クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
61 / 72
魔王編

Gate way

しおりを挟む


    ということで、いきなりお話は3人がダンジョンに突入するところから再開します。

   ダンジョンの入り口は、ごく自然な感じの洞窟でありながら、奥に行くに従って薄暗くなっていかず、真逆に明るくなっていく様は、まるで人感センサーダウンライトが熱に反応して次々に点灯していくかのように思われた。

「不思議だなぁ、LEDのライトでもあるのかな?」

「あー、それはね、この星砂に似たやつが生命体が近づいていくとそれに反応して、光り出すんだよ」

「星砂?  ユタカ、星砂知ってるの?」

「あ、それも母ちゃんからの受け売り、昔、母ちゃんは沖縄に住んでいたことがあるらしいんや」

「へー!」とケンジは感心したようにいうと、やっとフエちゃから貰い受けたキャップにも慣れたらしく、先頭を切って意気揚々とトンネルのようにくり抜かれた横穴を闊歩していく。

   ケンジは、たぶんこれはあれじゃね、シールド工法ってので掘削したんじゃん?  シールド工法がなんなのか知らんけど、などとブツブツ独り言しながら、そのトンネルを真っ先に抜けた。

   すると、視界が一気に開けたが、その不思議な光景に度肝を抜かれた。

   最初の階層のゲートというか、門が眼前にあった。そして、その門の下までやってくると、黒光りしながら見るものすべてを威圧するような巨大な門を見上げた。

   何やら蛇がのたくった跡のような文字らしきものが書かれてある金のプレートが青白いラジウムみたいに美しかったが、おそらくこのプレートに書いてあるのがこれから入っていく階層の世界をストレートに言い表わしているのだろうと思った。

「これは、この階層の第一のゲートだよ、てか、そう思う」とフエ。

「そうや、フエちゃは、ダンジョン攻略してたんやもんな、いろいろ知ってるんやんなぁ」

「第一のゲートって?  つまり。第二もあるわけ?」

「まあ、それはそうなんだけど、そこらへんもいろいろパターンあるみたいだから。とにかくここのダンジョンはハンパなくて、たぶんアルゴリズムでダンジョンの階層を常に変化させてると思う」

「なにそれ?  階層は固定されてないってこと?」

「いや、階層そのものは固定されてるけど、入り口が時間制なのかなんなのかわからないけれど、常に変化してるんだと思う」

「じゃあ、もう少し待ってたらこのゲートも別なゲートに変わるってこと?」

「それはよくわからない。そこらへんもランダムに変化するのかも知れないんだけど、とにかくゲートは同じだったとしても飛ばされる先がわからないって話」

「なんかややこしいんだね」

「ちなみに自分が入った時には、この黒いゲートじゃなかったはず」

「つまり、ゲートをくぐっても地続きでその階層と繋がっているわけじゃないってことか」

「そうなんだよ、ゲートの先には何もない。或いは暗黒。ただ、亜空間へのゲートがあるだけなんだよ」


   ケンジは、ユタカとフエのそんなやりとりを上の空で聞きながら、いったいどんな世界が待ち受けているのだろうと、ワクワクしながら、ゲートを見上げているのだった。

   しかし、端から居丈高な高圧的なパワーを感じさせる巨大な門は、固く閉ざされているのであり、部外者を断固拒否しているとしかケンジには思われないのだった。

   万里の長城、或いはベルリンの壁のようにどこまでも果てしなく続く彼岸と此岸の境界線である目に見えぬ壁が、あたかも見えるようだった。

    あたかもというのは、実のところフエの説明していた通り、そこには巨大な門が空中に浮いているだけなのだった。

   ケンジは、こういったシュルレアリスム的な光景をどこかで見たことがあると思った。というか、絵だった。たしかルネ・マグリットという人が描いた海の上に巨大な岩が音もなく浮かんでいる、そんな作品をケンジは憶えていたのだ。


   脳裏に浮かぶ巨大な岩。白波の立つ海上にピタリと静止したまま、音もなく浮かんでいる。

   だいぶ以前に、それもたった一度だけ見ただけだったはずだが、強烈な印象を受けたケンジは、いつまでもあの絵が忘れられないのだった。

   ケンジにとっては、ただ単に海の上に浮かぶ巨大な岩という不思議な絵では済まされない何かが、その絵にはあったのであり、その何かにケンジは強く惹かれたのだ。

    いま、その不思議な光景が現前しているのを目の当たりにして、ケンジは呆然とするばかりだった。

「さてさて、どうしたものかね」とユタカ。

「あそこまで浮くのはフエちゃの反重力でやってもらうにしても、問題はどうやってゲートを開けるかだな」

「案外、開いてるかもよ?」とフエ。

「てかさ、あれって反重力で吹っ飛ばせないのかな?」

「いやいや、そもそもアレが迷宮への入り口なんやから、アレ吹っ飛ばしたらマズイやろ?   入り口なくなってまうで」

「そうなの?   そういう考え方もあるわけだ」と妙に感心してみせるケンジ。

   そして、やはりフエの反重力のパワーでユタカたちは中空に浮かぶゲートまで移動すると、すったもんだしながらゲートを開こうとしたが、いっかなゲートは開かないのだった。

「普通、ドアって引っ張って開けるか、押して開けるかだけど、もうひとつ引き戸ってケースもあるよね?」

    そう言いながらケンジが試しに横へとスライドしてみると、異様なくらい軽やかにゲートは動き出したが、開き切ると同時に霧のように消えてしまうのだった。

   しかし、ユタカたちはそんなことを知るよしもなく、ゲートが開くと同時に亜空間へとあっという間に吸い込まれていった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

処理中です...