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リアルからの離脱
パラダイムシフト
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ジェット機が音もなく紺碧の空に吸い込まれるようにして飛翔していく。あの飛行機のようになにものにも束縛されることなく空高く舞い上がり、青空を切り裂いて真一文字に飛翔したい、とタロウは思った。
いったいいつになったらダンゴムシように或いはワラジムシのように地べたを這いずりまわるのをやめられるんだろう。タロウは、仕事場の屋上から飛行機が飛んでいくのを見ていた。
ほんとうに気持ちよさそうに飛んでゆく飛行機。タロウは、その姿にあこがれて、いつもじっと見つめてしまうのだ。
できることならば、日がな一日ぼーっと眺めていたいくらいだった。音もなく飛んでゆく飛行機。なんて優雅な眺めなんだろうと、タロウはいつもうっとりと見つめてしまうのだった。
飛行機が近すぎてジェット音が聴こえたのならもう台無しで、優雅さはこっぱみじんに打ち砕かれてしまうだろう。厚木基地の近くにタロウは行ったことがあったが金属音と振動、そしてまるで手で触れられそうな至近距離でジェットを間近に見て震え上がった。
確かに戦闘機には優雅さなど必要であるはずがない。
無音だからこそほれぼれとするような美しさなのだ。でもなぜ無音であるとこうも美しいのだろう。
はかなげであるからだろうか。しかし、はかなげであることがなぜまた、美しいと感ずることに繋がってゆくのか。
それは、どうやらワビサビの世界観より生ずることのようであるらしい気もする。
いつまでたっても陽の目を見ない自分というダメな存在が、飛翔する飛行機に憧れるのは当然といえば当然なことなのかもしれなかった。
ナルミという人物のいっていたことは、ほんとうなのだろうか。あれは、ただの夢だったのではないのか。でも、ほんとうのことならば、自分は、まったくノーマルということになると、タロウは思った。
ネットで調べたところ、自分が解離性同一性障害的な症状に近いのかもしれないということがわかった。
しかし、そうなると人格ごとに独立した記憶を持つらしい。そしてそれは、それぞれの人格にとって、記憶喪失として現前するのだ。
つまり、ひとつの人格が主となって固体を支配している間は、別の人格には、その区間に記憶の空白が生ずるということらしい。
しかし、タロウには、記憶が不意に途切れているというようなことはないのだ。ないと思う。たぶん。
それに、ナルミとタロウの記憶は、おのおの独立している存在ではないようでもあるし、むしろ、記憶を共有しているように思われた。そこが説明がつかないのだ。
もっとも、記憶の引継ぎということも行われるらしい。タロウがよく見る夢は、ナルミの記憶の引継ぎなのかもしれなかった。そう考えると、あのパウダールームの夢と、女性専用車輌への恐怖は、辻褄が合う感じになるのだが……。
◇
ドラマでは決まって最後にはどんでん返しがあり、ためにためて、じらしにじらして最後に解決するという王道パターンは、数字をとるための王道でもある。
タロウもそんな風にハッピーエンドの人生を送ってみたいと思ってはいるけれど、実人生ではアニメみたいに絶体絶命の時には必ず助けてくれるヒーローが現われてはくれないだろうし、異世界から勇者として召喚されチート能力で無双するとか、悲しいかなありえない。
しかし、だからこそ、ドラマやアニメ、漫画など夢があるものは尊い。人生は誰にとっても間違いなく厳しいものなのだから、人から夢見ることを奪ってしまったならば、人は、砂を噛むような人生に絶望するしかない。
自分みたいな貧乏人は、日々生活が逼迫してヒーヒー言っているが、いざお金が貯まりお金の苦労がなくなると、まあ、お金持ちになったことはないので想像の範疇を超えないのだけれど、幸せは一切お金では買えないことがわかるのではないだろうかとタロウは考えている。
むろんお金があれば何でも買えるし、腹一杯ごはんは食べられるが、物で心は満たされることはない。しかし、確かにお金は物ならばなんでも買える。
物の価値を決めないと、つまり、道端で配っているポケットティッシュペーパーと例えばポルシェ911カレラがまったく同じ価値だとなったら、世界はおかしな事になってしまうだろうけれど、鼻水が止まらなくて、ポルシェとポケットティッシュを交換してもいいからとにかく、いま鼻をかみたいという極端なケースもあるだろう。例えばの話だけれど。
価値は本当は個人が各々決めればいいはずだとタロウは思うが、それをお金という価値で統一したらしい。しかし、そうなると、お金のある人とない人という格差が生じてくる。
