念に打ち克つ、つまり『克己』することを常に考えて習得したのだろうか。
婉曲で強引な引用となるが、ドラマ『Super Rich』で、自制心の塊みたいな宮村空が、カウンセリングの先生の「あなたは自分のやりたいことを成し遂げたことがありますか?」みたいな発言に、マインドコントロールされてしまったかのように、初めて自我が芽生えたかの如く自分の思い通りにやってこなかったのが、そもそもダメなのであり、前職での上司からの破廉恥なイジメを受けても我慢に徹していた自分は、そういう生き方しか出来ないのだから、仕方がないとはじめから諦めていた事こそダメだったのだと思ったのだろうか。
宮村がカウンセリングを受けるように仕向けたのも敵対的買収を仕掛けてきたあの女社長なのではないだろうか。息のかかった精神科医に病的なまでに自制心のある、或いはそれは自制心の発動によるものではないのかもしれないが、とにかく自分の気持ちをを抑圧してしまい過ぎる宮村をまんまとカウンセリングによって、操作したのではないだろうか。
人生に絶望して自死する一歩手前でマモルに助けられたのではあるけれど、真面目過ぎる人ほど騙されやすいのかもしれない。
何ひとつとして自分のやりたいことを成し遂げてこなかった。これからは、自分の思い通りにやろう。先ずはあの虐めの最悪の上司を社会的に抹殺してやろう。アイツにはそれ相応の罰を与えなければならない。
そして、次はCEOの座を狙う。今まではすべて縁の下の力持ち的な役割に甘んじてきたが、そうじゃない、オレは抑圧を解き自分を解放する。オレは間違いなくCEOの器なのだ。
マモルの会社がほしいあの女社長に手駒として使うべくまんまと操作されているのをまったく気づきもしない宮村。
哀れというほかはないとナルミは思って観ていたら最終話では実は宮村は敢えて女社長の懐に飛び込み、逆に情報操作するという痛快なストーリーになっていた。
見事な脚本でまんまとミスリードされてしまったナルミだったが、タロウと一緒に観るドラマはまた格別な感慨があった。
というか、すべてにおいて申し分なかった。キスしたくなったならば実体化すればいいだけの話だったし、好きなだけ会話を楽しめる。
結婚などという制度も関係ないし、好きな人と一緒にいるということ。それだけしかないのだ。
ただ単に同化してしまいタロウとナルミが混ぜこぜになってしまったわけではない。
神様も粋なはからいをしてくれるもんだと、感謝の言葉しかなく、ナルミは毎日毎日が幸せなのだった。
しかし、こんな荒唐無稽を絵に描いたような出来事もまんざらホラではないのかもしれない。
というのは、ナルミはいつの事だったか、プラトンの『饗宴』とかいう対話だけで成り立っている本の中に出てくるアリストパネスという喜劇詩人が、ナルミとタロウの不思議をなんとなく説明してくれるような感じがするのだった。
もっともそれは、異性に対して性的な感情を抱くヘテロセクシュアル以外の人たちがなぜまた存在するかの理由になっていて、ナルミとタロウのケースに限ってのことではないのだが。
そのアリストパネスの演説によると、太古の時代、ヒトには♂と♀と♂♀(両性具有)の三種があり、それらはいずれも背中合わせであり、一身二体というのか二体一身(男男、女女、男女)だったらしい。
しかし、ある時ゼウスの逆鱗に触れ、半分にぶった切られてしまい、その半身となった私たち人間は互いにかつての完全体を求め合い、その完全体に対する憧憬と追求が性的な感情と呼ばれているものであり、本来の自分に戻れる最良の愛人を見出すことで、自然にその感情が発動する。
ただ、ナルミとタロウのケースでは、二心一体といったものなのだが、ヒトの数だけ性のあり方はあるわけなのだし、ナルミとタロウの場合は、こうだったというわけなのだ。
ナルミとしては、前世での何らかの事情によってこんなカタチになったのではないのかなと思っている。
なんの説明にもなっていないが世の中の出来事はなんでもかんでも説明出来るものばかりではない。
世界を席巻している、流行りの感染症じたい、今までの世界にはなかった非常識な存在なのだが、世界はそれを受け入れるしかない。
タロウもいずれはナチュラルな感じであたりまえの事のようにナルミの存在を受け入れてくれることだろう。
つまり、真のSuper Richとは、まだ足りないまだ足りないと、金勘定に目を血走らせるのではなく、心の豊かさにあるのは確かなことなのだが、その為には感謝と愛しかないのだった。
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