パスティーシュ

トリヤマケイ

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ナルミ

ルシフェル

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「察しのいい、あなたのことだからもうわかっているかもしれないけれど、私の正体が、わかるかしら?」

「なんとなく、わかるきがします。それにしても、その格好はすごいですね。目のやりばに困ってしまいます」

 すると、その美女は、不意に野太い男の声になって、「そうかい。正体がバレているのに?」

   というと、またすぐおねえ言葉に戻って

「これ、マイブームなのよねえ。男たちの視線を浴びるのって、悪くないものよ。あなたも、スカートとか穿いてごらんなさいよ。女の気持ちがわかるから。いまはさ、ブラつけて、Tバックも穿いてるリーマンだっているんだから」

 ブラはともかく、いくらなんでもTバックは、物理的にもむりっぽいのではないか、と胸の谷間というよりか、深い渓谷だろうか、剥き出しになっている怖いおねいさんのデコルテを見ないようにしながら、ナルミは思った。そして、その直後、ほんの一瞬だったが、おぞましい映像がナルミの脳裏を掠めた。

 すると、おっかないおねいさんは、激しくそれに反応した。

「あ、きみ、いまエロいこと考えたでしょ?  そういう倒錯した趣味もあったんだ?」

「いえ、なんにも見えてません」

「ダ~メ、ばればれなのよねえ。いま、あなたの目が、お魚さんのように泳いだもん。ね、あたしが、欲しいの?」

「いえいえ、滅相もありません。それだけは、勘弁してください」

「ま、遠慮深いのね。それは、あたしの正体を知っているから? つまりは、あたしの存在自体が気にいらないってわけ?」

「いや、そういうことじゃありません。そういうことではなくってですね」

「はい、なんでしょう?」

「そのう、つまりぃ、なんていうか、いわゆるひとつの必要……悪でいらっしゃるわけですから……」

「必要悪。なるほどねぇ。うまいこというもんねぇ。この前そういううまいこといった人、たしか東京湾に沈められたって話だけど」  

 ナルミは、息を呑んで絶句する。

「ははは。冗談冗談」

「しかし、あなたの眷属なのか、忠実なる僕なのかは知りませんが、このごろほんとうに目に余るものがありますね」

「まあ、いうなれば、それが仕事みたいなものだからねぇ」

「ひとりで引っ掻き回してますね。混乱させるのが楽しくて仕方ないんでしょう。しかし、なんでまたこんなところにいるんですか?」

「あなたを待っていたの。実はあなたと会うのは、これで二度目なのよ、憶えてるかしら?」

「いや。お噂は、かねがね聞いておりますけれども」

「そうよね。憶えているはずもないか。じゃあ、幼い頃、川に引きずり込まれそうになったことは、憶えてる?」

「ええ! それをなぜ知ってるんです? あれは、忘れようたって忘れられませんよ。あんなに恐ろしいこともないかもしれない」

「ははは。そうよね。あの時、川の向こう岸の切り立った崖みたいなところにあった、小さな小屋の扉がバタンと閉じたのは、憶えてる?」

「あのバタンを合図のようにして、ぼくは、信じられないような猛烈な力で川の方へと思い切り引っ張られたんです。今思い出しただけでも、怖いです。あれは、ほんとうに怖かった」

「まあ、私がやったわけではないんだけれども、あのとき、ちょうど私は、あそこに居合わせたのよ」

「そう……なんですか。川底に引きずり込もうとしたあの力が、途中でぷつりと途切れてしまったので、命拾いしたんですが、その途切れ方が、なんとも不思議でならないんです。で、あのとき、どこにいらしたんです?」

「ああ。あなたは、川原で遊んでいたわよね。そのとき、ヘビを見なかった?」
「あ、はい。見ました。え? あれが……」

「そういうこと。じゃ、話はかわるけど。あのね、いい? いまからここにある男がやってくるの。そして、そいつは、君にある願い事をするわ。で、君はその願い事をなんとか叶えてあげてほしいの」

「なんですか、それ?」

「ま、それはあとのお楽しみということで。それで、どうかしら、景気づけに一発いかが?」

 そんなはしたないことを平気な顔でいうおねいさんは、立ち上がって小花を散らしたシフォンスカートの裾をまくりあげ、黒の総レースの下穿きを下ろすと、ナルミに巨きなお尻を向けて、岩に手をついた。

「さあ、女の私がここまでしてるんだから、恥じかかせないでよね」
「いや、だって、ほんとうの女性じゃないじゃないですか。無理ですよ。いくらなんでも」

 すると、おねいさんは、意味不明なことを話し出した。

「でも、あれねえ、ナルミさんは、たしか水中結婚式やりたいとかっていてなかった?」

 そういいながら、ひらひらしたスカートの裾をゆっくりと、たくしあげてゆく。

   肉付きのいいはちきれんばかりの臀部。そして、逆Vの字に開かれた太腿の間から、肉の切れ端みたいなものが、そっくりのぞいて見えていた。

 フリーズしたように、その部分から視線を外せなくなってしまったナルミは、ごくりと生唾を呑みこんだ。

しかし、頭の片隅では、この強引な展開に笑みすら浮かべていた。なんとまあ、シンプルなやり方ではあるなあ、と。

 次いでおねいさんは、身体をひるがえし、一枚岩のうえに仰向けに寝そべった。

 洞窟の奥の方から吹いてくる風に、おねいさんの薄い草むらが、揺れている。

 それでも、ナルミは、動じなかった。すると、業を煮やしたおねいさんがいった。

「あっそ。わかった。こんだけ見せてあげてるのに、やらないなんて、ほんと、あんたそれでも男なの?  もしかして、オカマ? ああ、やだやだ。もっと骨のある日本男児は、いないのかしら。オマソコ見ても、勃たないインポは、お母ちゃんのおっぱいでもしゃぶってな。それとも、マザーファッカーてか?」

 と。そこで、おねいさんは、自分の吐いた台詞が面白かったのか、一呼吸おいてから、テープの再生速度を極端に落としたときのような、無気味な低い声で、笑った。

 そうやって、ひとしきり笑ったあと、またおねえ口調で、「じゃ、仕方ないわね、自分で楽しむわ」そういって、片方の脚だけ膝を曲げて立て、もう片方は、胡座をかくようにして曲げると、グーにした右手を股のところにもってきて、そのまま埋め込むように、なかにめり込ませはじめた。


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