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魔王編
認識
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「ということで、ケンジ。いろいろ面倒くさい訓練がかなりあるわけだけれど、ぶっ飛ばしていくから、ついてこいよなok?」
「あーわかったよ。魔法を使えるようになるんだから、飽き性なオレも頑張ります」
「あ、ケンジ頑張らなくていいから。じゃ、とりあえずこの場所はわかったよね、この洞窟がダンジョンの出入口だから。どんどん下に降りていくに従って魔物の強さも増していくからさ。とりあえず階層1は、アルミラージとスライムくらいかな」
「アルミ?」
「ま、一角ウサギだな。可愛いけど油断してるとやられるぞ?」
「わかった。で、どんな技教えてくれるのさ?」
「は? そんなのまだまだ先の話。先ずはケンジの常識をぶっ壊さないとな。じゃ、まずだなこの崖から飛び降りてみようか」
ユタカは、くるりと後ろを振り返りながら事もなげにそういってニンマリと笑った。
断崖絶壁のてっぺんではないにせよ、相当な高さだ。落ちたら骨折どころの騒ぎじゃすまないのは確かだろう。
ケンジは、目をひん剥いて驚いた。
「はい? 飛び降りる? ユタカなに冗談言ってんだよ」
「冗談じゃないから。さ、やりますか? やりませんか?」
ケンジは完全に腰が引けている。崖の方を見ようともしない。
「ていうか、いったい何の意味があるのさ? 飛び降りたら死ぬだけだろが」
「そう。物理的にいったらケンジの肉体は脳挫傷やら内臓破裂に膝やら肘から骨が突き出してもうボロ雑巾みたくなって転げ落ちてくだろうね、最終的にただの肉のかたまり」
いつしかケンジの顔は血の気が引いて蒼ざめはじめる。言葉はない。ユタカが冗談でこんなことを言っているのではないということが、わかりすぎるほどわかるからだった。
魔法を使えるようになるために、そんな破滅的な修行があるなんてついぞ聞いたためしがない。
すでにケンジは魔法をやりたいなんて言ったことを後悔しはじめていた。軽はずみに魔法が使いたいなどと言わなきゃよかったと思いはじめている自分が情けなくもあったが、外敵から身を守るために魔法を習得したいのであって、習得のために死んでしまったのでは元も子もないのだ。
ケンジは俯いたまま、赤茶けた土くれを見つめていた。どうしたらいいんだろう。
「あのさ、ユタカ。とりあえずさ、この修行は後回しでよくね?」
「ハハハ」
ユタカは、乾いた笑い声を上げる。
「ケンジ、おまえマジでやる気あんのかよ、魔法なめてんなよ?」
「いや、なめてなんかないし、でも、ほら、ほかにも何か訓練あんだろ? いきなし崖から飛び降りろは、ないワァ」
「ケンジ、オモロ~。ま、たしかにね、そうなんだけどね」
「いったい崖から飛び降りるのにどんな意味があるのさ? 全然、魔法と関係ないじゃんよー」
「や、わかった? ケンジくん気づいちゃった? マジで魔法とは無関係」
「えー!!! なんすかソレ!」
「いや、ただね魔法をこれから習得していくためには、いわゆる人間の常識は捨て去らないと埒があかないよってことなんだよ」
「拉致? らちる? 誰を?」
「そうじゃなくて、とにかく物理法則に縛られているうちは、絶対に魔法なんて出来っこないということ」
「はあ? 物理法則?」
「そうさ。人が空を飛べないのは無論物理法則があるからじゃないわけだけど、物理法則は後から人間がこういうものなんだなって確認したもので、確かに人は空を飛べないけれど、飛べなくしているのは人間自身なんだよね」
「それどういうこと? ほんとうは人間は空を飛べるってこと?」
「ご名答。飛べます。まあ、鳥みたいにバタバタ羽ばたくわけじゃないけど、瞬間移動的な?」
「あー。でも、それと物理法則云々というのはどう関わってくるわけ?」
「つまり。ヒトには生れながら脳に時間と空間があるという認識が埋め込まれている。時間と空間を認知するのではない。はじめから時間と空間があるという
認識がある。
で、言わずもがなだけど、認識こそがすべてなわけだよね?
