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ローラ編
戸惑う影
しおりを挟む♣️ 紅いランドセル🎒
案内してくれた男の人とは違う声が頭の上で、聞こえた。
ユタカは、もう顔をあげることさえできなかった。やがて、ランドセルが、ユタカの身体のなかへと入ってくる感じがした。ユタカは、ランドセルと同化するのだろうか。ランドセルは、背中から胃や肺、腎臓、肝臓、脾臓、膵臓なんかを透過し、いつしか子宮のなかに収まってしまったようだ。
と、ユタカは思いながら、子宮? なぜまた自然に子宮というワードが出てきたのだろうか。以前に女性だったことがあるのかもしれない。
小腸の表面積は、テニスコート一枚分はある、ということだし、子宮だって東京ドーム一杯ぶんくらいのキャパシティはあるんじゃないか。いや、それどころか、宇宙そのものなのかもしれないのだ。その器のなかに入って、さらにランドセルは、ずんずん膨らんでゆく感じがする。赤ちゃんへのプレゼントと解釈していいのだろうか。それにしても、ずいぶんと気の早いことだ。
それから、不意に圧倒的な睡魔が降りてきてユタカは、その睡魔に抗いながらまどろみ、夢をみた。
そいつは、壁の染みから、抜け出してきて、ユタカの影と口論しはじめたのには、驚いた。なぜまたそんなことになったんだろう。話していることを聴きとろうとしても、なにを喋っているのか、なぜだかまったくわからない。立ちどまっているから,だめなのかな、と思っててくてく歩きだしたのだが、影は、口論に必死で、その場所に縫い付けられたように、動かない。影の上半身は、ただゴムのように果てしなく伸びるばかりなのだった。
はじめは、そいつに影を盗まれてしまったのかと思った。あるいは、影を食われてしまったのかもとも思った。ふときづくと、影がなくなっていて、やがて、不意にまた影がではじめたのだ。まるで、影同士が入れ替わったように。
いや、しかし、そいつは、ただの影ではないようだから、影に、それも他人の影になりすましているらしいのだ。というか、ただ一時しのぎの代用品みたいな、影。つまり、以前のようにユタカの動きにぴたりと合わせて動く影ではなくなってしまっているのである。勝手気ままに、そいつは動きまわるのだ。
それでは、もともとのオリジナルの影はいったいどこへ消えてしまったのだろうか。擬似影を代理に置いてゆき、オリジナルはやはり盗まれてしまったと考えるのが、妥当なところだろうか。いったい、ヒトの影をどうするつもりなんだろう。ヒトの影の売買とかあるのかもしれなかった。
あるいは、ちょっと散歩に出かけただけなのだろうか。主人であるユタカを置いてけぼりにして。なんてことを考えてみたら、影の方にしてみたら、影の方こそ主体であって、ユタカ自身は、その付属物に過ぎないなどというかもしれない。どっちが主で、どっちが従であるのかなんて、誰にもわからないのだ。
しかし、ユタカのメタモルフォーゼと影がなくなってしまったのは、時を一にしてた。影云々の前に、どのようにメタモルフォーゼしたのかが、問題なはずなのだったが、そういった意識は薄いのだった。つまり、自分のなかではこの変身の必然性が高いのだろう。
もしかしたら、メタモルフォーゼに伴なって、影の方こそが戸惑ってしまったのかもしれなかった。いや、たしかにそうかもしれない。ユタカが主で、影が従であるならば、戸惑うこと自体ありえないことだが、その視点は、ユタカの方から影を眺めたときであって、影の方からユタカを眺めた場合には、影が主でユタカが従なのだろう。となると、影が変わらないのに、ユタカだけがメタモルフォーゼしてしまったならば、当然わけがわからなくなるに相違ないのだ。
つまりは、そういうことなのだ、たぶん。散歩に出かけたのでもなく、盗まれたのでも、食われたのでもなかったのだ。
