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魔王編
牙をむくチワワ
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「わかった、じゃあ、こうしよう」
そういったのは、チワワの姿のフエだった。
「インスタントっていうか、一時的にさ、自分の能力をケンジくんに付与するよ」
「そんなことできるの?」とユタカ。
「それができるだな、これが。実はおれ、こういう能力があればいいなあっていう自分の考えたスキルをある程度は具現化させることができるんだよね」
「マジか! しかし、ある程度とは?」とユタカ。
「全部が全部できるわけじゃないってこと。失敗することもままあるんだわ」
「ふーん。でも、それ無敵じゃん、ハンパない能力だね」
「じゃ、このケースでは、フエくんのある能力をケンジに一時的ではあるけれど付与するというスキルを具現化するということか」
「そうなるね。付け焼き刃的だけれど、丸腰状態でダンジョン攻略はやっぱ無理だし」
「それは、そう。実はオレ、ケンジにビッグなプレゼントあるんだけど、村に帰らなきゃ渡せないし」
「えっ! なんだよユタカ」と色めき立つケンジ。
「まあまあ、それは後でのお楽しみってことでさ。で、どんなスキルを付与してくれるのかな、フエちゃん?」
「そんなに期待しないでおいた方がいいのかな? それとも大いに期待しちゃっていいの?」と表情が緩みっぱなしのケンジ。
「どの階層もさっき言った通りもぬけの殻だと思うんだけどね、このままじゃケンジ裸も同然だからなぁ、どんな能力にしようかね?」とチワワ姿のフエ。
「やっぱ電撃とか? 派手なやつがいい!」
「ケンジさ、派手で見映えするのは、いかにもで誰もが使ってて似たり寄ったりだろ? ケンジしか持ってない能力みたいなのがよくね?」とユタカ。
「そうそう。ユニークスキルでよくね? そっちの方が面白いし」とフエくん。
「ンー。たとえば?」と思案顔のケンジ。
「例えばだけど、自分が作ったシャボン玉の中に自分が入っちゃうだとかさ」
「なにそれ? シャボン玉の中に入ってどうすんだよ!」
「いやいや、バリヤだよ、一切敵の攻撃を許さない、無効にしてしまうんだ」
「そりゃいいけど、攻撃できないならいつまでたっても敵を倒せないじゃん」
「いやだから、敵の攻撃をシャボン玉が吸収してしまうんじゃないんだ。そのまま跳ね返して敵を攻撃する、つまり、敵が技を繰り出し攻撃すればするほど自分がその技で攻撃されることになる」
「そういうのあればいいなぁって話でしょ?」
「そうだけど? みんなそれが最初でしょ。こういうスキルあればいいなぁっていう純粋な気持ち大切だよね?」
「フエちゃん、まぁまぁそう熱くならずに。ケンジもあれだぞ? 折角フエちゃんが考えてくれるっていうんやからさ、感謝しろや」
「いや、もちろんありがたいけど。つーかさ、わざわざ新手のスキル開発しなくてもよくね? 時間かかるっしょ」
「それがそうでもない。うまくいけばすぐさま出来ちゃったりするわけだよ、これが」
「うまくいけばか。じゃ、とりあえずそのシャボン玉のやつでいいから、お願いします」
「あーそう? いま適当に考えたやつだから、もっとちゃんと考えた方がいいと思うんだけど」
「は? なんでまた?」
「いや、考えたやつがうまくいけばそのまま形になるわけだけれど、やっぱり設計図がね、しっかりしてないとまるっきり役立たないハメになるからだよ」
「そうなの? そんなに面倒くさいわけ?」
「あのね、魔法だぞ? 魔法なめてんなよ?」
すると、不意にフエくんの流暢な日本語が、ただのチワワだかミックスの吠え声に変わってしまった。
むろん、何を言ってるのかわからない。ひとしきりワンワン、キャンキャン牙をむいて鳴きまくるフエをユタカとケンジはなすすべもなく見つめるほかなかった。
「なんなんだよ、いったい?」とユタカ。
「いや、チワワはキレやすいって聞いてたけど、ほんとうなんだな。たぶんさ、これ、キレると素のチワワに戻っちゃうってやつじゃねーの?」
「そうなんだ? じゃ、やっぱりチワワのモンスターにはちがいないんだね」
「チワワの性格マンマ引きずってる感じかな」
「ま、だから放置playで。好きなだけ吠えたら気がおさまるんじゃね」
「そうなのか? それならうれしいけど」
「当の本人は、キレてるから自分がチワワに戻って吠えてるのか、人語を喋ってるのか認識してないんちゃう?」
「そんなところなのかもね、ならやっぱほっとくのがいちばんだな」
そういって、ユタカとケンジのふたりは、何度も後ろ足で立ち上がりながら、あるいは、円を描くように走りながら吠えまくるフエくんに背を向けて、軽く途方に暮れていた。
すると、ほどなくして
「おい、おい、ひどいなぁ。無視しないでよね」と、再びフエくんが話しかけてくるのが聞こえてきた。
少しは落ちついたらしい。
「何、つまり興奮したりキレたりするとチワワに完全に戻っちゃうわけ?」
「いや、そうらしいんだよね。自分じゃ意識してないんだけど、自然にそうなっちゃうみたいで」
