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ナルミ

レーザーカットマシン

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   ナルミは、今日も大きなレーザーのマシンにCADから変換したプログラムを転送して、アルミや、鉄、あるいは、クロムフリー、304や430と呼ばれるステンレスに、さまざまな加工を施していた。

 レーザー加工とは、レーザー光線のエネルギーをレンズを使うことで一点に集束し、金属等の加工物の切断、穴あけ等を行う加工方法で、ナルミは主にこのレーザーのマシンオペレータとして働いていた。

   しかしながら、オペレータといってもただ単に切ればいいというわけではむろんない。

 そこは精密板金と謳っているだけに、精密さを求められるわけであって、百分の一ほどの精度の誤差も許されないほどなのだ。

 また、そのためには金属加工の際のレーザーでの切れ味、切れ具合というものが非常に重要視されるので、やはり汚い切断面はいただけない。

 あまり切れ味の良くない切断面は、波打つような模様が浮き出ているものであり、これはとても恥ずかしい仕事とみなされてしまうのだった。

 レーザーによるその切れ味を高めるためには、レーザーの出力やスピード等の組み合わせをひとつひとつ可変していくことによって、実際の切れ具合をマシンで加工しつつ確認していくほかなく、非常に手間のかかるものであって、熟練を要する奥の深い技術の習得による長年の職人の勘というものが必須となる作業である。

 マシンの操作じたいは、まったくの未経験者で入社したナルミでも短期間に覚えられたのだが、やればやるだけ奥深さがわかってくるという感じがした。やはり、そこが職人仕事というものなのだろうとナルミは思った。経験の積み重ねがものをいう世界なのだ。 

 また、板厚といって材料の厚さが異なる際には、いちいちレーザーのフォーカスと位置の微調整を行わなくてはならない。

 この板厚も、0.5、0.6、1.0、1.2、1.5などと、とても微妙な差であって常にマイクロメータで作業前に確認を怠らないように心掛けていないと、とんでもないことになる。

 たとえば、ひとつやふたつの加工ならば大したことはないが、それが百個、二百個となると損害は甚大となってくる。

 そしてまた、同様に材料の材質違いも大いに気をつけなければならない。つまり、鉄での加工であるにもかかわらず、アルミを抜いてしまうとか、あり得るはずもないと思っていながらも、結構ナルミも間違いを出しているのだった。

 むろん図面で確認をした後、材料を捜すわけなのだが、思い込みが激しいのかステンレスの430を304と読んでしまったりするのだから、困ったもので実は、この仕事には自分は向いていないのかもしれないと思うこともしばしばだった。

 作業の手順としては、まず試し加工を行って、図面通りのサイズか否かをノギスで検査した後に本番として加工するのだが、サイズ通りでない場合には、補正を行って誤差を修正するということが必要となってくる。

 まあ、どんな仕事でもそうだろうけれども、本気でやるならば相当奥の深いものなのだ。

   ナルミが入社した時にレクチャーを受けたのだが、いわゆる板金には、精度を要求される部品や製品を製造する「機械板金」、雨どいやダクト、排気筒など家屋や工場等に使われる金属製品の加工の「建築板金」、凹んだりこすってしまった自動車の外装を修復・塗装する「自動車板金」がある。

   この内、ナルミがやっていたのは、機械板金の中で精密板金と呼ばれるもので、小さなものではスマホの部品も作っていた。

  ナルミは工業高校だったので、製図も授業でやっていたわけだが、製品の図面が立体的に捉えられずに苦労した。苦労したというか、頭の中で組み立てたり展開したりすることがほとんど出来なかったことは否めない。

   いちばん若い子は、高校をまだ出たばかりみたいな感じだったが、休憩時間にはラノベを愛読している読書家で、もしかしたら趣味が高じて自分でも書いているかもしれないとナルミは思った。
 
   もうひとり若いやつがいたが、彼は工場の一番奥で作業していて、ナルミは入り口近くという事もあり、ほとんど喋ったことがなかったし、いったい何をやっているのかナルミはよくわからなかったが、仕上げをしていたっぽい。あとは、中高年の方が6人ほどで、みんな大人しい人ばかりだった。

   そんなわけでナルミがいちばん新参者だったのだが、ナルミの後にスタッド溶接要員として、ダイキがやってきた。

   歳が近いし、ナルミと同じく未経験の新参者同士ということで、よく話すようになり仲良くなった。ダイキは、もとゲーセンの店長をやっていたらしいのだが、なぜまたまったくの畑違いの仕事を選んだのか不思議なやつだった。

   それからダイキは、スタッド溶接にも慣れてきた頃、作業中に右腕を何針も縫う怪我をしてしまい、しばらくは仕事を休むことになった。

   それは、まあともかく。小説の方は一向に進まないのだった。構想がとりあえずはあったのだけれども、書き出したら見事に破綻してしまうというか、この仕事に就いてから以前のようには書けなくなってしまったようにナルミは感じていた。
    
   
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