影は、一瞬、逡巡した後、どこかに消えてしまったのだろうか。たぶんだが、お話的にも、あの影がないと元の姿には、戻れない気がするのだった。単に影が消えてしまったから捜しているのではなく、元の姿に戻るため捜しているのだった。
いや、なにかおかしい。元の姿に戻ったならば普通に影も出るということだろう。つまり、本来の姿形ではないのだから、以前の影は世界中どこをさがしてもでてくるわけもない。即ち、元の姿形に戻ること、これしかない。
♣️ 変身
たしかにとユタカは、夢の中で確かにそう思った。しかし、あの『変身』のグレゴール・ザムザだって、元には戻れなかったのであり、戻れない方が普通なのかもしれない。そして、もどれないまま死んでゆくのだ。でもでも。どうしても引っかかってしまうのは、やはり、グレゴールが、なぜこうなってしまったのかを一切考えないことだ。
だから、突然の変化は、絶対的なものであり、グレゴールは、それを受け入れるしかすべはなく、なぜなのかを考えることすらしない。ということは、変化は唐突に訪れているのだが、ある程度は予測できることだった、としか思えない。言い換えるならば、変化は実のところグレゴール自身がある程度は望んだことだったのではないか。
となると、たまたまグレゴールに訪れたようではあるのだが、実は誰をも、その変化の可能性を秘めている。というのも誰もがある程度は、変身願望があると思うからだ。
それを人生にあてはめてみると、病魔に侵される、あるいは、介護が必須な老人となる、つまり、エイジング、とかなんとか、結局また、こういう袋小路に突き当たるだけなのだが、そんなことは全く意味がないのだ。つまるところ、理由がわかってしまったなら、人生は不条理ではなくなってしまう。
カフカは、生のわけのわからない焦燥感やら、恐怖を、そういったわけのわからない、つまり、不条理で、表したかったのだろうから、不条理でなくてはならない。つまりは、明解な理由など存在してはならないし、因果律など解明してもらっては困るのだ。キャラクターは、どこまでいっても、わけのわからないカオスのなかで右往左往しなければならないのだ。
しかし、さらにキャラクターは、なぜだろうと考えることすらも、許されてはいないのは、いったい、なぜなのだろうか?
あの、聡明そうな妹でさえ、なぜなのだろうか?と、一片すら考えないのだ。キャラクターは、不条理という永遠のループのなかで、回転し続けなければならない存在であり、なぜだろうと考えることすら許されない、そういう回路のなかに閉じ込められているわけだ。
では、キャラクターたちは、その出口なきラビリンスを楽しんでいる節はないだろうか?
つまり、彼等は、迷宮であることを知っており、尚且つそれをネガティブに捉えることなく、迷宮を迷宮として、楽しんでいる、のではないか。
というのも、彼らは、はなからこの迷宮のなかにのみ生きるキャラとして造形されたわけであって、元来わたしたちのこの人間世界の住人ではないわけなのだ。つまり、彼等らは、カオスのために作られた、カオスの一部にすぎないのかもしれない。秩序だった調和の世界が、不意に崩壊したわけでも、瓦解したわけでもない。
不条理を構築するにあたり、はじめから用意されたところの、ひとつのパーツにすぎないのだ。あるいは構造そのもの。よって、不条理しか知らない彼らに、言い換えるなら不条理そのものである彼らに、不条理を感じろよというのも、不条理だろう。
つまり、このことからもわかるように、不条理とは相対的なものであることが、窺い知れる。無論、カフカは、キャラたちに不条理をかんじさせるためにこれを書いたのではなく、キャラは、冒頭から、すでに変身しているわけで、つまり、変身というこのお話は、グレゴールの変身後のお話なのであって、厳密にいえば変身譚ではない。
