65 / 72
ローラ編
ただのお荷物
しおりを挟む
「ごめんごめん。ちょっと念話でさ、ふたりだけで話してた」
「なんだよそれ、みずくさいな、てか聞かれちゃまずい会話なわけ?」
「まさか。そんなんじやないよ。じや、みんなにも聞こえるように調整するから」
「できるのかよ、そんなこと」
「できるできる、ラジオの周波数を同調させるみたいなもんだから、ま、よく知らんけど」
「知らんけど? いい加減だな」
「いや、そんなもんやろ、電話だってどういう仕組みで、相手に自分の声が届くのかまったく知らないで喋ってるんやから」
「まあ、それはそうなんだけれど。で、これからどうすんだよ。実際問題、このへんてこりんな人形、ユタカ、おまえ背負っていくつもりなのか。足手まといにしかならないだろ」
「そんなこというなって。俺たちのとんでもない切り札になるかもしれないっていったらどうする?」
「はい?そうなのか、切り札になるってか?」
「や、わからへんねけどね、まだ」
「アホか、希望的観測でしかないだろ、それ」
「いやいや、こうして出会えたからには何らかの理由がきっとあるはずなんだよな」
「だから、それもおまえがそうであったらいいなっていう都合のいい願望でしかないよね」
「ていうかね、なんか引っかかるんやわ、この人形」
「顔がタイプってだけだろ」
「いやいや、そういうんじゃなくて」
「とにかく、せめて自力で歩けるならばパーティに加えてもいいけどな」
「あ、そこ。そこ心配してるわけか、なるほどね」
「って、あたりまえだろ。これからどんな化け物やらモンスターが出てくるのかわからないってえのに、こんなお荷物かかえてちゃ先行きどうなることやら」
「災い転じて福となすっていうコトワザ、ケンジ知ってるやろ」
「じゃなに、そのナノ的な可能性に賭けようっていうの? このポンコツくんが俺らの救世主ってか」
「ま、そうまでは言わヘんけれどやね」
「ままま、ふたりとも落ち着いて。どちらの意見も確かに間違ってはいないと思います。一方は、これから何が起こるかわからないのだから不要なものは省くべきという言い分、他方はこれから何が起こるかわからないのだから、その時のためには選択肢が多いほどいいという言い分、こんな感じですかね」
「で、フエちゃんは、どっちなのさ?」
「そこなんですよね、ぶちゃけわからないのです」
「そうなんだ。そこまでわかっていながら答えはまだ出せてないのね。てかさ、よく考えてみたらフエちゃの反重力とやらで、一気に西の魔王の国へ飛んでけないのかな?」
「たしかに、それはそう」と今度はケンジの意見に同調するユタ力。
「いやいや、それはそうなんですが、やってはみたもののダメなんですよ」
「なんでやねん。じゃ、もう幾度か試したってか」
「そうなんです。ことごとくダメ。むろん、反重力自体は発動できますよ、発動できるけど移動先を西のエリアに向けるともう萎びた温泉街みたいに、パワーがウソみたいに消えてなくなっちゃうんですよね」
「はい? フエちゃん、それ誤用。言いたいことはわかるけど、萎びた温泉街ってないから。それを言うなら鄙びた温泉街」
「あ、そうなんですね。ニホンゴムズカシアルネ」
「って、なんで急に中華になるんだよ?」
「で、考えたんですけどね、これはどうやら反重力使いという設定にしたけれども、一気に西のエリアへとはいかせたくはないという作者のご都合主義以外のなにものでもないのではないかと思うんですけどね」
「作者? なにいうてはりますのん」
「いや、だれそれ作者って、なんの?」
「いや、だから……」
「え!まさか、この?」
「ええ、そのまさか」
「ええええええええええええええ!」とケンジ。
「つ、つまり、これは誰かが書いているもので、つまりは、俺たち全員、そいつの考えた創作のキャラってことでつか?」
「そうでつね」とフエ。
「うううう。なんなん、この素敵なメタ発言は。もうそうとう作者も懊悩してテンパってるとしか思われわれませんな、ケンジくん、ワッハッハ」
「てかさ、異世界モノにメタありなん?」
「いや、そりゃなんでもありでしょ。あのお子さま向けのクレヨンしんちゃんでも、そういうエンディングあったし」
「そうか、そうだよね、ユタカのキャラ設定なんかもめちゃくちゃだしな」
「うるさい。それはオマエやろケンジ。オマエはキャラ以前にヒトとしてもうアカン」
「ふざけんな!」
まあまあまあ、とフエが小さな身体でふたりの間に割って入ったところで、突然お約束のように大地を揺るがすような雷が轟いた、かと思うとみるみるうちに黒雲が空を覆い尽くして、昼間だったのが一気に夕方みたいになってしまった。
「やばい、雨がくるぞ。どこか雨宿りできるとこ探さないと」
「あの木のところまで、走れ!」
といわけで一行は、急いでなんとかガジュマルみたいな大木の下に避難した。枝がまるで盆栽みたいに手入れされているかのように左右に長く広がっているので、多少の雨ならへっちゃらそうだった。
そして、間一髪、大木の下に駆け込んだ一行は土砂降りを免れた。
「あーあ。こりゃ、だいぶ降るな」
「じゃあれだ、ちょうどいい。彼女の話をみんなで聞こうよ、ね、ユタカ」
「そうだな。なんかいろいろワケありそうだから、端折るところは端折ってもらってスクショして鴨がネギ背負って...て、そういえば、ケンジのスマホどうした?」
「あ、持ってるよ、でも無論圏外だから」
「あー、やっぱりな」
「オレもさ、母ちゃんの形見のケータイ今も大切に持ってるんや、ガラケーというやつらしいんやけどな」