更にはお金のない者は人生の脱落者とか敗残者やらダメ人間であるとか負のイメージがあり、逆にお金があるだけで立派で人徳があり素晴らしい人物であると見做される。まあ、とにかくいろいろあるけれど、やがて世界にはまったく別の価値体系が生まれるだろうとタロウは予想していて、そのパラダイムシフトは既に起こりつつあると考えている。
いったいいつになったらダンゴムシように或いはワラジムシのように地べたを這いずりまわるのをやめられるんだろう。タロウは、仕事場の屋上から飛行機が飛んでいくのを見ていた。
ほんとうに気持ちよさそうに飛んでゆく飛行機。タロウは、その姿にあこがれて、いつもじっと見つめてしまうのだ。
できることならば、日がな一日ぼーっと眺めていたいくらいだった。音もなく飛んでゆく飛行機。なんて優雅な眺めなんだろうと、タロウはいつもうっとりと見つめてしまうのだった。
飛行機が近すぎてジェット音が聴こえたのならもう台無しで、優雅さはこっぱみじんに打ち砕かれてしまうだろう。厚木基地の近くにタロウは行ったことがあったが金属音と振動、そしてまるで手で触れられそうな至近距離でジェットを間近に見て震え上がった。
確かに戦闘機には優雅さなど必要であるはずがない。
無音だからこそほれぼれとするような美しさなのだ。でもなぜ無音であるとこうも美しいのだろう。
はかなげであるからだろうか。しかし、はかなげであることがなぜまた、美しいと感ずることに繋がってゆくのか。
それは、どうやらワビサビの世界観より生ずることのようであるらしい気もする。
いつまでたっても陽の目を見ない自分というダメな存在が、飛翔する飛行機に憧れるのは当然といえば当然なことなのかもしれなかった。
ナルミという人物のいっていたことは、ほんとうなのだろうか。あれは、ただの夢だったのではないのか。でも、ほんとうのことならば、自分は、まったくノーマルということになると、タロウは思った。
ネットで調べたところ、自分が解離性同一性障害的な症状に近いのかもしれないということがわかった。
しかし、そうなると人格ごとに独立した記憶を持つらしい。そしてそれは、それぞれの人格にとって、記憶喪失として現前するのだ。
つまり、ひとつの人格が主となって固体を支配している間は、別の人格には、その区間に記憶の空白が生ずるということらしい。
しかし、タロウには、記憶が不意に途切れているというようなことはないのだ。ないと思う。たぶん。
それに、ナルミとタロウの記憶は、おのおの独立している存在ではないようでもあるし、むしろ、記憶を共有しているように思われた。そこが説明がつかないのだ。
もっとも、記憶の引継ぎということも行われるらしい。タロウがよく見る夢は、ナルミの記憶の引継ぎなのかもしれなかった。そう考えると、あのパウダールームの夢と、女性専用車輌への恐怖は、辻褄が合う感じになるのだが……。
◇
ドラマでは決まって最後にはどんでん返しがあり、ためにためて、じらしにじらして最後に解決するという王道パターンは、数字をとるための王道でもある。
タロウもそんな風にハッピーエンドの人生を送ってみたいと思ってはいるけれど、実人生ではアニメみたいに絶体絶命の時には必ず助けてくれるヒーローが現われてはくれないだろうし、異世界から勇者として召喚されチート能力で無双するとか、悲しいかなありえない。
しかし、だからこそ、ドラマやアニメ、漫画など夢があるものは尊い。人生は誰にとっても間違いなく厳しいものなのだから、人から夢見ることを奪ってしまったならば、人は、砂を噛むような人生に絶望するしかない。
自分みたいな貧乏人は、日々生活が逼迫してヒーヒー言っているが、いざお金が貯まりお金の苦労がなくなると、まあ、お金持ちになったことはないので想像の範疇を超えないのだけれど、幸せは一切お金では買えないことがわかるのではないだろうかとタロウは考えている。
むろんお金があれば何でも買えるし、腹一杯ごはんは食べられるが、物で心は満たされることはない。しかし、確かにお金は物ならばなんでも買える。
物の価値を決めないと、つまり、道端で配っているポケットティッシュペーパーと例えばポルシェ911カレラがまったく同じ価値だとなったら、世界はおかしな事になってしまうだろうけれど、鼻水が止まらなくて、ポルシェとポケットティッシュを交換してもいいからとにかく、いま鼻をかみたいという極端なケースもあるだろう。例えばの話だけれど。
価値は本当は個人が各々決めればいいはずだとタロウは思うが、それをお金という価値で統一したらしい。しかし、そうなると、お金のある人とない人という格差が生じてくる。
更にはお金のない者は人生の脱落者とか敗残者やらダメ人間であるとか負のイメージがあり、逆にお金があるだけで立派で人徳があり素晴らしい人物であると見做される。まあ、とにかくいろいろあるけれど、やがて世界にはまったく別の価値体系が生まれるだろうとタロウは予想していて、そのパラダイムシフトは既に起こりつつあると考えている。
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