だから、この事の意味は何なんだろうと考えていた。例えばアコギの生音にエフェクトをかけて全く別な音に加工する、女性の声を男性の声に変える、みたいな事を脳が自動で行なっている。
人のいわゆる知覚というのは、ダイレクトではなく、すべて脳を経由して自動で再構築されたものを認識する。
しかし、そもそもそれが現実世界と言われているものの再構築なのかすらわからない。つまり時間と空間の形式が既に組み込まれている脳で世界がはじめて構築されているのかも知れないということ。
それで異世界モノのチート能力に話は戻るけれど、あの全知全能並みのチートは実はチートではないのではないか。
何の努力もしないで楽々手に入れた能力。時間を停止させてしまうとかアイドル以上に綺麗でスタイルのいい好みの女子を集めてハーレム作って好きなだけヤリまくるであるとか、バカ丸出しの荒唐無稽さは実は荒唐無稽ではないのかも知れないということ。
つまり、生まれ落ちた時から脳に織り込み済みの時間と空間の形式の認識というのは世界を再構築する際の縛りではないのか、という事を言いたいわけ」
「ユタカパイセン、一生ついていきます!」
「つまり、実のところ人には無限の能力が備わっていて本当は人が考える事は全て可能なのではないか。
それを規制するために脳にいわゆる「タガ箍」が嵌められているのではないか。そのタガを外してしまえば人はほんとうに自由で変幻自在、行くとして可ならざるなしの存在なのではないか。
つまりは神にも悪魔にもなれるわけであり好き勝手に無双やられては困るのは明白だからタガが嵌めてあるという感じじゃないかな。
とどのつまり、行き着くところは、結局「脳」なわけなんだよね。世界の認識は勝手に脳がやっているわけだから脳内の縛りを外してしまえばアニメの中でしか可能ではないと思われている事、不死身であるとか巨大化するとかも朝飯前となる。
そんな風にオレは考えているんだよね」
「あーわかったよ。魔法を使えるようになるんだから、飽き性なオレも頑張ります」
「あ、ケンジ頑張らなくていいから。じゃ、とりあえずこの場所はわかったよね、この洞窟がダンジョンの出入口だから。どんどん下に降りていくに従って魔物の強さも増していくからさ。とりあえず階層1は、アルミラージとスライムくらいかな」
「アルミ?」
「ま、一角ウサギだな。可愛いけど油断してるとやられるぞ?」
「わかった。で、どんな技教えてくれるのさ?」
「は? そんなのまだまだ先の話。先ずはケンジの常識をぶっ壊さないとな。じゃ、まずだなこの崖から飛び降りてみようか」
ユタカは、くるりと後ろを振り返りながら事もなげにそういってニンマリと笑った。
断崖絶壁のてっぺんではないにせよ、相当な高さだ。落ちたら骨折どころの騒ぎじゃすまないのは確かだろう。
ケンジは、目をひん剥いて驚いた。
「はい? 飛び降りる? ユタカなに冗談言ってんだよ」
「冗談じゃないから。さ、やりますか? やりませんか?」
ケンジは完全に腰が引けている。崖の方を見ようともしない。
「ていうか、いったい何の意味があるのさ? 飛び降りたら死ぬだけだろが」
「そう。物理的にいったらケンジの肉体は脳挫傷やら内臓破裂に膝やら肘から骨が突き出してもうボロ雑巾みたくなって転げ落ちてくだろうね、最終的にただの肉のかたまり」
いつしかケンジの顔は血の気が引いて蒼ざめはじめる。言葉はない。ユタカが冗談でこんなことを言っているのではないということが、わかりすぎるほどわかるからだった。
魔法を使えるようになるために、そんな破滅的な修行があるなんてついぞ聞いたためしがない。
すでにケンジは魔法をやりたいなんて言ったことを後悔しはじめていた。軽はずみに魔法が使いたいなどと言わなきゃよかったと思いはじめている自分が情けなくもあったが、外敵から身を守るために魔法を習得したいのであって、習得のために死んでしまったのでは元も子もないのだ。
