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魔王編
禁断のアケビ
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翌日。
ケンジは、ユタカに誘われてちょっとした狩に出かけることにした。
リカもついて来たがったが、ユタカにピシャリと断られてしまった。
「ちょい、危ない場所もあるからお留守番しててよ」
リカもそれ以上は、言ってこなかったが、その顔には一緒に行きたいという不満げな様子がありありと見てとれた。
あのユタカの巨大なペットに今日も乗っていくのかと思っていたら、今日はダチョウによく似た鳥のモンスターだった。
「あのデカい恐竜みたいなやつは、今日はエルフに貸したんだ。ま、これから行くとこは、ひと山、山を越えたところでそんなに遠くはないから」
ユタカはそういった。
「それで、狩りって何を狩るわけ?」
「ツノうさぎとか、名前はわからないけどネズミのモンスターとか齧歯類のモンスターが主かな」
「いや、でもウサギは歯が一生伸び続けるけど齧歯類じゃないって聞いたけど?」とケンジ。
「そんなんだよね、確かに昔はどちらも齧歯目に分類されていたらしいよ。でも20世紀に入ってから新たにウサギは重歯目に別けられたみたいだよ」
「そうなんだ。ユタカくん詳しいんだね」
「いや、全部マテウスの受け売り。ていうか、ユタカでいいよ?」
「マテウス?」
「ああ、300年近く生きてるらしいから物識りなんだ、エルフのマテウス・サンドロ・ナジァパルトだよ」
「カッケー、おれもミドルネームほしいな、そういや、ユタカくん、あ、ユタカは?」
「俺はね、別になし。でも、ヒトみたいな名前は気に入ってる。あーウサギの話しに戻すと、ウサちゃんの上の門歯(前歯)は齧歯目と違い前後に二重にあるので、重歯目に別けられたらしい。分類上は遠くなっちゃったみたいだけど、でもまあ、近いよねネズミとウサギ」
「そうなんだ。いや、またひとつ勉強になりました。テストに出たらいいんだけど、もうテストともオサラバかな」
「テスト? あ、そろそろ見えくるはずだよ。あそこの地層が露出してシマシマになってる切り立った崖が目印なんだ」
そういって、ユタカが指差した先には奇妙な形の崖が確かにあった。地層が露出して目立っている以前に、何やら存在自体がおかしかった。
「とにかく不思議なところでね、ここら辺は雨季と乾季があって、ついこの間までは、ずっと雨が降り続けてたんだ。で、ほんの短い間だけ乾季になるんだけど、そのタイミングであの崖が姿を現わすんだよ」
「なにそれ? ふだんはインビジブルってわけ?」
「あー、ほんとうに見えないんだよ、もっともスコールの後で濃霧が発生するからかもしれないんだけどさ。その時はほんとうに幻想的な光景に見惚れちゃほどなんだよね」
ユタカとケンジは、やがて切り立つ崖の前までやってきた。
「実はあの崖の中腹あたりに洞窟があるんだよ。そこまで登って行かなきゃならないんだけど、だから、ここからは歩いてく」
そういって、ユタカはダチョウのモンスターから降りると、ちゃんと帰れよとダチョウを促すように背中? をパンと叩いた。
「え? 帰りの足ないじゃん」とケンジ。
「おれを誰だと思ってるの? こう見えてテイマーだぜ。なんとかなるって」
「モンスターを簡単に手なずけるってか、すごいよな、ユタカは」
「へへへ。それよりさ、あれ見て」
ユタカが指差した彼方には、宝石の煌めきめいた、エメラルドグリーンに輝くの湖水らしきものが見えた。
「まだ、夜じゃないから見れないんだけどさ、夜になって二つの月が湖面に静かに横たわるようにしてゆらゆらと煌めきはじめると、あのエメラルドグリーンに光り輝く湖水から、半分カラスミ色した半透明な奴らが抜け出してくるんだ。
