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魔王編
修行 ディシプリン? プラクティス?
しおりを挟む「まあ、だからチートといえばチートなのかもしれないけど、よしんば、うまくいって望み通りの美しい顔や、トレーニングや修練をまったく積んでいないのにビスケット・オリバみたく強靭な肉体を手に入れられたとしても、やがてその美貌やら肉体美に相応しくない想念の持ち主には、そう長く美貌やシックスパックとかの筋肉を保っていられなくなる。
つまり早晩、想念通りの虫ケラとかつまらないモンスターにメタモルフォーゼしてしまうんだよね。ふつうのヒトだって実はそうなんだ、ただその変化が遅いからね、ほぼわからないらしい。
つまり人間だって狡猾なやつは、そういう面貌になっていくし、執着が強すぎるやつはヘビみたいな顔に変わっていくんだよ、ただ、ここではその変化が早いし大きいんだよ。目つきがちょっと悪くなるとかの変化じゃないからね、ハッキリと別な生き物に変身してしまうんだ。
でも、ケンジはよく知ってるだろ、ヒトの世界でもチートがあるって」
「はい? まあね、一般の人には知られていないだけで、魔法使いとかはいるだろうとは、俺個人としては思ってるけどね、ハリーポッターとか好きだし、あ? ユタカは知らないよな、ごめん。けどね、童貞から妖精を経ての魔法使いというルートがあるとかの冗談はさておき、実際にどこかはわからないけど、現実に魔法学校があるようなこと聞いたことあるけどね、一般的にチートなんてありえないよ?」
「いや、あるだろ。それもすごい身近に。美容整形なんてチートそのものだろ」
「あー、それはたしかに。でも、よく知ってるね、そんなこと」
「まあね、オレは人間に憧れてるからさ」
「そうなの? 人間はユタカみたく魔法だか念だか全然使えないよ?」
「そりゃそうだけど、ケンジがオレはうらやましくて仕方ないよ。知ってるか、人間て最高で至高の存在なんだぞ?」
「マジ? でも俺はただの人間なんかよりハリーポッターみたく魔法使えた方が全然いいな。だって魔法使えたら楽しいじゃん」
「おまえね、そんな甘いもんじゃないんだって。肉体を有して現実世界に生きるってことは、ほんとうにすごいことでそれ自体奇跡みたいなもんなんだぜ」
「そうなの。オレは空とか飛びたい」
とそこで、ふたりはやっと洞窟の前へとたどり着いた。
洞窟の入り口は、ケンジの予想に反したいして大きくはなかった。ユタカから巨大なダンジョンの出入口と聞いていたからだ。
「なんか見た目ちょっとしたほら穴的な感じだけど、こんなところにほんとうにダンジョンあるんかい?」
「あるんだよな、それが。それも巨大ダンジョン。まあ、よくは知らないんだけど、100階層はあるはず」
「マジかよ。それでウチらはどうするってわけ? ユタカはともかくオレは武器もないし、技もないし丸裸なんだけど?」
「だからさ、連れて来たんだよ。ケンジ魔法使いとか念使いになりたいんだろ?」
「それな! オレ、キルアみたいな変化系の念能力者になりたい。てのひらから電気を発するんだ」
「なるほどね。でもそのキルアだってはじめから能力使えたわけじゃないんだろ? それ相応の訓練をしたはずだよな?」
「それはそう。なんだけど、つまり?」
「つまり。ここでケンジは修行するべし。だから連れてきたんだよ」
「マジすか?」
「マジです」
「てか、今さらだけどユタカ、日本語うまいアルネ?」
「それはそう。母ちゃんが日本人だから。とにかくだな、ケンジはリカちゃんを守らなきゃいけないんだから、ここでしっかり修行しろや。ただし、マジ厳しいぞ?」
「それは、確かに守らなきゃいけないんだけど、最初から脅かさないでくれよ? そんなに厳しいわけ?」
「まあ、だからここなわけ。ここは階層を降りるに従って難易度が変わっていくから、徐々に慣れていけるんだよ」
「それは助かります。でも武器はどうすんのさ?」
「だからさ、洞窟に入る前にケンジに技をいくつか伝授するよ。きょうはとりあえず場所だけ確認とちょっと下見というわけさ」
「なるなる。ありがとうユタカ。でも最初は補佐的についてきてくれるんだろ? マジでいきなりソロはちょっと」
「それは任せて。ちゃんとサポートするから。じゃないとマジ、ケンジ死ぬかもしれないからな」
「怖いことをこともなげに言うなぁ」
「いや、だから訓練しておけば大丈夫だって。念使いになりたいんだろ?」
「それはね、まあ、そう。楽して念能力を得たいというのはダメなんすかね、ユタカパイセン?」
「いや、それでいいならいいけど、ここはほら、現代日本のような女の子が夜街をひとりで歩いていても全然安心な治安のいいところじゃないんだよ? いつ魔物が襲ってきてもおかしくはない世界なんだから、自分の身は自分で守らなきゃね。ましてケンジにはリカちゃんがいるんだし」
「はい。そうでした。友人たちはみんなゴブリンやら巨大蜘蛛の餌食になって死んでいったのでした」
「そうだろ。ここでは人間世界と違って確かにケンジもなにがしかの能力を身につけないと、それは即ち死を意味するからな」
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