クリシェ

トリヤマケイ

文字の大きさ
上 下
52 / 72
魔王編

認識

しおりを挟む
「ということで、ケンジ。いろいろ面倒くさい訓練がかなりあるわけだけれど、ぶっ飛ばしていくから、ついてこいよなok?」

「あーわかったよ。魔法を使えるようになるんだから、飽き性なオレも頑張ります」

「あ、ケンジ頑張らなくていいから。じゃ、とりあえずこの場所はわかったよね、この洞窟がダンジョンの出入口だから。どんどん下に降りていくに従って魔物の強さも増していくからさ。とりあえず階層1は、アルミラージとスライムくらいかな」

「アルミ?」

「ま、一角ウサギだな。可愛いけど油断してるとやられるぞ?」

「わかった。で、どんな技教えてくれるのさ?」

「は? そんなのまだまだ先の話。先ずはケンジの常識をぶっ壊さないとな。じゃ、まずだなこの崖から飛び降りてみようか」

   ユタカは、くるりと後ろを振り返りながら事もなげにそういってニンマリと笑った。

  断崖絶壁のてっぺんではないにせよ、相当な高さだ。落ちたら骨折どころの騒ぎじゃすまないのは確かだろう。

  ケンジは、目をひん剥いて驚いた。

「はい?  飛び降りる?  ユタカなに冗談言ってんだよ」

「冗談じゃないから。さ、やりますか? やりませんか?」

 ケンジは完全に腰が引けている。崖の方を見ようともしない。

 「ていうか、いったい何の意味があるのさ?  飛び降りたら死ぬだけだろが」

「そう。物理的にいったらケンジの肉体は脳挫傷やら内臓破裂に膝やら肘から骨が突き出してもうボロ雑巾みたくなって転げ落ちてくだろうね、最終的にただの肉のかたまり」

  いつしかケンジの顔は血の気が引いて蒼ざめはじめる。言葉はない。ユタカが冗談でこんなことを言っているのではないということが、わかりすぎるほどわかるからだった。

  魔法を使えるようになるために、そんな破滅的な修行があるなんてついぞ聞いたためしがない。

  すでにケンジは魔法をやりたいなんて言ったことを後悔しはじめていた。軽はずみに魔法が使いたいなどと言わなきゃよかったと思いはじめている自分が情けなくもあったが、外敵から身を守るために魔法を習得したいのであって、習得のために死んでしまったのでは元も子もないのだ。

  ケンジは俯いたまま、赤茶けた土くれを見つめていた。どうしたらいいんだろう。

「あのさ、ユタカ。とりあえずさ、この修行は後回しでよくね?」

「ハハハ」

ユタカは、乾いた笑い声を上げる。

「ケンジ、おまえマジでやる気あんのかよ、魔法なめてんなよ?」

「いや、なめてなんかないし、でも、ほら、ほかにも何か訓練あんだろ?  いきなし崖から飛び降りろは、ないワァ」

「ケンジ、オモロ~。ま、たしかにね、そうなんだけどね」
 
「いったい崖から飛び降りるのにどんな意味があるのさ?   全然、魔法と関係ないじゃんよー」

「や、わかった?  ケンジくん気づいちゃった?  マジで魔法とは無関係」

「えー!!! なんすかソレ!」

「いや、ただね魔法をこれから習得していくためには、いわゆる人間の常識は捨て去らないと埒があかないよってことなんだよ」

「拉致? らちる?  誰を?」

「そうじゃなくて、とにかく物理法則に縛られているうちは、絶対に魔法なんて出来っこないということ」

「はあ?  物理法則?」

「そうさ。人が空を飛べないのは無論物理法則があるからじゃないわけだけど、物理法則は後から人間がこういうものなんだなって確認したもので、確かに人は空を飛べないけれど、飛べなくしているのは人間自身なんだよね」

「それどういうこと?  ほんとうは人間は空を飛べるってこと?」

「ご名答。飛べます。まあ、鳥みたいにバタバタ羽ばたくわけじゃないけど、瞬間移動的な?」

「あー。でも、それと物理法則云々というのはどう関わってくるわけ?」

「つまり。ヒトには生れながら脳に時間と空間があるという認識が埋め込まれている。時間と空間を認知するのではない。はじめから時間と空間があるという
認識がある。

  で、言わずもがなだけど、認識こそがすべてなわけだよね?   

  だから、この事の意味は何なんだろうと考えていた。例えばアコギの生音にエフェクトをかけて全く別な音に加工する、女性の声を男性の声に変える、みたいな事を脳が自動で行なっている。

   人のいわゆる知覚というのは、ダイレクトではなく、すべて脳を経由して自動で再構築されたものを認識する。

   しかし、そもそもそれが現実世界と言われているものの再構築なのかすらわからない。つまり時間と空間の形式が既に組み込まれている脳で世界がはじめて構築されているのかも知れないということ。

   それで異世界モノのチート能力に話は戻るけれど、あの全知全能並みのチートは実はチートではないのではないか。

   何の努力もしないで楽々手に入れた能力。時間を停止させてしまうとかアイドル以上に綺麗でスタイルのいい好みの女子を集めてハーレム作って好きなだけヤリまくるであるとか、バカ丸出しの荒唐無稽さは実は荒唐無稽ではないのかも知れないということ。

   つまり、生まれ落ちた時から脳に織り込み済みの時間と空間の形式の認識というのは世界を再構築する際の縛りではないのか、という事を言いたいわけ」

「ユタカパイセン、一生ついていきます!」

「つまり、実のところ人には無限の能力が備わっていて本当は人が考える事は全て可能なのではないか。

   それを規制するために脳にいわゆる「タガ箍」が嵌められているのではないか。そのタガを外してしまえば人はほんとうに自由で変幻自在、行くとして可ならざるなしの存在なのではないか。

   つまりは神にも悪魔にもなれるわけであり好き勝手に無双やられては困るのは明白だからタガが嵌めてあるという感じじゃないかな。

   とどのつまり、行き着くところは、結局「脳」なわけなんだよね。世界の認識は勝手に脳がやっているわけだから脳内の縛りを外してしまえばアニメの中でしか可能ではないと思われている事、不死身であるとか巨大化するとかも朝飯前となる。

 そんな風にオレは考えているんだよね」










しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

処理中です...