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トリヤマケイ

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リアルからの離脱

マイムマイムマイムで椅子取りゲーム

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   いきなり、幽体離脱やら体外離脱ありきで書いているけれど、ヒトの脳には幽体離脱できる神経回路がはじめから備わっているようなのだ。その脳の部位は、右脳の角回というところらしい。

   アスリート、殊に試合の全体的な流れを把握することが非常に重要であるサッカー選手などに、俯瞰的視野を持つ人がいるのは結構知られていることだと思う。上からのいわゆる俯瞰だけではなく、例えば視野の隅っこに見えた観客の服装なんかも識別していたりするのだ。

   あるいは、ボクサーの優れた動体視力、体操選手などのゾーンに入る等なども、自分のプレイを客観視出来ている、つまり、もうひとりの自分が少し離れたところから俯瞰しながら統御している感じなのだと思うわけで、野球でバッターが調子がいい時にはボールが止まって見える、というのももうひとりの自分の、視野での感覚なのだとタロウは考えている。 

   なので、ふつうに幽体離脱などいうとスピリチュアルかよ、オカルトかよと思われるのがオチかもしれないが、まったくそんなことはない。

   なんとなれば、他人から自分はどう見えているのか、自分を他人の視線に置き換えて眺めてみる、つまり、自分を客観視できるか否かは、社会人としてとても重要なスキルだからだ。

   自分がどう見えているか、どう思われているか、そういった配慮がそもそも欠落している人は、現代にも結構な数いるようであり、そういう人たちはモンスターと呼ばれている人種なのだけれど、客観的に自己を顧みれない社会性のない人間なので、人外、つまりモンスターというわけらしい。

   たしかにタロウの周りにも、自分の考えが絶対であり、それを押し通すためには、周囲の人に迷惑がかかろうが、どう思われようがまったく意に介さないという人物がいたが、そういう人は脳にある種の障害があるとみていいと思う。

   つまり、自分を他人の視点で見ることができる神経回路が故障しているか、はなから欠落していると思うからだ。なので、幽体離脱や体外離脱という字面から受ける印象は、アニメやホラーの話くらいにしか思われないかもしれないが、人が社会性を身につけるためには必要不可欠なものだとタロウは思うのだ。

   また、その能力は才能あるアスリートのみに顕著に現われているわけでもなく、女性が鏡を見るという行為は、即ち他人の視線で自らをチェックしている、まさにそれだろう。

   なので、常に身だしなみに気を配っている女性は、自分を客観視する能力に長けているのではないだろうか。

   女性は髪や装いを気にして、その都度鏡を通してどのように見えるか、綺麗か否かを入念に確認するのが当たり前だけれども、あれだけコンパクトやらスマホをミラーにしてチェックしていると、ある程度鏡がなくてもわかるようになるはずであり、それは、他人の目で自分を客観視する能力そのものだといえる。

   いずれにせよ、三次元の外に出るから俯瞰が可能になるのだけれど、三次元から四次元、五次元という高次の存在は見えないわけで、見えないから存在していないというのはあまりにも無知極まりない。

   自分を顧み社会性を獲得するためのスキル。という話に強引にもっていったが、タロウの場合、幽体離脱というよりか分身みたいな感じではないかと思っているのだった。

   以前、タロウが寝しなにシャックリするみたいな感じで体外へと飛び出していった、別キャラといえばいいのか、分身といえばいいのかわからないが、それらの数を数えたことがあったけれど、それは10を超えていた。 10を超えたあたりで寝入ってしまったので、まだまだ居たのかもしれない。

   そんなこんなで、タロウはそういうことが常態となっているので、他の人もそうなのだろうと思って、別段気にもとめていなかった。






  
   関東は、いっとき低気圧に覆われて一気に気温が下がり、凌ぎやすくなったのだが、さすがにそのまま秋にはならなかった。あたりまえな話だけれど、また暑さは一気にぶり返した。

   タロウは、夜中過ぎに24時間テレビを見るともなしに見ながら、いったい自分はどこに向かっているのだろうと思った。

   九州ではまだまだ長雨が続いているらしい。災害に遭われている方に対して不謹慎ではあるけれど、人生には土砂降りの雨に敢えて打たれたいという時もあるだろう。

   未来は誰にも見えないようになっているけれど、だからこそ頑張れるということはある。

   テレビでは椅子取りゲームをやりはじめた。音楽は、懐かしい『マイムマイム』だった。

   タロウは、中学生の時の林間学校で、キャンプファイヤーの際に、『オクラホマミキサー』や『マイム』を踊ったことを思い出した。

   あの中学生の時までが、タロウにとってほんとうに楽しい時間だったのかもしれない。でもそれは、なんの責任も負っていない子どもだったからであり、何も考えずに無邪気でいられたからだ。

   タロウは、『マイムマイム』のメロディを口ずさみながら踊りはじめた。

♪マイム マイム マイム~マイム マイム マイム~
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