湖は、枯れたカラマツ林の東端にあり、あらたにヒトからケモノじみたミュータントへと浸潤するように、あるいは親和するように突然変異した、ていうか転生した、ナマケモノやらオロチやらショウジョウに似た者たちや、見たこともないようなモンスターたちが、うじゃうじゃ犇いてる。
想像力がさほどないものは、既製の動物に似た者になる傾向があるらしい。かといって見たこともないようなやつは、じゃあ、想像力があったのかというと、そんなこともなくて、ただ単におぼろげながらもこんな容姿になりたいというのがまったくないノープランだから、結局カオスなわけわからないカタチになったというだけ」
「あの湖にそんな神秘的なパワーがあるってこと?」
「いや、たぶん湖もだけれど、ふたつの月と関係があるんだと思う。月夜の晩、それも満月の日。だからなかなか巡ってこないんだな、ふたつの月が共に満月という日はね、その特別な夜に転生してくるんだよ」
「なるほど、てかどこから?」
「元の世界から。腐りかけのパイナップル入り酢豚みたいに、脳味噌が蕩けるほど旨いと噂されているバーガンディの……馬酔木じゃなくって、たしかアケビ。そう、そのアケビを食べると、再びヒトに戻れるといわれているから、自分の新しい容姿に衝撃を受けた彼らは必死になってそれを捜しているんだよね」
そして、その禁断のアケビを食べてまた転生するんだ、嫌だったはずの人間に。でも、またぞろ引きこもりとか、よくてもドルオタとかになって、年齢=恋人いない歴の童貞のまま、こんな嫌な世界から異世界に転生してハーレム作って破茶滅茶やりたいなんて、甘いこと考えてるヤツらはわけわからない虫みたいなやつとか、獣じみた考えだったやつは、その想念通りの面貌のモンスターに転生してしまう。チートなんてありゃしない」
「なんでさ? 自分の好きなようにメタモルフォーゼしたんじゃないの?」
「まあ、ある程度は許されてるけれど、やがて自分の想念通りになってしまうんだよ、固定されてはいなくて結局は醜い想念のやつは、それなりの容姿になってしまうんだ」
ケンジは、ユタカに誘われてちょっとした狩に出かけることにした。
リカもついて来たがったが、ユタカにピシャリと断られてしまった。
「ちょい、危ない場所もあるからお留守番しててよ」
リカもそれ以上は、言ってこなかったが、その顔には一緒に行きたいという不満げな様子がありありと見てとれた。
あのユタカの巨大なペットに今日も乗っていくのかと思っていたら、今日はダチョウによく似た鳥のモンスターだった。
「あのデカい恐竜みたいなやつは、今日はエルフに貸したんだ。ま、これから行くとこは、ひと山、山を越えたところでそんなに遠くはないから」
ユタカはそういった。
「それで、狩りって何を狩るわけ?」
「ツノうさぎとか、名前はわからないけどネズミのモンスターとか齧歯類のモンスターが主かな」
「いや、でもウサギは歯が一生伸び続けるけど齧歯類じゃないって聞いたけど?」とケンジ。
「そんなんだよね、確かに昔はどちらも齧歯目に分類されていたらしいよ。でも20世紀に入ってから新たにウサギは重歯目に別けられたみたいだよ」
「そうなんだ。ユタカくん詳しいんだね」
「いや、全部マテウスの受け売り。ていうか、ユタカでいいよ?」
「マテウス?」
「ああ、300年近く生きてるらしいから物識りなんだ、エルフのマテウス・サンドロ・ナジァパルトだよ」
「カッケー、おれもミドルネームほしいな、そういや、ユタカくん、あ、ユタカは?」
「俺はね、別になし。でも、ヒトみたいな名前は気に入ってる。あーウサギの話しに戻すと、ウサちゃんの上の門歯(前歯)は齧歯目と違い前後に二重にあるので、重歯目に別けられたらしい。分類上は遠くなっちゃったみたいだけど、でもまあ、近いよねネズミとウサギ」
「そうなんだ。いや、またひとつ勉強になりました。テストに出たらいいんだけど、もうテストともオサラバかな」
