パスティーシュ

トリヤマケイ

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リュミエール

渋谷モヤイのとこに5時

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 ……そこで目が醒めた。
 急き立てるように何かが鳴っている。 

 見ると、スマホが震えている。
 ひっつかんで耳にあて、もしもしと言うと「ああ、よかった。やっとかかったわ。お久しぶり、ユカでーす」

 タロウはさっきまで囚われていた夢、あまりにもリアルな夢の世界にまだたゆたっていた。
 
   ……な、なんで生きてるの!

「いや、別にさなんにも用事はないんだけれどもね、急に話したくなっちゃって、元気?」

   ……なんだ、おまえは! 出入り禁止といったはずだぞ、帰れ、帰れ!

「それでさ、ずっとかけつづけてたんだけど?」

   ……ということは、やっぱりそうだ、それしかない。ママとマスターには、ぼくが小森くんに見えたってことか。

「かかんなかったから、ちょいヤケになって、履歴残し過ぎちゃったね、ゴメン」

   ……それにしても、やけにリアルな夢だった。あの後どうなったのか。


「ね、ね、言いたくないんならいいんだけどさ、タロウくんいま、彼女いないでしょ?   ピンポーン、あったりぃ」

   ……いや、待てよ、いったいどこからどこまでが夢だったのか? ママから電話がかかってきたことは、はっきり覚えてる。そして、小森くんの死……。

「へへへ。実はさ、いま付き合ってる人がいて、その事でちょっと心配ごとがあるんだけど」

   ……もしかしたらあの電話自体夢なのか、小森くんは死んでないのか?

「久しぶりだし、会って悩みを聞いてほしいんだ、だめ?」


   ……いや、そんな馬鹿なことはない。確かに小森くんは死んだんだ。それも自殺したんだ。

「ねえ、さっきから一言も喋らないけど、どうかしたの?」

 ……どうかしてる。きょうのぼくはどうかしてるんだ。

「ちょっと、何かいってよ。ちょうど映画のチケット手に入ったし、タロウくんと行こうと思ったのに……。ね、行こうよ」

 ……行こうか。やっぱり行ってみるべきかな。行ってママを慰めてあげなくっちゃ。

「ほらほら、乗り気になってきたでしょ? 映画狂のタロウくんには断れないわよね」

「行ってもいいけど、恋愛ものはごめんだよ。今はそんな気分じゃないんだ」

「よく言うよ。ほんとはラヴ・ストーリーが一番好きなくせに」

「え、何か言った?」

「いえいえ。じゃ、イースター島のモアイに似てるモヤイのとこに5時ね。遅刻厳禁! じゃ後で」

と、ユカは言うだけ言うと、さっさと電話を切った。

 ユカのやつ映画観ようなんて言っているけれど、映画は二の次で本当はどうせ彼氏の悩みを聞いてとかなんだろうな、きっと。いや、確かそう言ってたような?   でも、気分転換には映画もいいかもしれない、などと未だにぼーっとしている頭で思いつつ何気なく置時計に目を遣ると、4時30分。あと30分しかない。タロウはすぐさま部屋を飛び出し脱兎の如く駅に向かって駆け出した。走りながらタロウは、あのマイルスのアルバムを叩き割ろうと固く決意していた。
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