「まあ、それはそうだよね。犬が流暢にヒトの言葉を話す方がよっぽどおかしいんだから。犬は牙むいて吠えるのがふつうだよね」
そういったのは、チワワの姿のフエだった。
「インスタントっていうか、一時的にさ、自分の能力をケンジくんに付与するよ」
「そんなことできるの?」とユタカ。
「それができるだな、これが。実はおれ、こういう能力があればいいなあっていう自分の考えたスキルをある程度は具現化させることができるんだよね」
「マジか! しかし、ある程度とは?」とユタカ。
「全部が全部できるわけじゃないってこと。失敗することもままあるんだわ」
「ふーん。でも、それ無敵じゃん、ハンパない能力だね」
「じゃ、このケースでは、フエくんのある能力をケンジに一時的ではあるけれど付与するというスキルを具現化するということか」
「そうなるね。付け焼き刃的だけれど、丸腰状態でダンジョン攻略はやっぱ無理だし」
「それは、そう。実はオレ、ケンジにビッグなプレゼントあるんだけど、村に帰らなきゃ渡せないし」
「えっ! なんだよユタカ」と色めき立つケンジ。
「まあまあ、それは後でのお楽しみってことでさ。で、どんなスキルを付与してくれるのかな、フエちゃん?」
「そんなに期待しないでおいた方がいいのかな? それとも大いに期待しちゃっていいの?」と表情が緩みっぱなしのケンジ。
「どの階層もさっき言った通りもぬけの殻だと思うんだけどね、このままじゃケンジ裸も同然だからなぁ、どんな能力にしようかね?」とチワワ姿のフエ。
「やっぱ電撃とか? 派手なやつがいい!」
「ケンジさ、派手で見映えするのは、いかにもで誰もが使ってて似たり寄ったりだろ? ケンジしか持ってない能力みたいなのがよくね?」とユタカ。
「そうそう。ユニークスキルでよくね? そっちの方が面白いし」とフエくん。
「ンー。たとえば?」と思案顔のケンジ。
「例えばだけど、自分が作ったシャボン玉の中に自分が入っちゃうだとかさ」
「なにそれ? シャボン玉の中に入ってどうすんだよ!」
「いやいや、バリヤだよ、一切敵の攻撃を許さない、無効にしてしまうんだ」
「そりゃいいけど、攻撃できないならいつまでたっても敵を倒せないじゃん」
「いやだから、敵の攻撃をシャボン玉が吸収してしまうんじゃないんだ。そのまま跳ね返して敵を攻撃する、つまり、敵が技を繰り出し攻撃すればするほど自分がその技で攻撃されることになる」
「そういうのあればいいなぁって話でしょ?」
「そうだけど? みんなそれが最初でしょ。こういうスキルあればいいなぁっていう純粋な気持ち大切だよね?」
「フエちゃん、まぁまぁそう熱くならずに。ケンジもあれだぞ? 折角フエちゃんが考えてくれるっていうんやからさ、感謝しろや」
「いや、もちろんありがたいけど。つーかさ、わざわざ新手のスキル開発しなくてもよくね? 時間かかるっしょ」
「それがそうでもない。うまくいけばすぐさま出来ちゃったりするわけだよ、これが」
「うまくいけばか。じゃ、とりあえずそのシャボン玉のやつでいいから、お願いします」
「あーそう? いま適当に考えたやつだから、もっとちゃんと考えた方がいいと思うんだけど」
「は? なんでまた?」
「いや、考えたやつがうまくいけばそのまま形になるわけだけれど、やっぱり設計図がね、しっかりしてないとまるっきり役立たないハメになるからだよ」
「そうなの? そんなに面倒くさいわけ?」
「あのね、魔法だぞ? 魔法なめてんなよ?」
すると、不意にフエくんの流暢な日本語が、ただのチワワだかミックスの吠え声に変わってしまった。
むろん、何を言ってるのかわからない。ひとしきりワンワン、キャンキャン牙をむいて鳴きまくるフエをユタカとケンジはなすすべもなく見つめるほかなかった。
「なんなんだよ、いったい?」とユタカ。
「いや、チワワはキレやすいって聞いてたけど、ほんとうなんだな。たぶんさ、これ、キレると素のチワワに戻っちゃうってやつじゃねーの?」
「そうなんだ? じゃ、やっぱりチワワのモンスターにはちがいないんだね」
「チワワの性格マンマ引きずってる感じかな」
「ま、だから放置playで。好きなだけ吠えたら気がおさまるんじゃね」
「そうなのか? それならうれしいけど」
「当の本人は、キレてるから自分がチワワに戻って吠えてるのか、人語を喋ってるのか認識してないんちゃう?」
「そんなところなのかもね、ならやっぱほっとくのがいちばんだな」
そういって、ユタカとケンジのふたりは、何度も後ろ足で立ち上がりながら、あるいは、円を描くように走りながら吠えまくるフエくんに背を向けて、軽く途方に暮れていた。
すると、ほどなくして
「おい、おい、ひどいなぁ。無視しないでよね」と、再びフエくんが話しかけてくるのが聞こえてきた。
少しは落ちついたらしい。
「何、つまり興奮したりキレたりするとチワワに完全に戻っちゃうわけ?」
「いや、そうらしいんだよね。自分じゃ意識してないんだけど、自然にそうなっちゃうみたいで」
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