クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
66 / 72
ローラ編

シロノワール

しおりを挟む
「さてと。何かお話を聞かせてください、長雨のようですし」








 ユタカはそうローラに思念を送ったが、ケンジにもむろんフエにもそれははっきりと聞こえた。ユタカのチューニングはバッチリだ。








 すると、ローラは目を閉じたままであるけれど、おずおずと話しはじめるのだった。








「そうですね。あの、その前にみなさんお腹空いてませんか?」






 ケンジにも、フエにもユタカにもたしかにそう聞こえた。







「マジですか? あの、とっても失礼な発言をお許しくださいね」とフエ。「わたし、というかボクは、フエといいますけれど、ローラさん、その、あの、お腹が空くって?」







「ああ、なるほどね。それはそうですよね、ふつう人形が美味しいもの食べたいなんてことをいうはずもないですものね」






「ということは、つまり?」とフエ。







「彼女は入水自殺したんだよ、つまり、人間だったんだけど、なぜか人形として生まれ変わってきたんだと思う」とユタカ。







「それはそう。そうなんですが、結局死ぬに死ねなかった、ということなのかなぁ。自分でも正直言って今のこの状態がなんなのかよくわからないんですよ」とローラ。







「そうなんですか、それはよかった。よくはわからなくてもゾンビの類いではないと思いますから大丈夫でしょ。わけはわからないけれども、とにかくアナタは自死したのかもしれないけれども滅びることは選択しなかった、人形に転生して生き延びることを望んだ、のではないですかね?」とフエ。








「でもね、厳密にいうと、生きていると言い切ると嘘になるのかもしれないです」







「ん?」






「死に体という感じでしょうか、お相撲でいうアレに近いものがあるのかもしれないですね、半分死んで半分生きている、みたいな」







「ああ。よくはわからないのですが、お相撲は母ちゃんから聞いたことあります。ま、とにかくローラさんは、透き通るように青白く美しいお顔でほらバラ色の頬とかならばね、あれなんですがちよょっと生気がないような、顔色をしてらっしゃいますが、お腹はふつうに空くんですね、了解しました」








「ぶっちゃけ、気分なんですけれどもね。食べなきや食べないでも全然平気なのです、そこらへんが、やはりふつうではなのですし、私の場合、シュークリームだとかプリンだとかプリンアラモードだとか、あるいはマリトッツォとかジャガリコだとかみなさんのように直接食べるわけではないんです」








「わかりました。よくわかりませんが。わかりました。とくかく、食事とか飲み会とか、みんなでワイワイワチャワチャやるのが楽しいんですから、ローラさんが参加してくれるならそれに越したことはないですよ」







「で何を食べたいですか。こんな宇宙の辺部などこの銀河だかわからない、まあ、ふうつに並行世界でしょうけれど」







「実は、思い出してしまったら、急にとっても食べたくなってしまったんですよ」









「はいはい。で、それは?」






「コメダ珈琲のシロノワール」







「コメダ?」



 

「シロノワール?」 






「なんじゃらほい」






「もうマジで絶品なんですから、一度食べたら病みつきになりますよ」






「ふむふむ。ローラさんがそうまでいうんだから、相当美味しいんでしょうね、それはとりあえず想像できるんですけれども、さて困ったな、そんなコメダなんちやらとかいうハイカラなお店はここにやあ、ありませんぜ姉御」とケンジ。







「ケンジ、江戸の人なのかおまえ?」






「てやんでえ、こちとら江戸っ子でい!」






「バカ」






「あ、あああああ。そういう物言いしていいと思っているキミがバカ」







「なんだと」 






「まあまあ、そんなことよりどうしましょうかね」


  



「たしかに、シロノワールがどんなものなのかも全然知らないけれど、そんな美味しそうなものが、たぶん甘い系のやつとは思うんだけれど、ここを抜け出せない限りは、そんなものにはお目にかかれそうにないからなあ」


 





「でもね、ひとつだけ、試してみたいことがあるんですけれど」とフエ。








「なにさ?」








「ほら、ボクは一度もユタカの能力である共同幻想を見せるというのを体験したことがないんですけれど、どうかな、それ使ってコメダなんちゃらに行くって?」 









「はいはい。なるほどね、って無理だよ。そもそも俺はコメダなんちゃら知らへんねから」









「そこなんですよ。そこをですね、ローラさんに手助けしていただくということなんですが」









「え。つまり、ローラの頭の中のコメダの情報を抽出して、俺が瞬時に映像化して共同幻想を見させるってことか」









「そうなんですが、頭の中を覗けるかという点がネックだと思います」











「その間、ローラに強くそのお店とかシロノワールを思い浮かべてもらっていさえすればなんとかなると思う、やったことはないけれど」










「じゃや、ダメもとでとにかく物は試しだで、やってみましょう」










 ケンジは、面白がりそうなものだったが、意外にもちょっと怪訝なそうな表情を浮かべていた。










「なんやねん、ケンジ、なんか心配事でもあるんかい」








「いや、ユタカのこと信用してるけれど、その共同幻想とかいうのマジで大丈夫なわけ?」








「とは?」  







「いや。ユタカが魔法使いとかならまだ百歩譲って肯定するんだけれど、共同幻想って結局、共同幻想を見せるやつらの脳になんか刺激を与えるってことなんじゃないの?」








「それな!さっきの電話の話みたいに、俺にも仕組みはわからんのよ」








「能天気だからな、ユタカは」







「あ、褒められてる?」







「褒めてないから」










しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

処理中です...