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魔王編
アルゼンチノサウルス・フエ
しおりを挟む「で、結局どうするよ? 今すぐにでもを戦闘するならばなんかテキトーに見繕うけれど?」
「テキトー? フエちゃん。それはいや」と涙目のケンジ。
「ていうか、なんか腹減らね?」とユタカ。
「あーね、まさに戦闘寸前ならまだしも、わけわからんダンジョンはまた今度にした方がいいだろ」とチワワのフエが言い終わるか言い終わらない内に、ダンジョンの入り口から「ギョエーギョッギョッギョッギョッ」という凄まじい鳴き声? が聞こえたかと思うと、いきなりダンジョンから怪鳥らしきものが飛び出してきて、そのまま南の空の彼方へと飛び去っていった。
ユタカたちは、あっけにとられてその姿を見送るばかりだったが、それはティラノサウルスに翼を付けたようなヤツで、明らかにいわゆる鳥ではなかった。
最初にも怪鳥みたいなヤツが洞窟から飛び出してきたが、あの時はユタカの守護神であるアーガスに救われたのだ。
「いったいぜんたい、このダンジョンはどうなってんだか。てか、もぬけの殻じゃなかったの? フエちゃん?」とケンジ。
「それな! そこがわけわからへんねん」と急に関西弁になるフエ。すかさず「なんでやねん」と返すユタカ。漫才である。
そして、そのあたりから俄に気温が上がってきたのか、動いてもいないのに額やら頭皮やら脇の下やら脇腹やら背中やらお尻やらと、つまり全身から汗が一気に噴き出してきた。
わけがわからない。とにかく尋常な暑さではなかった。しかし、ユタカたちは、その理由を否が応でもすぐに知る事になる。
なんらかの気配に気づいて何げに見遣るとダンジョンの入り口である洞窟から無数の小さな虫が這い出してきて辺り一面を覆い尽くしていく。呆気にとられながらみんなは見つめているほかなかった。
そして、入り口にいちばん近いところにいたフエは、後ろに飛び退るようにしてそばにあった樹木に駆け上った。
「コイツら、熱い! 火傷するくらいに熱い!」
そして、そのフエの言葉を裏付けるように、枯れ草の上を行進していく虫たちの間から煙りがあがりはじめ、やがて枯れ草は音もなく燃え始めた。
最初は黄金色に輝く無数の小さな虫たちだと思っていた。だが、やがてそれら無数の小さな虫たちはオレンジ色の炎のように燃えながら発光し、トロトロに蕩けてまるで溶岩のようにひと塊りになってあたりを黒こげの焼け野原にしながら、低い方へ低い方へと移動していった。
ユタカもケンジも低木ではない結構太めの木の幹にすがりついていた。幸いにも火はなめるように大地を這っていくが、蛇のようには気を登ってこないようだった。
尋常な暑さではなく、灼けつくような熱さだった。文字通りの灼熱。命の危険を感じる熱さだった。これだけ熱いと既にダラダラと噴き出していた汗はない。襟足のあたりの汗も即座に乾燥してしまうのかもしれない。
しかし、直に火に炙られてはいないが、このままでは間違いなくみんな蒸し焼きになりそうだった。遠赤外線効果というか、豚の丸焼きがこんがりと美味しそうに焼き上がっていくさまを、まさにユタカは想像した。
ユタカは声を上げた。
「フエ~、反重力でなんとかしてくれ!」
「わかった、やってみるよ」
「て、気づいてんなら早くやってくれないかな?」
「いやいや。ユタカくん。相当MP使うんだよ。さっきユタカ貼り付けてたのでだいぶ消耗した」
「は? つべこべいってんなよ?」
「はいはい」
とは言ったものの、かなり厄介だなとフエは思った。フエの体はチワワ程度の大きさなのだが、その実、質量はアルゼンチノサウルス並みなのだ。
ちなみにアルゼンチノサウルスは地上で最大の恐竜であり、白亜紀後期のアルゼンチンに生息していたらしい。体長22~45メートル、体重70~110トンということで、一般の人にもよく知られているティラノサウルスの8倍以上の体重があり、かなり巨大なため、動きは遅い。
ちょこまか動き回るチワワとはかけ離れてはいるが、実のところ、フエの質量は100トンはあるので、驚くほかない。つまり、反重力エネルギーを常にフル回転させ使用しているわけなのだ。
なので、通常は反重力のギアを入れっぱにしてあるため、普通ならば重さがないみたいに足が動いてついつい駆け足になってしまうのだが、ユタカを地面に貼り付けていた時には、そちらにパワーを使っていたので、ゆっくりとした足取りでダンジョンから出て来たというわけなのだった。
で、いまフエは、重力相互作用の事を考えていた。例えばミクロのレベルでは、分子と分子が互いに引っ張り合う重力間相互作用があるため、繋がることが出来ている。質量は他の質量を引きつける力を発しているからであり、質量が大きいほど引きつける力は強く、離れるほど弱まっていく。
フエは反重力のエネルギーを分散してしまう事は回避し、3つの質量を繋げて移動しなければならないと考えた。
フエが反重力のエネルギーをふたりに向けてゆっくりと解放していくと、質量の膨大なフエめがけて、ユタカとケンジはふわふわと浮遊しながら近づいてくるのだった。
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