グレゴール自身も、彼の両親や妹も、記憶にはあるのだろうが、彼が実際ヒトであった事実はない。彼が以前は、ごく普通のヒトであったかどうかは、だれにもわからない。
つまり、彼等は、たんにカフカによって、グレゴールが普通のヒトであった記憶を植え付けられているにすぎないのかもしれないのだ。さらにいえばヒトであったという設定で始まった小説なのだ。
これがもしも、変身する前のヒトの姿で小説がスタートしているのならば、例をあげると、変身してしまう前の晩の自室でのグレゴールを描いておけばいいのである。が、しかし小説は、グレゴールの変身後からはじまっているのだから、変身とはいえないのかもしれないのだ。記憶ではふつうのヒトであったことは確かなようだ。だが、それは、カフカが設定した記憶でしかない。
これは、重要なことではないか。物語は、グレゴール・ザムザの変身後の世界の話なのである。つまり、何がいいたいのかというと、切り替わるところが描写されてはいないのだから、変身前と変身後のボーダーラインがないということは、不条理でもなんでもないのだ。
変身後の世界では、グレゴールはあくまでも人間離れした不細工な虫であるのが、あたりまえなことなのだ。しかし、なぜなのだろう、脳は切り替わっていないのである。それによって、ヒトであった記憶をだらだらと引き摺って生きている。世界が変わってしまっているにもかかわらず、脳は以前のままであって、世界の変化に追いついていけない、あるいは、認識できない、そんな状態だろうか。
そんな風にユタカは考えたが、と同時に言葉では言い表せないような抽象的なイメージやら得体の知れないフラグメントが脳内で火花を散らしていた。人はリアルで見えないものは存在しないと信じているが、そうなるとこれから世界にはなにひとつ新しいものが生まれて来ないということになる。世界を推進していくのは、確かにリアルの人の活動力だが、その活動の方向性を決めていくのは人の想像力による。見えないものは信じないということは、即ち未来など信じないと同義なのだ。
たしかにと、ユタカは思う。読者もグレゴールが以前にはヒトであったことを実は知らない。物語は、グレゴールの変身後から始まっているように思えるが、実は、はなから彼は甲虫みたいな生き物だったのかも知れないのだ。
問題は、変身前とされるヒトの脳の記憶を引きずりまわしていることだ。不幸に見舞われた人は、なんで俺なのか! なぜまた俺がこんな目に遭わなければならないんだ! と必ず思う。にもかかわらず、グレゴールはそんなことには一切頓着しない。悲劇に襲われたことを嘆きはするが、なぜなのかと理由を考えることは一切しない。つまりは、変身などはなからしてはいないのかもしれない。ただ、ヒトとしての膨大な記憶に雁字搦めにされ苦しんではいる。
とどのつまり、なぜなのかを考えたところで埒はあかないので、この厳しく辛い現実を受け入れるしかないというのは、グレゴールの事のみではなく、すべての人に当てはまる。現象の起こった理由を導き出し、それにより対策を練って次回こそは、こんな風にならないようにする、というのは、「次」がある場合であり、不治の病を宣告されたであるとか、わけのわからない甲虫みたいな生き物にある日突然なっていたであるとかのケースは、いまさらその理由を探ったところでなんにもならない。
自分の置かれた境遇に対していつまでも文句を垂れ、呪詛をつぶやき怒号して世を呪ったところで、現実は何も変わらないからだ。では、グレゴールはどうしたらよかったのか? 今流行りのやったもん勝ちである「整形」をしたらよかったのだろうか。
ユタカは、ローラに思念を送る。
――言わずもがなだけど、むろん、きみは素の自分に戻りたいわけでしょ? 自分さがしの旅みたいな?