「なんだよそれ、みずくさいな、てか聞かれちゃまずい会話なわけ?」
「まさか。そんなんじやないよ。じや、みんなにも聞こえるように調整するから」
「できるのかよ、そんなこと」
「できるできる、ラジオの周波数を同調させるみたいなもんだから、ま、よく知らんけど」
「知らんけど? いい加減だな」
「いや、そんなもんやろ、電話だってどういう仕組みで、相手に自分の声が届くのかまったく知らないで喋ってるんやから」
「まあ、それはそうなんだけれど。で、これからどうすんだよ。実際問題、このへんてこりんな人形、ユタカ、おまえ背負っていくつもりなのか。足手まといにしかならないだろ」
「そんなこというなって。俺たちのとんでもない切り札になるかもしれないっていったらどうする?」
「はい?そうなのか、切り札になるってか?」
「や、わからへんねけどね、まだ」
「アホか、希望的観測でしかないだろ、それ」
「いやいや、こうして出会えたからには何らかの理由がきっとあるはずなんだよな」
「だから、それもおまえがそうであったらいいなっていう都合のいい願望でしかないよね」
「ていうかね、なんか引っかかるんやわ、この人形」
「顔がタイプってだけだろ」
「いやいや、そういうんじゃなくて」
「とにかく、せめて自力で歩けるならばパーティに加えてもいいけどな」
「あ、そこ。そこ心配してるわけか、なるほどね」
「って、あたりまえだろ。これからどんな化け物やらモンスターが出てくるのかわからないってえのに、こんなお荷物かかえてちゃ先行きどうなることやら」
「災い転じて福となすっていうコトワザ、ケンジ知ってるやろ」
「じゃなに、そのナノ的な可能性に賭けようっていうの? このポンコツくんが俺らの救世主ってか」
「ま、そうまでは言わヘんけれどやね」
「ままま、ふたりとも落ち着いて。どちらの意見も確かに間違ってはいないと思います。一方は、これから何が起こるかわからないのだから不要なものは省くべきという言い分、他方はこれから何が起こるかわからないのだから、その時のためには選択肢が多いほどいいという言い分、こんな感じですかね」
「で、フエちゃんは、どっちなのさ?」
「そこなんですよね、ぶちゃけわからないのです」
「そうなんだ。そこまでわかっていながら答えはまだ出せてないのね。てかさ、よく考えてみたらフエちゃの反重力とやらで、一気に西の魔王の国へ飛んでけないのかな?」
「たしかに、それはそう」と今度はケンジの意見に同調するユタ力。
「いやいや、それはそうなんですが、やってはみたもののダメなんですよ」
「なんでやねん。じゃ、もう幾度か試したってか」
「そうなんです。ことごとくダメ。むろん、反重力自体は発動できますよ、発動できるけど移動先を西のエリアに向けるともう萎びた温泉街みたいに、パワーがウソみたいに消えてなくなっちゃうんですよね」
「はい? フエちゃん、それ誤用。言いたいことはわかるけど、萎びた温泉街ってないから。それを言うなら鄙びた温泉街」
「あ、そうなんですね。ニホンゴムズカシアルネ」
「って、なんで急に中華になるんだよ?」
「で、考えたんですけどね、これはどうやら反重力使いという設定にしたけれども、一気に西のエリアへとはいかせたくはないという作者のご都合主義以外のなにものでもないのではないかと思うんですけどね」
「作者? なにいうてはりますのん」
「いや、だれそれ作者って、なんの?」
「いや、だから……」
「え!まさか、この?」
「ええ、そのまさか」
「ええええええええええええええ!」とケンジ。
「つ、つまり、これは誰かが書いているもので、つまりは、俺たち全員、そいつの考えた創作のキャラってことでつか?」
「そうでつね」とフエ。
「うううう。なんなん、この素敵なメタ発言は。もうそうとう作者も懊悩してテンパってるとしか思われわれませんな、ケンジくん、ワッハッハ」
「てかさ、異世界モノにメタありなん?」
「いや、そりゃなんでもありでしょ。あのお子さま向けのクレヨンしんちゃんでも、そういうエンディングあったし」
「そうか、そうだよね、ユタカのキャラ設定なんかもめちゃくちゃだしな」
「うるさい。それはオマエやろケンジ。オマエはキャラ以前にヒトとしてもうアカン」
「ふざけんな!」
まあまあまあ、とフエが小さな身体でふたりの間に割って入ったところで、突然お約束のように大地を揺るがすような雷が轟いた、かと思うとみるみるうちに黒雲が空を覆い尽くして、昼間だったのが一気に夕方みたいになってしまった。
「やばい、雨がくるぞ。どこか雨宿りできるとこ探さないと」
「あの木のところまで、走れ!」
といわけで一行は、急いでなんとかガジュマルみたいな大木の下に避難した。枝がまるで盆栽みたいに手入れされているかのように左右に長く広がっているので、多少の雨ならへっちゃらそうだった。
そして、間一髪、大木の下に駆け込んだ一行は土砂降りを免れた。
「あーあ。こりゃ、だいぶ降るな」
「じゃあれだ、ちょうどいい。彼女の話をみんなで聞こうよ、ね、ユタカ」
「そうだな。なんかいろいろワケありそうだから、端折るところは端折ってもらってスクショして鴨がネギ背負って...て、そういえば、ケンジのスマホどうした?」
「あ、持ってるよ、でも無論圏外だから」
「あー、やっぱりな」
「オレもさ、母ちゃんの形見のケータイ今も大切に持ってるんや、ガラケーというやつらしいんやけどな」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる