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ローラ編
ただのお荷物
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「ごめんごめん。ちょっと念話でさ、ふたりだけで話してた」
「なんだよそれ、みずくさいな、てか聞かれちゃまずい会話なわけ?」
「まさか。そんなんじやないよ。じや、みんなにも聞こえるように調整するから」
「できるのかよ、そんなこと」
「できるできる、ラジオの周波数を同調させるみたいなもんだから、ま、よく知らんけど」
「知らんけど? いい加減だな」
「いや、そんなもんやろ、電話だってどういう仕組みで、相手に自分の声が届くのかまったく知らないで喋ってるんやから」
「まあ、それはそうなんだけれど。で、これからどうすんだよ。実際問題、このへんてこりんな人形、ユタカ、おまえ背負っていくつもりなのか。足手まといにしかならないだろ」
「そんなこというなって。俺たちのとんでもない切り札になるかもしれないっていったらどうする?」
「はい?そうなのか、切り札になるってか?」
「や、わからへんねけどね、まだ」
「アホか、希望的観測でしかないだろ、それ」
「いやいや、こうして出会えたからには何らかの理由がきっとあるはずなんだよな」
「だから、それもおまえがそうであったらいいなっていう都合のいい願望でしかないよね」
「ていうかね、なんか引っかかるんやわ、この人形」
「顔がタイプってだけだろ」
「いやいや、そういうんじゃなくて」
「とにかく、せめて自力で歩けるならばパーティに加えてもいいけどな」
「あ、そこ。そこ心配してるわけか、なるほどね」
「って、あたりまえだろ。これからどんな化け物やらモンスターが出てくるのかわからないってえのに、こんなお荷物かかえてちゃ先行きどうなることやら」
「災い転じて福となすっていうコトワザ、ケンジ知ってるやろ」
「じゃなに、そのナノ的な可能性に賭けようっていうの? このポンコツくんが俺らの救世主ってか」
「ま、そうまでは言わヘんけれどやね」
「ままま、ふたりとも落ち着いて。どちらの意見も確かに間違ってはいないと思います。一方は、これから何が起こるかわからないのだから不要なものは省くべきという言い分、他方はこれから何が起こるかわからないのだから、その時のためには選択肢が多いほどいいという言い分、こんな感じですかね」
「で、フエちゃんは、どっちなのさ?」
「そこなんですよね、ぶちゃけわからないのです」
「そうなんだ。そこまでわかっていながら答えはまだ出せてないのね。てかさ、よく考えてみたらフエちゃの反重力とやらで、一気に西の魔王の国へ飛んでけないのかな?」
「たしかに、それはそう」と今度はケンジの意見に同調するユタ力。
「いやいや、それはそうなんですが、やってはみたもののダメなんですよ」
「なんでやねん。じゃ、もう幾度か試したってか」
「そうなんです。ことごとくダメ。むろん、反重力自体は発動できますよ、発動できるけど移動先を西のエリアに向けるともう萎びた温泉街みたいに、パワーがウソみたいに消えてなくなっちゃうんですよね」
「はい? フエちゃん、それ誤用。言いたいことはわかるけど、萎びた温泉街ってないから。それを言うなら鄙びた温泉街」
「あ、そうなんですね。ニホンゴムズカシアルネ」
「って、なんで急に中華になるんだよ?」
「で、考えたんですけどね、これはどうやら反重力使いという設定にしたけれども、一気に西のエリアへとはいかせたくはないという作者のご都合主義以外のなにものでもないのではないかと思うんですけどね」
「作者? なにいうてはりますのん」
「いや、だれそれ作者って、なんの?」
「いや、だから……」
「え!まさか、この?」
「ええ、そのまさか」
「ええええええええええええええ!」とケンジ。
「つ、つまり、これは誰かが書いているもので、つまりは、俺たち全員、そいつの考えた創作のキャラってことでつか?」
「そうでつね」とフエ。
「うううう。なんなん、この素敵なメタ発言は。もうそうとう作者も懊悩してテンパってるとしか思われわれませんな、ケンジくん、ワッハッハ」
「てかさ、異世界モノにメタありなん?」
「いや、そりゃなんでもありでしょ。あのお子さま向けのクレヨンしんちゃんでも、そういうエンディングあったし」
「そうか、そうだよね、ユタカのキャラ設定なんかもめちゃくちゃだしな」
「うるさい。それはオマエやろケンジ。オマエはキャラ以前にヒトとしてもうアカン」
「ふざけんな!」
まあまあまあ、とフエが小さな身体でふたりの間に割って入ったところで、突然お約束のように大地を揺るがすような雷が轟いた、かと思うとみるみるうちに黒雲が空を覆い尽くして、昼間だったのが一気に夕方みたいになってしまった。
「やばい、雨がくるぞ。どこか雨宿りできるとこ探さないと」
「あの木のところまで、走れ!」
といわけで一行は、急いでなんとかガジュマルみたいな大木の下に避難した。枝がまるで盆栽みたいに手入れされているかのように左右に長く広がっているので、多少の雨ならへっちゃらそうだった。
そして、間一髪、大木の下に駆け込んだ一行は土砂降りを免れた。
「あーあ。こりゃ、だいぶ降るな」
「じゃあれだ、ちょうどいい。彼女の話をみんなで聞こうよ、ね、ユタカ」
「そうだな。なんかいろいろワケありそうだから、端折るところは端折ってもらってスクショして鴨がネギ背負って...て、そういえば、ケンジのスマホどうした?」
「あ、持ってるよ、でも無論圏外だから」
「あー、やっぱりな」
「オレもさ、母ちゃんの形見のケータイ今も大切に持ってるんや、ガラケーというやつらしいんやけどな」
「なんだよそれ、みずくさいな、てか聞かれちゃまずい会話なわけ?」
「まさか。そんなんじやないよ。じや、みんなにも聞こえるように調整するから」
「できるのかよ、そんなこと」
「できるできる、ラジオの周波数を同調させるみたいなもんだから、ま、よく知らんけど」
「知らんけど? いい加減だな」
「いや、そんなもんやろ、電話だってどういう仕組みで、相手に自分の声が届くのかまったく知らないで喋ってるんやから」
「まあ、それはそうなんだけれど。で、これからどうすんだよ。実際問題、このへんてこりんな人形、ユタカ、おまえ背負っていくつもりなのか。足手まといにしかならないだろ」
「そんなこというなって。俺たちのとんでもない切り札になるかもしれないっていったらどうする?」
「はい?そうなのか、切り札になるってか?」
「や、わからへんねけどね、まだ」
「アホか、希望的観測でしかないだろ、それ」
「いやいや、こうして出会えたからには何らかの理由がきっとあるはずなんだよな」
「だから、それもおまえがそうであったらいいなっていう都合のいい願望でしかないよね」
「ていうかね、なんか引っかかるんやわ、この人形」
「顔がタイプってだけだろ」
「いやいや、そういうんじゃなくて」
「とにかく、せめて自力で歩けるならばパーティに加えてもいいけどな」
「あ、そこ。そこ心配してるわけか、なるほどね」
「って、あたりまえだろ。これからどんな化け物やらモンスターが出てくるのかわからないってえのに、こんなお荷物かかえてちゃ先行きどうなることやら」
「災い転じて福となすっていうコトワザ、ケンジ知ってるやろ」
「じゃなに、そのナノ的な可能性に賭けようっていうの? このポンコツくんが俺らの救世主ってか」
「ま、そうまでは言わヘんけれどやね」
「ままま、ふたりとも落ち着いて。どちらの意見も確かに間違ってはいないと思います。一方は、これから何が起こるかわからないのだから不要なものは省くべきという言い分、他方はこれから何が起こるかわからないのだから、その時のためには選択肢が多いほどいいという言い分、こんな感じですかね」
「で、フエちゃんは、どっちなのさ?」
「そこなんですよね、ぶちゃけわからないのです」
「そうなんだ。そこまでわかっていながら答えはまだ出せてないのね。てかさ、よく考えてみたらフエちゃの反重力とやらで、一気に西の魔王の国へ飛んでけないのかな?」
「たしかに、それはそう」と今度はケンジの意見に同調するユタ力。
「いやいや、それはそうなんですが、やってはみたもののダメなんですよ」
「なんでやねん。じゃ、もう幾度か試したってか」
「そうなんです。ことごとくダメ。むろん、反重力自体は発動できますよ、発動できるけど移動先を西のエリアに向けるともう萎びた温泉街みたいに、パワーがウソみたいに消えてなくなっちゃうんですよね」
「はい? フエちゃん、それ誤用。言いたいことはわかるけど、萎びた温泉街ってないから。それを言うなら鄙びた温泉街」
「あ、そうなんですね。ニホンゴムズカシアルネ」
「って、なんで急に中華になるんだよ?」
「で、考えたんですけどね、これはどうやら反重力使いという設定にしたけれども、一気に西のエリアへとはいかせたくはないという作者のご都合主義以外のなにものでもないのではないかと思うんですけどね」
「作者? なにいうてはりますのん」
「いや、だれそれ作者って、なんの?」
「いや、だから……」
「え!まさか、この?」
「ええ、そのまさか」
「ええええええええええええええ!」とケンジ。
「つ、つまり、これは誰かが書いているもので、つまりは、俺たち全員、そいつの考えた創作のキャラってことでつか?」
「そうでつね」とフエ。
「うううう。なんなん、この素敵なメタ発言は。もうそうとう作者も懊悩してテンパってるとしか思われわれませんな、ケンジくん、ワッハッハ」
「てかさ、異世界モノにメタありなん?」
「いや、そりゃなんでもありでしょ。あのお子さま向けのクレヨンしんちゃんでも、そういうエンディングあったし」
「そうか、そうだよね、ユタカのキャラ設定なんかもめちゃくちゃだしな」
「うるさい。それはオマエやろケンジ。オマエはキャラ以前にヒトとしてもうアカン」
「ふざけんな!」
まあまあまあ、とフエが小さな身体でふたりの間に割って入ったところで、突然お約束のように大地を揺るがすような雷が轟いた、かと思うとみるみるうちに黒雲が空を覆い尽くして、昼間だったのが一気に夕方みたいになってしまった。
「やばい、雨がくるぞ。どこか雨宿りできるとこ探さないと」
「あの木のところまで、走れ!」
といわけで一行は、急いでなんとかガジュマルみたいな大木の下に避難した。枝がまるで盆栽みたいに手入れされているかのように左右に長く広がっているので、多少の雨ならへっちゃらそうだった。
そして、間一髪、大木の下に駆け込んだ一行は土砂降りを免れた。
「あーあ。こりゃ、だいぶ降るな」
「じゃあれだ、ちょうどいい。彼女の話をみんなで聞こうよ、ね、ユタカ」
「そうだな。なんかいろいろワケありそうだから、端折るところは端折ってもらってスクショして鴨がネギ背負って...て、そういえば、ケンジのスマホどうした?」
「あ、持ってるよ、でも無論圏外だから」
「あー、やっぱりな」
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