――そうですね。自分の影を探しているうちに、わけのわからない世界に迷い込んでしまって。自分のなりたい形に恣意的に寄せてそうなるのか、本来の真の姿がそれなのか、よくはわからないけれど、その場所にいくと自然にメタモルフォーゼしてしまうようなところがあり、そのメタモルフォーゼしたあたりから、どうも自分の影が消えてしまったのではないかと考えているんです。
じゃ、さっきまでの俺の変化とか夢は、ローラとシンクロしてたってことかと、ユタカは思った。
つまり、ローラはその時のメタモルフォーゼした姿のまま、ひとり旅していたということのようだ。つまり、ローラは妊婦さんでもなく、お人形さんでもない。
そして、グレゴール・ザムザとは異なり、人形ではない自分の元の姿に戻ろうと、わけがわからないなりに努力しているようなのだ。だが、グレゴール・ザムザもローラも実は同じなのではないだろうか。人は自分のなりたいものになれるからだ。すべての人には自由が許されている。動植物には自由などない。
極端な話、人を殺すことも可能だし、自死も可能。というわけだが、すべてを許されているということは責任重大であり、実に厳しい。判断ひとつで神にもなれるし悪魔にもなれる、という話がしたいのではなかった。
もしかしたらグレゴール・ザムザもローラも、自分がメタモルフォーゼするのをある程度は望んでいたのではないのか、ユタカはそう考えていた。誰しも他の誰かになりたいという変身願望が少なからずがあるのではないだろうか。
ユタカは、そんな事を考えたが、なぜか自分は箱庭の中にいるという感覚を拭えなかった。ローラの幻想という箱庭だ。
そのあたりからユタカとローラの会話は途切れがちとなり、それからぱたりとローラからの思念がユタカに届かなくなった。何かに遮断されたのかもしれないが、サルベージ船やら、原発の廃炉も跡形もなく消え、一気に視界が開けると、そこは、見覚えのある美しい渚だった。バックパックはもぬけの殻で、ローラは消えてしまった。
ローラには、フエ同様に集団に幻想を見せるような力が、あるのだろうか。そうではないとユタカは思った。相手に自分に起きた事を経験させるような能力があるわけではなく、このわけのわからないフィールドが、そうさせているのだろうとユタカは思った。
しかし、ローラはどこに消えてしまったのだろうか。だが、不思議とどうしようもない喪失感といったものはないのだった。むしろ、その渚にいると、なぜかデジャヴのような懐かし気持ちがじわじわと押し寄せてきて、ユタカはワクワクしだした。それは具体的な景観にたしかに見覚えがあるといった程度の懐かしさではなく、もう形容しがたい圧倒的な懐かしさだった。時間の堆積により凝縮された想い出が、映像や匂い感触といった具体性を帯びる前に物理的な重みのような圧力となって一気に押し寄せてくる。
すると、モザイクがかかっていたような映像が、徐々にクリアになっていき、フエやケンジの姿が現われた。もしかしたなら、ユタカ自身が、意識的に彼らを自分の視界から消していたのかもしれなかった。
そして、漱石の夢十夜にあるような六つになる子どもをおんぶしていたはずなのに、やがてそれが石地蔵のようにずしりと重くなるみたいに、膨張しユタカの体内にまで入り込んできた紅いランドセルもまるでウソのように、消えてしまった。ついさっきまでベルトが肩に食い込んでいた箇所をユタカは、恐る恐るさすってみた。
ひと息ついて眺めてみると、思わず美しいと感嘆した渚は、実のところお世辞にもきれいではなかった。