ケンジは俯いたまま、赤茶けた土くれを見つめていた。どうしたらいいんだろう。
「あのさ、ユタカ。とりあえずさ、この修行は後回しでよくね?」
「ハハハ」
ユタカは、乾いた笑い声を上げる。
「ケンジ、おまえマジでやる気あんのかよ、魔法なめてんなよ?」
「いや、なめてなんかないし、でも、ほら、ほかにも何か訓練あんだろ? いきなし崖から飛び降りろは、ないワァ」
「ケンジ、オモロ~。ま、たしかにね、そうなんだけどね」
「いったい崖から飛び降りるのにどんな意味があるのさ? 全然、魔法と関係ないじゃんよー」
「や、わかった? ケンジくん気づいちゃった? マジで魔法とは無関係」
「えー!!! なんすかソレ!」
「いや、ただね魔法をこれから習得していくためには、いわゆる人間の常識は捨て去らないと埒があかないよってことなんだよ」
「拉致? らちる? 誰を?」
「そうじゃなくて、とにかく物理法則に縛られているうちは、絶対に魔法なんて出来っこないということ」
「はあ? 物理法則?」
「そうさ。人が空を飛べないのは無論物理法則があるからじゃないわけだけど、物理法則は後から人間がこういうものなんだなって確認したもので、確かに人は空を飛べないけれど、飛べなくしているのは人間自身なんだよね」
「それどういうこと? ほんとうは人間は空を飛べるってこと?」
「ご名答。飛べます。まあ、鳥みたいにバタバタ羽ばたくわけじゃないけど、瞬間移動的な?」
「あー。でも、それと物理法則云々というのはどう関わってくるわけ?」
「つまり。ヒトには生れながら脳に時間と空間があるという認識が埋め込まれている。時間と空間を認知するのではない。はじめから時間と空間があるという
認識がある。
で、言わずもがなだけど、認識こそがすべてなわけだよね?
だから、この事の意味は何なんだろうと考えていた。例えばアコギの生音にエフェクトをかけて全く別な音に加工する、女性の声を男性の声に変える、みたいな事を脳が自動で行なっている。
人のいわゆる知覚というのは、ダイレクトではなく、すべて脳を経由して自動で再構築されたものを認識する。
しかし、そもそもそれが現実世界と言われているものの再構築なのかすらわからない。つまり時間と空間の形式が既に組み込まれている脳で世界がはじめて構築されているのかも知れないということ。
それで異世界モノのチート能力に話は戻るけれど、あの全知全能並みのチートは実はチートではないのではないか。
何の努力もしないで楽々手に入れた能力。時間を停止させてしまうとかアイドル以上に綺麗でスタイルのいい好みの女子を集めてハーレム作って好きなだけヤリまくるであるとか、バカ丸出しの荒唐無稽さは実は荒唐無稽ではないのかも知れないということ。
つまり、生まれ落ちた時から脳に織り込み済みの時間と空間の形式の認識というのは世界を再構築する際の縛りではないのか、という事を言いたいわけ」
「ユタカパイセン、一生ついていきます!」
「つまり、実のところ人には無限の能力が備わっていて本当は人が考える事は全て可能なのではないか。
それを規制するために脳にいわゆる「タガ箍」が嵌められているのではないか。そのタガを外してしまえば人はほんとうに自由で変幻自在、行くとして可ならざるなしの存在なのではないか。
つまりは神にも悪魔にもなれるわけであり好き勝手に無双やられては困るのは明白だからタガが嵌めてあるという感じじゃないかな。
とどのつまり、行き着くところは、結局「脳」なわけなんだよね。世界の認識は勝手に脳がやっているわけだから脳内の縛りを外してしまえばアニメの中でしか可能ではないと思われている事、不死身であるとか巨大化するとかも朝飯前となる。
そんな風にオレは考えているんだよね」
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