「テスト? あ、そろそろ見えくるはずだよ。あそこの地層が露出してシマシマになってる切り立った崖が目印なんだ」
そういって、ユタカが指差した先には奇妙な形の崖が確かにあった。地層が露出して目立っている以前に、何やら存在自体がおかしかった。
「とにかく不思議なところでね、ここら辺は雨季と乾季があって、ついこの間までは、ずっと雨が降り続けてたんだ。で、ほんの短い間だけ乾季になるんだけど、そのタイミングであの崖が姿を現わすんだよ」
「なにそれ? ふだんはインビジブルってわけ?」
「あー、ほんとうに見えないんだよ、もっともスコールの後で濃霧が発生するからかもしれないんだけどさ。その時はほんとうに幻想的な光景に見惚れちゃほどなんだよね」
ユタカとケンジは、やがて切り立つ崖の前までやってきた。
「実はあの崖の中腹あたりに洞窟があるんだよ。そこまで登って行かなきゃならないんだけど、だから、ここからは歩いてく」
そういって、ユタカはダチョウのモンスターから降りると、ちゃんと帰れよとダチョウを促すように背中? をパンと叩いた。
「え? 帰りの足ないじゃん」とケンジ。
「おれを誰だと思ってるの? こう見えてテイマーだぜ。なんとかなるって」
「モンスターを簡単に手なずけるってか、すごいよな、ユタカは」
「へへへ。それよりさ、あれ見て」
ユタカが指差した彼方には、宝石の煌めきめいた、エメラルドグリーンに輝くの湖水らしきものが見えた。
「まだ、夜じゃないから見れないんだけどさ、夜になって二つの月が湖面に静かに横たわるようにしてゆらゆらと煌めきはじめると、あのエメラルドグリーンに光り輝く湖水から、半分カラスミ色した半透明な奴らが抜け出してくるんだ。
湖は、枯れたカラマツ林の東端にあり、あらたにヒトからケモノじみたミュータントへと浸潤するように、あるいは親和するように突然変異した、ていうか転生した、ナマケモノやらオロチやらショウジョウに似た者たちや、見たこともないようなモンスターたちが、うじゃうじゃ犇いてる。
想像力がさほどないものは、既製の動物に似た者になる傾向があるらしい。かといって見たこともないようなやつは、じゃあ、想像力があったのかというと、そんなこともなくて、ただ単におぼろげながらもこんな容姿になりたいというのがまったくないノープランだから、結局カオスなわけわからないカタチになったというだけ」
「あの湖にそんな神秘的なパワーがあるってこと?」
「いや、たぶん湖もだけれど、ふたつの月と関係があるんだと思う。月夜の晩、それも満月の日。だからなかなか巡ってこないんだな、ふたつの月が共に満月という日はね、その特別な夜に転生してくるんだよ」
「なるほど、てかどこから?」
「元の世界から。腐りかけのパイナップル入り酢豚みたいに、脳味噌が蕩けるほど旨いと噂されているバーガンディの……馬酔木じゃなくって、たしかアケビ。そう、そのアケビを食べると、再びヒトに戻れるといわれているから、自分の新しい容姿に衝撃を受けた彼らは必死になってそれを捜しているんだよね」
そして、その禁断のアケビを食べてまた転生するんだ、嫌だったはずの人間に。でも、またぞろ引きこもりとか、よくてもドルオタとかになって、年齢=恋人いない歴の童貞のまま、こんな嫌な世界から異世界に転生してハーレム作って破茶滅茶やりたいなんて、甘いこと考えてるヤツらはわけわからない虫みたいなやつとか、獣じみた考えだったやつは、その想念通りの面貌のモンスターに転生してしまう。チートなんてありゃしない」
「なんでさ? 自分の好きなようにメタモルフォーゼしたんじゃないの?」
「まあ、ある程度は許されてるけれど、やがて自分の想念通りになってしまうんだよ、固定されてはいなくて結局は醜い想念のやつは、それなりの容姿になってしまうんだ」
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