無人の離れ小島なのだろうか、誰も片付ける者がいないのだろう、ペットボトルだのビニールのレジ袋、避妊具、首の取れたフランス人形、水着、下着、そろばん、雨傘、ポリバケツ、ブリキの太鼓、弦のないガットギター、テニスラケットのフレーム、クリムトもどきの絵、尺八、バイオリンの弓、ぼろぼろのラブソファ、白茶けたランドセル、タグホイヤーに似た腕時計、古タイヤ、カンジキ、腹帯、生理用ナプキン、マスク、60デニールくらいの厚手のストッキング、カーネーションや向日葵、薔薇の造花、紙粘土で作った花瓶らしきもの、錆びて読めない看板、大量の注射針、金属バット、香水の瓶、色鉛筆、一斗缶、ドラム缶、縄梯子、水色のセーター、カーキのジャケット、爪先の尖った革靴、招き猫の貯金箱、一円玉、五円玉、何かのメダル、折れたアンテナ、割れたiphone、ニンジン、タマネギ、西瓜の皮、胡桃、夏みかん、浮き輪、セリーヌ『なしくずしの死』の単行本、トイカメラ、機関車トーマスの絵本、三輪車、モデルガン、大人のオモチャ、モン・サン・ミシェルの写真、歯ブラシ、毛生え薬、腐ったバラライカ、ベビーカー、タワシ、剥げかけた金の額縁に入った油絵(裏を見ると『金盥の女』と殴り書きされてある)、入歯。爪楊枝。バイアグラの空箱。
そういった、ありとあらゆる人間の生活の痕跡が流れついていた。今、目につくのは人が捨てたゴミばかりだが、かつてはマッコウクジラや難破船の残骸も打ち上げられていたこともあったかもしれない。
そして、思い出した。
たしかにこの波打ち際で、君と出会ったのだ。君は、それはそれは美しかった。
だれか美しい水死体のことを小説に書いていたが、さしずめきみは、妊婦タイプの美しい球体関節人形といったところだろうか。
その等身大の妊婦人形といっしょに打ち上げられたポールスミスらしき黒いバッグには、お腹に赤ちゃんがいます、の例のバッジがぶらさがっていた。
ユタカは一目みただけで、恋に落ちたのかもしれない。『水蜘蛛』のナディアとベルナールみたいに出逢うべくしてふたりは出逢ったのにちがいない。だから、ユタカは一も二もなくポールスミスのバッグを肩にかけ、人形の両脇に手を差し込んで、ずるずると渚を引き摺っていく。スカートの裾から覗いて見えるすらりと伸びた両脚には、フジツボが固着しアカモクみたいな海藻が絡まっていた。
しかし、見れば見るほど美しい人形だった。ただそれはユタカだけにしかわからない美しさなのかもしれない。砂浜が終わって、道路に出ると今度は背中にかついで歩いていった。人形が好きなわけでも、妊婦が好きなわけでもなかった。ただ、ユタカは、人間の女性を愛することができない気がした。なぜなのかはわからない。だが誰かを愛したいという思いは、異常なほど強いのだった。
そして、今にもぱちりと眼を見開き、しゃべり出しそうな人形を見た時、一瞬にして恋に落ちると共に言い知れぬ哀しみに囚われたのだ。それは、きっと遠い過去にまつわる哀しい想い出にちがいないとユタカは思った。
ふと浴衣を着て夜店の金魚釣りを一緒にやっている映像が脳裏に浮かんだ。
——そういえば線香花火もずいぶんやってない。
——そうだね。
——子どもの頃、近くの神社のお祭りで、パチンコがあって、よくやってたっけ。あと型抜きっていうの? あれ好きだったな、毎回失敗するのにね。
そんな他愛もないやりとりをふたりはするだろう。そして、そんな邂逅を少しずつシナリオを変えながら、これからも何百回も何千回も、何万回も繰り返していくにちがいないという予感が、落雷に打たれように全身を貫いた。
ユタカは思う。それもいいだろう。そして、何千回でも何万回でも、そのたびにオレはローラにきっと恋をする。
「ユタカ、なんかひとりで感慨に耽っているのを邪魔しちゃ悪いんだけど」とケンジ。
「なんだよ、いま、恋愛ドラマの大団円なんだからさ、ほっとけよ」
「はいはい。じゃ、俺らは先にいくわ。たぶん、あれが西の魔王の国にジャンプする扉だろうからさ」
フエはユタカに背負われている彼女に声をかける。
「さ、ローラ、私たちもいきましょう」
そのフエの声に食い気味に
「え~! マジー!」と素っ頓狂な声を上げるユタカは、一点を見つめている。
そこには確かに金属製の枠だけが、不自然ににょっきりと立っていて、その枠の中を覗いてみると、カゲロウが燃え立つようにゆらゆらとメタリックな色彩が揺らめいていた。
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