クリシェ

トリヤマケイ

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魔王編

磁石

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「しかし」とケンジ。

「さっきのモンスターはいったいなんだったんだ?」

「わからない。ここはなんでもありの異世界だから。たぶん本人も自分がなんなのかわかってはいないと思うね」

「ミュータントってやつか」

「そう。それも個体がひとつひとつまったく違う、性格は変わらずに元のままだろうけれど、姿形が各々異なっている」

「でもなんで、この洞窟っていうかダンジョンから出てきたんだよ?」とケンジ。

「よくわからないけどね、可能性としては瞬間移動できる何か仕掛けがあるのかもしれない」

「あーだから、ここにいるはずもないモンスターが飛び出してきたってわけか?」

「だね、たぶんそうだと思う。このダンジョンにさっきみたいな見たことない奇妙なモンスターいるはずないんだよ。前にオレここ入ったことあるからさ。いったい誰が何のためにそんな仕掛けだか、仕組みを作ったのかな」

「なるほど、ちゃんとした目的があるということか。じゃ、あのモンスターのほかに誰かいるってことだね、仕掛けを作ったやつが」

「そうだと思う。もしそうではなくてダンジョンの底の方であの湖とつながっているという可能性も考えられなくもないけれど、そうだとしたらわけわからない新種のモンスターの巣窟になっているのかもしれない」

「湖につながってたらダンジョンも水浸しだよ?」

「いや、だから湖のそばの崖まで横穴があるとかだよ」

「うーん。そうなるとだよ、ダンジョンのヒエラルキーっていうの?   勢力図が変わってきていると考えた方がいいよね?」

「そこなんだよな、問題は。そうだとしたら、スキルがないケンジには危険すぎるエリアということになる」

「それを確かめるには、ダンジョンに踏み込むしかないというね、なんとも皮肉なことに」

「そう。まあ、今回は下見だし無理して入る必要もないだろ、帰ろうぜ」

  というわけで、とりあえずは当初の目的を果たしたのでふたりは撤退することにした。

  ユタカは、手っ取り早く小型のモンスターでも手名付けようと思って、ちょい待っててや、とケンジに言い置いてダンジョンの入り口に向かった。

   ドラゴンスライムみたいなやつがいればちょうどいいんだが。空を飛んでくに限るぜと独り言しながら、ダンジョンへと入ろうとした、その刹那、ユタカは立っている土の中へとめり込みそうなくらいに、身体が重くなって立っていられなくなった。

   実際、ユタカは磁石で固定されてしまったように倒れたままの格好で、指一本動かせないのだった。

  ケンジはユタカに駆けよろうとしたが、すぐにユタカに止められた。
「ケンジ、こっちに来るな!」

  見えない敵の攻撃に違いなかった。金縛りになったようにユタカは地面に突っ伏したまま身動きできない。

   ケンジはユタカを助けようにも近づくこともできずにジリジリとした気持ちで地面に貼り付けられているユタカを見ていることしか出来ない自分が情けなくて仕方なかった。

  ユタカには守護霊のアーガスがついているのだから、アーガスの発動を待つしか手立てはない、そうケンジは思った。

  ただ、その頼みの綱であるアーガスが一向に出現しないのだった。ほんとうに危ない時ではないとアーガスは現れないとユタカは言っていた。

   しかし、これが絶体絶命じゃなかったら、いったい何が絶体絶命なのか!  まだ絶体絶命のレベルに達してないっていうのか?

  その時、ケンジの脳裏に夏の日にゆらゆらと揺らめく陽炎を見た記憶がまざまざと蘇った。

  今、まさにその時見た陽炎みたいな揺らめきがユタカの体全体を覆い尽くし、揺らめく炎のように揺らめいていたからだ。

  強力な磁場が発生しているんだとケンジは理解した。とんでもないモンスターだ、磁石の化け物なのだろうか。磁石と何か動物が一体化したみたいな?

  ケンジはそのフォルムを想像できなかったが、やがてソイツは現れるだろうと思った。

   蜘蛛が自分の周りに張り巡らせた蜘蛛の糸のネットにまんまと引っかかり雁字搦めになって身動き出来ない獲物を捕食する時のように、敵はもうすでに余裕のよっちゃんなのだ。

   蜘蛛の糸のネットに捕らえられたら最後、足掻けば足掻くほど糸は絡み付くばかりなのだ。

  羽虫やら蝶やらに絡みついた粘着質の蜘蛛の糸は解けるわけもなく、ただあとはもう諦めて捕食される、その時を待つしかないのだった。
   
   ユタカもこのままでは食われてしまう。アーガスはどうした?   アーガスはいったいいつ現われるんだ!  これが絶体絶命じゃないというのか!

   ケンジは腹が立って仕方なかったが、アーガスが発動しない理由があるのかもしれないと考え直した。

  つまり、その可能性大なのは、アーガスにもやはり弱点があり、それが磁石だったとか?  

  そのケースならば、アーガスが出現したくても出現できないということになる。たまたま、アーガスの弱点を突くモンスターが現われるなんて、タイミングが悪すぎだが、そんなこともあるのかもしれない。そういうことならば、アーガスが発動したくても発動できないことは理解できる。

  となると、アーガスもユタカと同じように地面に貼り付いたままなのかもしれない。


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