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ナルミ
ダイバーシティ
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唯一の話し相手であったダイキも居なくなってしまうのかと思ったが、ひと月後くらいには復活した。まだ、包帯は取れていなかったが、なんとか作業は出来るようだった。
とにかく骨を折るとかの大怪我でなくて良かった。それ以降ナルミとダイキの会話はいつも早く辞めたいという話ばかりだった。ダイキは、休んでいる間に色々考えていたようで、次には住み込みで働く仕事にするかもしれないと言っていた。
ゲーセンにいた時のオーナーが、パチンコ店をやっていて、やらないかと言われたらしい。ダイキは、ゲーセンの店長だったのだから、幹部候補生で入店しゆくゆくは店長というコースなのだろうとナルミは思った。
久しぶりに仕事終わりに一緒に夕飯を食べた時、話してくれたのだが、ダイキのお母さんはダイキの実父と別れた後、お寿司屋さんのところに嫁いで何不自由なく暮らしていたようでよかったけれど、旦那がどうやら相当な女好きらしく、浮気が酷かったらしい。それで、浮気の度ごとに喧嘩するという状況になって、ついに浮気している当人である旦那がブチ切れて、貴様出て行け! ということになってしまったらしい。
まあ、浮気をなんとか黙認して寿司屋の女将さんの地位を維持するという選択もなきにしもあらずだが、自分の気持ちを押し殺して、好色な寿司屋の旦那にすがりついて生きていくよりは、生活するだけでも精一杯の暮らしを選んだダイキのお母さんは、偉いとナルミは思った。
ナルミの母はもう他界していた。だからナルミは「お母さん、大切にしてあげなよ」とたまらずダイキにいってしまったのだが、確かに生きているといろいろな事がある。
千篇一律のなんら変わりばえしない毎日のようであっても、変わるべき時には人の思惑など一切関係なく有無を言わせず容赦なく大きな変化が訪れることもある。
ダイキのお母さんにも思わぬ変化が訪れたわけだ。大変だなとナルミは思った。ナルミの方は、母の心配をしたくてももう出来ないのだが、しかし、いろいろ考えるべきことはたくさんあった。
まず仕事を辞めるか否か。金属アレルギーで皮膚が腐ったような状態のまま、治るか治らないかわからない治療を受けつつ仕事を続けるよりは、原因がわかっているのだからその因果関係を絶ってしまえばいいだけの話なのだ。
そうなると仕事を失ってしまうが、身体の異変というメッセージを放っておいていいわけがない。金属アレルギーを乗り越えられるか否か、自分の身体で人体実験するつもりはない。
しかし、金属イオンが溶け出す夏場は特に注意して手袋着用で金属には直接触れないようにすれば、なんとかなるのかもしれない。
とりあえず三ヶ月ほどで、腐敗したような手の患部はきれいに消えていたが、鼠蹊部の茶色い染みみたいなものは未だに消えてなくならない。
そんな悩みを抱えるナルミだったが、心ときめくような素敵なことが起こるのではないかという、漠然とした予感めいたものがあった。
人は何かひとつでも心に引っかかっているものがあると、自由を束縛されてしまったようで、俯き加減になり晴れやかな気分になれない。
そうなると笑顔も出なくなってしまうし、いい考えも浮かばない。そんな風にひとつでも気がかりなことが起こると、くよくよといろいろ後悔したり、逆に取り越し苦労をしたりして、さらに気分は落ち込んでいく。
「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」は、パンセからの引用だが、葦は、実は弱くはない。枯れて折れた葦をイメージすると弱々しく思えるかもしれないが、丈も高いし決して弱い植物などではない。
だから、自然のうちで最も弱いの部分は、葦にかかっているのではなく、文頭の人間にかかっているとナルミは思うのだった。だから正しくは、「自然のうちで最も弱い人間は、一本の葦にすぎない」だと思った。
確かに人間は、天変地異を前にしては為すすべもない。しかし、弱くもありまた強くもある、それが人間であり、0か1しかない単純な機械のようには割り切れる存在ではない。
ナルミは、人生に絶望しているわけではないが、いろいろとノーマルではないらしい人生に困難を感じるのだった。
草木は雨に晒され風に吹かれることにより、根をしっかりと大地に張っていくのだから、役に立たないナマクラ刀にならないように厳しく鍛えるための困難であるのは頭ではわかるのだけれど、やはりまだまだノーマルでない者には優しくない世界なのだった。
男性と女性の真ん中あたりにいる、あるいは、自分でも男性なのか女性なのか決められないし、敢えて決めたくはない、であるとか、男性でも女性でもないと思っているとか、男性でもあり女性でもあると思うとか、身体の性と心の性が一致していないことで苦しんでいる人は、かなりいるのだ。
