クリシェ

トリヤマケイ

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魔王編

どこでもドア?

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   ケンジが想像した肉食植物みたいな消化液こそ出てはこなかったけれど、真空パックみたいになるのは、もう時間の問題でしかありえないと思った。

「そうだ!  ユタカのアーガスどうしたのさ? 」

「それな!  オレも気になってた」

「って!  それで終わりかーい。どうにかしないとユタカ、マジオレたちヤバくね?」

「しかしやな、アーガス発動しないんやから、それほど心配するほどのことやないんちゃうかな」

「マジかーい。そういえばアーガスは、ユタカ自身では召喚てか発動出来ないのね?」

「そこなんよ、問題は。ま、出てこーへんゆうことは大したことないゆーことや思う」

「そうならいいけどさ。できれば、こんな変な状況にならないように前もってアーガスに守護してほしいものだよね、いや、ユタカこれ皮肉じゃないから」

「うっさいわ。ごちゃごちゃ抜かすやつは、女子に嫌われるぞ?」

「あー!  いけないんだ! いけないんた!  ユタカそれ言う?  友だちにそれ言っちゃう?  言っていい事と悪い事があるって、ママに習わなかったのかな、ユタカくん。それは、禁句!  アー!  リカー! リカー! 待ってれよ、いま助けにいけらなぁ」

「アホ!  てかおまえ呂律まわってへんぞ、なんかクスリやってんちゃうか」

ユタカは、軽くケンジのアタマを小突いた。

「イテッ、暴力反対!」

「あ、そういや、ケンジおまえ、フエちゃのキャップ貰ったんやから、何か技の訓練しなあかんやろ」

「あ、そうだ。すっかりそれ忘れてた、キャップ貰ってた」

「試しに何出来るかやってみろや、ここから出られる技、なんかないん?」

「ていうかですね、ボクもそれ忘れてました。出られますよ」

「なんかあるん?」

「なんでもいいから、ペンとかありませんかね?」とフエ。

「ペン?  ペンなんてどないするんや?」

「実は、ぼくにはドアや窓の絵を、絵というかその輪郭を描けば、実際にドアや窓がそこに出現して出入りするように出来るんですよね」

「マジ?」

「ほな、ケンジ探せよ、なんかチョークみたいなもんでもええから、ないかな」

「そんなもん、ないない。あ、消火器ならそこにあるけど?」

「あ、それでもきっとイケると思います、てか、なんですか消火器って?」とフエ。

「火を消すもんやで」

「へー。ユタカ消火器知ってんの。また、かあちゃんから聞いて知ってたのかな」

「いや、そうやない。実はこれはあまり話したくはないんやけどな、オレ、人間としての記憶もある程度あるんや」

「なに?  ユタカ、ヒトだったことあったわけ?」

「まあな。ケンジそれはともかく、今はここから出ることが第一優先やろ」

「ファースト・プライオリティってか。でも、その話聞きたいなぁ」

「うっさいな、いつか話したるわ。だから今はごちゃごちゃ抜かすな、このままだと図書館内で圧死するだけやぞ?」

「はいはい」といいながら、ケンジは消火器の安全ピンに指をかけ、一気に上に引き抜いた。そしてホースを外して近くの壁に向ける。

  ケンジは、フエの言っていたようにドアを描くように壁に泡を噴出させた。

  しかし。何も起こらない。泡がゆっくり壁を伝って落ちてくるだけ。

「ははー。案の定、ケンジにはまだ時期尚早やったな。ははははは」

「なら、フエちゃ、よろしく」とケンジ。

   それから、素っ頓狂な声をあげた。

「あー。そういえば、フエちゃ四つ足じゃん? それに肉球じゃ、このノズル持てないよね?」

「いやいや。そんなことは全然ありませんよ? 」

そういうが否や、フエはヒョイと立ち上がり二足歩行でケンジに近づくと、小さめの消火器を小脇に抱えるようにして、ノズルを壁に向けた。

「で、これからどうするんです?」

「あ、その黒いレバーを押すと、泡が出てくるんで、それでとりあえず代用出来ないかな?」

フエは頷くと、ノズルを上に向けて泡を噴出し、ドアらしき輪郭を壁に描いた。


すると。途端にその泡が消えるようにして木製のドアが現れ、外側へと扉が開いた。

わぁい、と声を上げて外へと出たユタカたちは、またぞろどこかの並行世界だか異次元みたいなダンジョンの異なる階層に飛ばされた。



飛ばされたその先には、大海原が広がっていた。3人というとちょっと語弊があるが、3人はただただだだっ広い浜辺に打ち上げられたセイウチのように、焼けるような砂浜の上に転送された。

「ここはどこなんやろ」

ユタカは呟くようにそう言って、なぜか遠い目をした。

「出られたのはよかったけど、ここも似たようなもんだな」

「似たような?  いったいどこが似てんやケンジ」

「いや、たしかに前のはインドアだったから、陽射しもないし潮風やら灼けた砂浜やら潮騒は聞こえてこないけど、ここも地獄には違いないと思う」

ケンジは、起き上がってところどころ黒ずんでだいぶ傷んでいる、元はグレーのスラックスについた砂を払い落とした。


なんかみんな気落ちして、会話もないまま海辺を散歩した。

するとケンジが思い出したようにこういった。

「そういえば、ユタカのヒトだった頃の話、聞かせてくれよ」

「そうですね、時間だけはたっぷりありそうです」とフエ。

「そうだな、でもちょっと長い話になるけど、それでもええなら」

「ユタカ、please!」とケンジが片膝をついて花嫁にエンゲージリングを手渡すようにして、おどけてみせる。

「仕方ないなぁ。ほな聞いてや」

   ユタカのちょっと長い想い出話が始まった。




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