多様性の時代は、多様な性の時代でもある。金子みすゞさんが書いたように「みんなちがって みんないい」他と異なることは、決して悪などではないのだ。
とにかく骨を折るとかの大怪我でなくて良かった。それ以降ナルミとダイキの会話はいつも早く辞めたいという話ばかりだった。ダイキは、休んでいる間に色々考えていたようで、次には住み込みで働く仕事にするかもしれないと言っていた。
ゲーセンにいた時のオーナーが、パチンコ店をやっていて、やらないかと言われたらしい。ダイキは、ゲーセンの店長だったのだから、幹部候補生で入店しゆくゆくは店長というコースなのだろうとナルミは思った。
久しぶりに仕事終わりに一緒に夕飯を食べた時、話してくれたのだが、ダイキのお母さんはダイキの実父と別れた後、お寿司屋さんのところに嫁いで何不自由なく暮らしていたようでよかったけれど、旦那がどうやら相当な女好きらしく、浮気が酷かったらしい。それで、浮気の度ごとに喧嘩するという状況になって、ついに浮気している当人である旦那がブチ切れて、貴様出て行け! ということになってしまったらしい。
まあ、浮気をなんとか黙認して寿司屋の女将さんの地位を維持するという選択もなきにしもあらずだが、自分の気持ちを押し殺して、好色な寿司屋の旦那にすがりついて生きていくよりは、生活するだけでも精一杯の暮らしを選んだダイキのお母さんは、偉いとナルミは思った。
ナルミの母はもう他界していた。だからナルミは「お母さん、大切にしてあげなよ」とたまらずダイキにいってしまったのだが、確かに生きているといろいろな事がある。
千篇一律のなんら変わりばえしない毎日のようであっても、変わるべき時には人の思惑など一切関係なく有無を言わせず容赦なく大きな変化が訪れることもある。
ダイキのお母さんにも思わぬ変化が訪れたわけだ。大変だなとナルミは思った。ナルミの方は、母の心配をしたくてももう出来ないのだが、しかし、いろいろ考えるべきことはたくさんあった。
まず仕事を辞めるか否か。金属アレルギーで皮膚が腐ったような状態のまま、治るか治らないかわからない治療を受けつつ仕事を続けるよりは、原因がわかっているのだからその因果関係を絶ってしまえばいいだけの話なのだ。
そうなると仕事を失ってしまうが、身体の異変というメッセージを放っておいていいわけがない。金属アレルギーを乗り越えられるか否か、自分の身体で人体実験するつもりはない。
しかし、金属イオンが溶け出す夏場は特に注意して手袋着用で金属には直接触れないようにすれば、なんとかなるのかもしれない。
とりあえず三ヶ月ほどで、腐敗したような手の患部はきれいに消えていたが、鼠蹊部の茶色い染みみたいなものは未だに消えてなくならない。
そんな悩みを抱えるナルミだったが、心ときめくような素敵なことが起こるのではないかという、漠然とした予感めいたものがあった。
人は何かひとつでも心に引っかかっているものがあると、自由を束縛されてしまったようで、俯き加減になり晴れやかな気分になれない。
そうなると笑顔も出なくなってしまうし、いい考えも浮かばない。そんな風にひとつでも気がかりなことが起こると、くよくよといろいろ後悔したり、逆に取り越し苦労をしたりして、さらに気分は落ち込んでいく。
「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」は、パンセからの引用だが、葦は、実は弱くはない。枯れて折れた葦をイメージすると弱々しく思えるかもしれないが、丈も高いし決して弱い植物などではない。
だから、自然のうちで最も弱いの部分は、葦にかかっているのではなく、文頭の人間にかかっているとナルミは思うのだった。だから正しくは、「自然のうちで最も弱い人間は、一本の葦にすぎない」だと思った。
確かに人間は、天変地異を前にしては為すすべもない。しかし、弱くもありまた強くもある、それが人間であり、0か1しかない単純な機械のようには割り切れる存在ではない。
ナルミは、人生に絶望しているわけではないが、いろいろとノーマルではないらしい人生に困難を感じるのだった。
草木は雨に晒され風に吹かれることにより、根をしっかりと大地に張っていくのだから、役に立たないナマクラ刀にならないように厳しく鍛えるための困難であるのは頭ではわかるのだけれど、やはりまだまだノーマルでない者には優しくない世界なのだった。
男性と女性の真ん中あたりにいる、あるいは、自分でも男性なのか女性なのか決められないし、敢えて決めたくはない、であるとか、男性でも女性でもないと思っているとか、男性でもあり女性でもあると思うとか、身体の性と心の性が一致していないことで苦しんでいる人は、かなりいるのだ。
多様性の時代は、多様な性の時代でもある。金子みすゞさんが書いたように「みんなちがって みんないい」他と異なることは、決して悪などではないのだ。
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